第25話 家の中なのにサングラス

文字数 2,192文字

毎朝、洗濯物をベランダに干すのが私の日課だ。
その日も洗濯物を干して部屋に戻ってきた私。
私を見ながら妻は歌っている。

「家の中なのに~ サングラス~」

最近、私はメガネを調光レンズ(紫外線の量によって色の濃度が変化するレンズ)にした。
ベランダから戻ってきた私のメガネがサングラス仕様になっているのだ。

念のために調光レンズの眼鏡を載せておこう。こんな感じでレンズが透明から暗色に変わる。



調光レンズに替える前まで私は度付きのサングラスをしていた。
昼に眩しくてサングラスをして、夜になってもサングラスのまま……
メガネを毎日かけている人には経験があるだろう。
私はこの状況を「夜なのにサングラス」と呼んでいる。

その点、調光レンズはとても便利だ。
紫外線に反応して自動的にサングラスになるのだ。そして、紫外線がなければ普通のメガネに戻る。
「夜なのにサングラス」を防止できる。

今になって思えば、若いときはカッコつけてサングラスをかけていたと思う。
サングラスをかけると、いつもとは違う自分になれると思ったのだ。
世間ではあの頃の私の症状を中二病というのだろう。

でもオジサンとなった今は違う。紫外線を直接浴びると目が疲れる。
炎天下で歩きスマホなんて論外だ。老眼で細かい字を見ると目が疲れるのに、さらに紫外線で目が疲れる。
もはや、オジサンの私は炎天下をサングラス無しに歩くことはできないのだ。

さて、妻は家の中にいる時、外出している時、いろんなシチュエーションで私の顔をチラチラ見ている。
正しくは私の顔ではなくメガネだ。

お年頃の妻は紫外線に敏感だ。
紫外線=シミができる
そう考えているから、常に紫外線を避けて生活をしている。

「今日は部屋の中まで紫外線が入ってきてるやん。カーテン閉めるかー」
「日陰やのに紫外線あるんやなー」
「雨降ってるのに紫外線あるやん!」

こうして、私(メガネ)は妻の紫外線測定器となるのであった。

**

さて、YouTubeに話を移そう。

私の妻は書道動画をYouTubeに投稿している自称ユーチューバーだ。そして、私は妻のアシスタントとして、妻の書く動画を撮影、編集、YouTubeに投稿している。

急にYouTubeの再生回数が激減した我が家の自称ユーチューバー。
メンタルの弱い妻の落ち込み方が半端ない。

どのような状態に陥っているかを念のために説明しよう。

①再生回数が500回以上にならない
②「いいね」や再生回数が調整される

まず、①については再生回数の制限が入っているのだと想像している。
我が家の動画の再生回数はほとんどが400~500回になっていた。多分だが、400回再生まではYouTubeがリコメンドしてくれるけど、再生回数が400回を超えるとリコメンドから除外されるのだと思う。
たまに数千回再生もあるが、数千回再生まで伸びるのはごく稀だ。

有名なユーチューバーは自力で再生回数を稼げるから特に問題ない。でも、弱小ユーチューバーはリコメンドしてくれないと再生回数が伸びない。
他のYouTube動画を見ていても、軒並み再生回数が500回未満になっていた。我が家と同じ状況にユーチューバーは陥っているのだ。

次に、②は再生回数や「いいね」の数が調整されているのだと思う。1時間前に490回再生だった動画の再生回数が390回再生に下がっていたりする。再生回数を500回以上にしないための調整なのだろうか?
とにかく謎である。

考えても分からないから、いろいろ試してみることにした。

「登録者数が500人になるまで、いろいろ試してみよか」

私は妻に提案するものの、妻は再生回数が伸びないからテンションがだだ下がりである。

「えー、そんなことしても伸びひんわー」
「試してみたらいいやん」
「じゃあ、外国人の名前を書いてみる?」

妻は私が一度提案したものの却下した「外国人の名前を漢字で書く」シリーズに興味を示した。というよりも、考えるのが面倒なのだろう。

妻が渋っていた理由は私が提案したのが横書きだからだ。
基本的に書道は縦書きだ。私の提案した横書きは書道の精神に反するらしい。
きっと、「妻にとっての横書き」は「インド人にとってのビーフカレー」と同じなのだ。

とはいえ、再生回数を復活させるためになりふり構わない妻は禁断の横書きにチャレンジする。

私は外国人の名前を提案した。

「じゃあ、最初はジョーダン(Jordan)やな」
「漢字で何て書くん?」

私は紙に『情男』と書いた。

「意味は“A man with passion”、“情熱的な男”やな!」
「なんか、エロい意味が含まれてそうやなー」
「違うわー! パッション(情熱)や、パッション!」
「エロい意味やと思われて、YouTubeさんに嫌われても知らんでー」

妻はしぶしぶ情男(Jordan)を書いた。

「次は?」
「エレン(Ellen)」
「どんな漢字?」

私は紙に『恵恋』と書いた。

「意味は“blessing love”、“愛を祝福する”みたいな」
「女の子みたいな名前やなー」
「でも、いい言葉やん」
「まぁな」

妻はしぶしぶ恵恋(Ellen)を書いた。

「次は?」
「ジム(Jim)」

私は紙に『侍武』と書いた。

「“Samurai warrior”やな!」
「それ、意味被ってない?」
「外国人は分からんやろ……多分」

こうして我が家の自称ユーチューバーとそのアシスタントは迷走していくのである。

<つづく>
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