ヤンゴンから北上② 「本当の地獄」

文字数 629文字

 やがて長い夜も終わり、地平線から朱色に輝く朝陽が見えてきた。
 周りの風景が鮮明になっていくと、水牛のような家畜動物のシルエットも浮き彫りになってきた。
 この頃になると私は、周りのミャンマー人たちと目が合っても怯えなくなっていた。
 互いの肩に頭を乗せべったりとくっついて座っている彼らは、終始穏やかで礼儀正しい。
 いつしか私を窮地に追いやった足下の大きな虫も、どこかへ消え去っていた。
 外の景色はひたすら牧歌的で、ずっと昔の日本の風景といえる部分もあれば、沖縄の田舎風景にも似ている部分があったり。
 とにかく、空気がとても澄んでいた。
 日本では多くの雑念に支配されていた自分だったが、ここへきて少しずつ解放されていくような清々しい心地がした。
 しかし、列車の思い出はここで「めでたしめでたし」とはいかない。
 "26時間の地獄列車"は、ここからが本番だ。
 長い列車の旅で私を最も苦しめ要因はズバリ、トイレ問題だ。
「向こうの車両にあるよ」
 と、相変わらず兄はあっけらかんといってきたが、
 足下にいた大きなゲンゴロウモドキで身動きできなくなっていた私だ。
 窓のない列車、おそらくまともにドアなんてないようなトイレに違いない。
 想像しただけでゾッとした。
 結局、私は26時間トイレを我慢することを決意。
 途中、膀胱が本気で爆発するのではないかと思ったが、いまではどこへ行っても笑いのネタとなるのであそこで我慢して良かった……となるわけない!
 本当に本当に辛かった。。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み