「氷雪魔王のサプライズギフト」アベトラ

文字数 811文字

「氷結!(ハッ!)凍結!(ハッ!)」
「降雪!(ハッ!)豪雪!(ハッ!)」

 魔王様が無駄に気合の入った呪文の詠唱を終えると、あたりに冷気が立ち込め、眼下のちいさな村が聖夜にふさわしく一面の銀世界に染まりました。

「どうじゃ、まだわが魔力は健在であろうが」

 闇夜に浮かびながら、その少女はかたちの良い口元に笑みを浮かべました。
 赤と白に塗り分けられた派手な衣装に身を包み、格好だけはこの北辺の地の妖精に扮しています。

「しかし、なぜわたしがこんな夜更けに子供らにプレゼントなど配って回らなくてはならぬのじゃ?」

 僕に言われてもどうにもなりません。前世では白の勇者ハイドに倒された魔王様は、死ぬ間際に転生したければ来世は善行を積むと誓えと神様に言われ、うなづいてしまったのですから。

「本来ならここの村人どもの方からわたしに貢物を持ってくるべきだろうに……おやアレクシス、その鼻は」

 魔王様が前世僕がケルベロスだった頃の名を呼ぶと、僕の鼻が赤く光りました。今世ではやたら大きな角を持つ鹿に生まれ変わりましたが、今でもこの鼻で宿敵の居場所を嗅ぎ当てられるのです。

「臭うのだな。ほれ、早うわたしを敵の所まで案内せい」

 僕は宙を駆け、魔王様の乗った橇を引いて、粗末な一軒家の煙突の入り口にたどり着きました。

「この霊光(オーラ)……やはりハイドの生まれ変わりか。しかしだいぶ弱っているように感じるのう」

 地面に降り立つと、魔王様は堂々と扉を開けて家の中に乗り込みました。

「ふはは、白の勇者ともあろうものが熱病に浮かされるとは。これでも喰らえい!」

 ぼふん、という炸裂音が響き、ガラス窓越しに白い光が弾けるのが見えました。
 その色から、僕は彼女が放った魔法の正体を悟りました。

「奴とはいずれ雌雄を決せねばならぬ。その前に病で死ぬなど許さん」

 表に出てきた魔王様は得意げに胸を張り、言葉を続けます。

「プレゼントで大切なのはな、サプライズなのじゃ」
2018/12/22 14:38

rainmaker17

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