第18話 おかしな友達

文字数 1,592文字


「おっさん。じゃあキッチンから掃除を始めるね」
「ああ、頼む……」

 せっかくセーラー服に着替えてもらったのに、なぜか家の掃除や片づけを頼んでしまった。
 航太自身も、ノリで着替えたは良いが。
 中身は14歳の男子だから、女の真似など出来ない。
 恥ずかしさから、その場で固まっていたので、俺が提案したのだ。

「その格好のまま、ちょっと掃除でもしてくれないか?」と。

 頬を赤くして、黙々とキッチンを綺麗に磨く航太。
 
「んしょっと……」

 洗ったボウルを上の戸棚に直そうとした、その時だった。
 身長が低いため、背伸びをしている……。
 
 こんな時、俺が彼氏だったら代わってあげるか?
 それとも彼の腰を両手で掴み、持ち上げるか。

「もうちょい……」

 背伸びをしたので自ずと、セーラー服が上にあがる。
 小麦色の肌が垣間見えるかと思ったが、ちゃんと中に下着を着ている。
 白いインナー。

 それが邪魔で、彼の素肌は見えないのだが。
 このシチュエーション……なんだかドキッとしてしまう。

 航太はまだ中学生。
 そんな幼い彼が一生懸命、俺のために家事を頑張っている。

「イケる」

 つい、本音を漏らしてしまう。
 確信したのだ。
 担当編集の高砂さんから提案された、ロリもの。
 
 航太にセーラー服を着せたことで、ようやくモデルが定まってきた。
 要は彼を、女の子に変えてしまえばいい。
 あくまでも作品のなかで。

  ※

 その後も航太は家中を掃除したり、片づけてくれた。
 俺は黙って、彼の後ろ姿を目で追う。
 たまに「ここだ」と思ったところは、航太にお願いして念入りに何度も掃除してもらう。

 布巾でちゃぶ台を拭いている彼を見て、使えると確信した。
 なぜなら、その後ろ姿がたまらないと思ったから。
 スカートの丈は長いが、中腰でこちらに尻を突き出している。
 見えるか見えないか……ぐらいのチラリズム。
 もちろん彼は男だから、女物の下着などは着ていない。
 
 デニムのショートパンツが少し見えるぐらい。
 しかし、これは作品に使えそうだ。

 ある日、うちの隣りに引っ越してきた、シングルマザーとその子供。
 綾さんをお父さんにして、航太を娘に変えてみよう。
 そして友人の少ない女子中学生が、主人公と仲良くなり……。
 いやいや、エロマンガなので。そこまで詳細に描く必要はないか。

 だが、航太のおかげで、どうにか形になりそうだ。
 ひとりで頷いていると、不審に思った航太が眉間に皺を寄せる。

「おっさん……なんかニヤついて、キモい」
「わ、悪い悪い。その辺でもう良いよ、おつかれさま」
「こんなんで本当に良かったの? マンガにできそう?」

 セーラー服姿のまま、首を傾げてみせる航太。
 上目遣いで距離を詰められるから、なんか変な気持ちになりそう。

「ああ、参考になったよ。現役の女子中学生になんて頼めないからな」
「そうだろ? 困ってるなら、オレに頼めばいいんだよ。友達だし」
「と、友達……か」

 普通、男友達にこんなことを頼むか?

  ※

 そろそろ、セーラー服を脱いだらどうだ? と彼に言おうとした瞬間だった。
 玄関からチャイムの音が鳴り響く。

 その音を聞いて、俺と航太は驚き、身体をビクッと震わせる。

『あの~ すみませぇ~ん、黒崎さん?』

 甲高い女の声……航太の母親、綾さんだ。
 これはまずいぞ。
 今、玄関の鍵は、開けたままだ。
 綾さんがドアノブを回せば、女装した航太の姿を目にしてしまう。

 そんなところを見られたら、警察に連れられていきそうだ……。
 どうしよう?
 慌てる俺はその場で、固まってしまう。

 その時、航太がヒソヒソ声でこう言った。

「おっさん。オレが着替えてる間に、母ちゃんの相手をしてよ」
「え? でも、玄関を開けたらお前も見られるぞ?」
「開けないまま、扉越しに話したらいいじゃん。オレはここで着替えるから」
「わかった」

 母親の綾さんになんて、ウソをつこう。
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