第1話

文字数 1,562文字

 去る 2024年2月岐阜県岐南町の74歳の男性町長が、町が設置した第三者委員会によって女性職員に対する99件のセクハラ行為が認定され辞職した。複数の職員に対して、頭をなでたり、尻を触ったりしていたほか、「彼氏はできたのか」といった声掛けもしていた。
 一発レッド・カード!で退場である。
 ある産業医の研修会のハラスメント予防のスライドで、
1.「背中を見て覚えろ」というような、修業的な教育のやり方、これはパワハラに該当する。
2. 職場の女性に、「今日は肌艶(はだつや)がいいね」「あなた格好いいね」「あなた可愛いね」これらは全てセクハラになる。悪意がなく、潤滑油のつもりでかけた言葉が今はセクハラになってしまう。
とあった*。(*「メンタルヘルス(心の健康)」 NOVEL DAYS 一般小説:2021年12月20日 更新 を参照)
 古き良き昭和の時代は終わったのだ。

 一方で、医療、介護の現場で、患者、利用者からのセクハラもある。「介護現場」「医療現場」「セクハラ」で検索すると、たくさんヒットする。困ったことに認知機能が低下した高齢者からのセクハラが多い。
 対応方法の中で重要なことは、「嫌だから止めてくれ」ときっぱりと断ることである。「今は仕事中だから…。」とか、黙っていると、彼らは(そうか、仕事中でなければいいのだ)(黙っているのは気があるからだ)と自分に都合のいいように勝手に解釈する。そして一旦そう思い込むと、短期記銘(きめい)障害があって先ほどのことはすぐに忘れるのに、このことはなかなか忘れない。何度も何度も特定の人にセクハラ行為を繰り返す。

 その70歳代の男性は奥さんと二人暮らしで、認知症があった。持病があり家では伝い歩きで、奥さんが介護していた。新型コロナウイルスに感染し、3日後に家で体動困難になり、救急搬送された。入院後5日目には解熱、酸素吸入からも離脱し、軽快した。
 経過は比較的短期間であったが、この間に廃用が進行し、歩行困難となった。早期退院を目指しリハビリテーションを開始した。
 リハビリテーションは若い女性スタッフが多い。カンファレンスでこの男性〇×△さんの話題になった。
 「〇×△さんは、職員に対するセクハラ行為が見られます。」
 「え~っ? それは困ったですねぇ。」「そんなにひどいの?」
 「ええ。」
 「例えば?」
 「ん~、例えばこの間は『あそこの女はどこの人だ?』」
 「まあ、女性を女と呼ぶのはどうもねぇ…」
 「続きがあるんです。『おい、女。ここさ来いっ! 抱かせろっ!!』って。」
 「…」(目が点)
 私は椅子から転げ落ちそうになるほど驚いた。
 「分かりやすい表現だなぁ、ホント。」
と、その時、
 「え~~~? 私、そんなこと言われたことないわよ。」
とは、女性研修医の言葉。
 (沈黙…)
 誰も言葉が(つな)がらなかった。この後に続く一言(ひとこと)こそが、一歩間違えると高級なセクハラになってしまうのだ。凡人にはここでは沈黙が賢い選択だ。逆に何か一言しゃべるには、抜群のユーモアのセンスがいる。
 それが理解できるスタッフで構成されたカンファレンスで、レベルが高いと思った。
 「それで〇×△さんの運動能力はどれ位なの?」
 私は話題をそらした。
 「杖を突いて要介助で5m歩くのがやっとです。」
 言い方は悪くて申し訳ないが、足腰に力が入らず立てない高齢者と、その彼が発するセクハラの要求の内容には大きな隔たりがあった。
 少し滑稽(こっけい)に感じた。
 これは病人の言葉であって、本当のセクハラではないと思った。

 んだんだ。

 さて写真は、神奈川県の大船フラワーセンターに咲く二輪の薔薇である。

 美しい女性に「美しい」と素直に言えない、常にセクハラを意識するのは息が詰まる。その点、花はいい。綺麗な花は綺麗なのだ。
 んだ。
(2024年3月)
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