失くしたしおり (1)
文字数 916文字
5月になったばかりの月曜の昼休み、いつものように、ぼくは図書室にいた。
昼休みは、学校生活の中でほっとできる唯一の時間だ。
小学生のときは、あんなに誰でも本を借りる事に夢中だったのに、中学になると途端にみんな図書室に行かなくなった。
だから、昼休みに図書室を利用するのはほんの数人だけ。
毎日ほとんど同じ顔触れだ。
一人は、純文学の沼にはまっている文学少女の三年生。(今はどうやら、太宰治に傾倒しているらしい)
あとは、男子が二人いるけど、どちらもぼくと同じ二年生だ。
三人ともクラスも違うし、話したこともない。
ぼく以外の二人も、それぞれ一人で過ごしている。
彼らは一応、何かしらの本を選んで、机の上でぱらぱらとページをめくってはいるけど、熱心に読書をしているというふうでもなさそうだ。
きっと、教室にいるより、図書室の方が居心地がいいのだろう。ぼくと同じだ。
静かな昼休みの図書室ほど落ち着く場所なんてほかにない。うん、それは断言できる。
でも、5月最初の月曜日は、いつもと違っていた。
昼休みも半分以上過ぎた頃、見たことのない女子が二人、図書室に入って来たのだ。
ひそひそ声で話しながら、図書館をぐるりと見回している。
二人とも上履きの先が赤い。一年生だ。
新入生か。図書室の新メンバーになるのかな。
すると、一人が、カウンターの司書の先生に尋ねる声が聞こえた。
「先生、あのう、私たち、藤島葵 さんっていう人を探しているんですけど」
えっ?思わずぼくはカウンターに目をやった。
同時に図書室にいる全員が顔を上げて同じ方を見たのがわかった。
藤島葵 は、ぼくだけど。
急に心臓がばくばくしはじめた。
——ぼくを、探してる?な、なんで?
すると、もう一人が、すかさず持っていた何かを先生に見せた。
「あの、このしおりが、この前借りた本に挟まってたんです。藤島葵 って、名前が書いてあったから、渡そうと思って」
——あ。しおり。失くしたと思ってたけど、本に挟んだまま返しちゃったのか。
司書の先生は、
「あら、そうだったの。届けてくれてどうもありがとう。あそこにいるよ、藤島君」
そう言って、手のひらをそろえてぼくを指した。
昼休みは、学校生活の中でほっとできる唯一の時間だ。
小学生のときは、あんなに誰でも本を借りる事に夢中だったのに、中学になると途端にみんな図書室に行かなくなった。
だから、昼休みに図書室を利用するのはほんの数人だけ。
毎日ほとんど同じ顔触れだ。
一人は、純文学の沼にはまっている文学少女の三年生。(今はどうやら、太宰治に傾倒しているらしい)
あとは、男子が二人いるけど、どちらもぼくと同じ二年生だ。
三人ともクラスも違うし、話したこともない。
ぼく以外の二人も、それぞれ一人で過ごしている。
彼らは一応、何かしらの本を選んで、机の上でぱらぱらとページをめくってはいるけど、熱心に読書をしているというふうでもなさそうだ。
きっと、教室にいるより、図書室の方が居心地がいいのだろう。ぼくと同じだ。
静かな昼休みの図書室ほど落ち着く場所なんてほかにない。うん、それは断言できる。
でも、5月最初の月曜日は、いつもと違っていた。
昼休みも半分以上過ぎた頃、見たことのない女子が二人、図書室に入って来たのだ。
ひそひそ声で話しながら、図書館をぐるりと見回している。
二人とも上履きの先が赤い。一年生だ。
新入生か。図書室の新メンバーになるのかな。
すると、一人が、カウンターの司書の先生に尋ねる声が聞こえた。
「先生、あのう、私たち、
えっ?思わずぼくはカウンターに目をやった。
同時に図書室にいる全員が顔を上げて同じ方を見たのがわかった。
急に心臓がばくばくしはじめた。
——ぼくを、探してる?な、なんで?
すると、もう一人が、すかさず持っていた何かを先生に見せた。
「あの、このしおりが、この前借りた本に挟まってたんです。
——あ。しおり。失くしたと思ってたけど、本に挟んだまま返しちゃったのか。
司書の先生は、
「あら、そうだったの。届けてくれてどうもありがとう。あそこにいるよ、藤島君」
そう言って、手のひらをそろえてぼくを指した。