#03

文字数 1,118文字

 私は靖幸がなぜ私の家にいるようになったか薄々気づいている。
彼についてSNSで検索した時に見つけてしまったのだ。

<靖、彼女にふられたらしいね。>
<トークコーナーで暴露されてた。>
<家追い出されたらしいね。>

こんなつぶやきをいくつか見つけてしまった。その日付からして私の家に来た頃だった。
だとすると最初の数か月は私とは浮気だったということになる。

ウチには服など身の回りのものだけでいっさい家具を持ってこなかったのは、彼女の家を追い出されたわけだから納得だ。
その時靖幸は芸人仲間とシェアして暮らしていると言っていた。ウチにきたきっかけは

「どうせ一緒に住むなら、好きな子との方がええやん」だった。

少し本気の混じったウソだろう。本人には知らないフリをしている。
なぜ以前の彼女は靖幸を捨てたのだろう。


 ある日靖幸と家に一緒にいるときに「そういえば、(かね)って今なにしてるん?」と、彼が聞いた。
大学時代私をイベントに招待してくれて、靖幸と出会うきっかけを作ってくれた後輩の男の子の金比良(かねひら)のことだ。

大学卒業前の時期に、大学のお笑いサークル対抗の大きな大会が開かれる。
各サークルから漫才・ピンネタ・コントをやるチームを組んで出場する。
たいていの学生は卒業後の就職先が決まっていて思い出作りで出場するが、靖幸のようにそのまま芸人の道に進む人もいた。

私と靖幸が4年の時、その大会で靖幸が漫才で参加していたチームが2位で、3位が金比良が漫才で参加してたチームだった。
金比良は私達が卒業した後も活動を続けていてお笑いサークル界隈ではちょっとした有名人だった。そこまで評価されてたのにもったいことに大学卒業後、就職して芸人にはならなかった。靖幸もそれを残念がっていた。

「金比良くん、大手広告代理店で充実してるっぽいよ」と、教えた。
「アイツ、凜のこと好きやってんで」

何を突然いうのかと聞き返すと

「だからオレ、あん時、凜にいけなくて」

それは初めて聞く話だった。

「凜、金のがよかったかもな」

まだ夢を実現できていない自分より、大手に努める金比良と付き合った方がよかったのではないかと靖幸は言う。そもそも金比良からそういうことを言われたことはないのに。

「アタシは靖幸と一緒に夢見られて楽しいよ」

と、フォローした。


 私は何故だかそれなりにモテた人生だった。学生時代はクラスメイトから度々告白されたり、他校の生徒からもされたし、通学の電車でいつも一緒だという男性からもされた。大学に入ってからは彼氏がいたが、度々告白された。街を歩けばナンパされた。今でもたまに誘いはある。
金比良でなくても、条件のいい男性と付き合うチャンスはいくらでもある。

だけど私は靖幸が苛立たしい程好きだった。
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