第1話

文字数 755文字

自分に(くつろ)

お父さんはある日
「いつまでだって“おとーちゃーん”って甘えてくれる子が欲しい」って言った

お母さんは
「そんなん大変」って歯牙(しが)にもかけなかったけど

私は
お父さんの胡座(あぐら)の中に 
こそん
(おさ)まっているのが好きだったけれど
時間は止まらず

口答えし
無視し
批判し 非難し
感謝はしない
“おとーちゃーん”とは言わない娘が出現していた

そりゃあ
酒呑みすぎて理性ぶっ飛ばして
先にお茶飲んだからって母さん(なぐ)って頭から血流させた でしょ
次の日丸坊主にして謝ってたけど

他にもいろいろ
そのうえ 私が中3の時 死んじゃって

ねぇ 父さん
私の夢 知ってた?
いつか大人になったらさ
お父さんと一緒に赤提灯でお酒呑みたいなって 思ってたんだよ
自分や自分の人生に満足して (くつろ)いで
ほーっと ぼーっとしてるお父さんと一緒に居たかったんだ
胡座(あぐら)の中にいた時みたいに

だけどね お酒じゃなかったんだなって
自分が禁酒できて わかったんだ
素面(しらふ)でほーっと ぼーっと(くつろ)げる
生きてて 生かされてるってことは
宇宙から許されてる 愛されてるってことなんだから

「親の因果(いんが)が子に報い」っていつか言ってたね
いい親になんなきゃって
自分を苦しめてたんじゃない?

私も同じように
自分の子どもたちのいい親になろうとしたけど
苦しかったよ ちょっとね呪いみたいだったよ

そもそもいい親って何だろうね
お父さんが居てくれたから 私が生まれれた
憎らしくなるまでは仲良しだった
心配もしてくれた 十分だ

重なっている時間はあるにせよ 違う時間軸を生きている
別の人間
別の人生
それぞれ 生きていく力を持っている
それぞれ 自分の機嫌(きげん)や幸せに責任持てばいいんじゃないか

昨日 お父さんの亡くなった年齢をとっくに追い越した
お誕生日で
なぜか しきりにお父さんのこと 思い出してた

そうだ 私も 
私自身に(くつろ)ごうって思えたよ
ありがと
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