セリフ詳細

控えめに見ても、商業作家というのは良い仕事です。たった一人でも社会全体にアクセスすることができ、意思と状況次第によっては世界を変えうる仕事の一つだと考えています。

一方で、商業作家の継続のための間口は急激に狭まっています。出版社は今後一気に淘汰・再編が進むものと予想され、取次システム自体が存亡の危機にあります。受け取り印税も先細りが激しく、近々多くのプロが継続を断念していく流れになっていこうかと思います。

そんななかにあって、商業作家であり続けるためには、継続戦闘能力を確保しておくことが今後は必須ではないでしょうか。安定した心理状態で執筆(戦闘)を続けていくためにも、最低限度のところで自らを支える経済基盤(ロジスティクス)を万全にしておきましょう。たとえささやかな収入源であっても、なるべく商業作家の特性を生かした、他人に依存しきらない自活能力・経済基盤の柱を幾つか確保することが求められます(サラリーマンとの兼業はもちろん有望ですが、一定以上の依存が発生するので、会社や自分の雇用がいつまでも安定だなどと勘違いせぬように)。


ぼくら商業作家にとっての今は、サイパンが陥落し、本土への空襲が始まったあたりでしょうか。「頑張れば竹槍でも勝てる」「行こう1億玉砕!」みたいな大本営ならともかく、我々には知性があるはずです。精神論や宗教性に向かうのではなく、すでに出版実績を多々積み重ねてきたはず(?)の商業作家の方々であればこそ、継続していくための基盤確保を意識しませんか。

そのことを座談会を通して申し上げてきました。そりゃあ「勘弁してくれ」と言いたくなる気持ちはわかるんですが、否が応でもそうした時代が巡ってきたということです。

もちろん商業作家として50冊、100冊と著作を積み重ねていくような生き残りをかけていないのでしたら、そんな意識を持つ必要もなく、投稿サイトなどで思いのままに書くのが幸せなのかなと思いますし、たまーに1冊とか2冊とか書籍化ができるかもしれませんし、ぼくもオススメしたい一つの方向性です。


この10年ほどを通して、皆さんも日本の国力の衰えを体感してきたのではないでしょうか。ですがこの先、皆さんが想像しているよりも遥かに厳しい状況になります。

まだまだ転落への道のりは始まったばかりであり、この先は長いです。国力の減退、人口減少、貧富の格差進展、AI導入による雇用の喪失などのタイミングが重なります。

大半の個人も企業も望みの形で生き残ることができません。年収100万(現時点の通貨価値換算で。インフレは想定しない数字)にも満たない層がこれから膨れ上がりまして、多くの小説家にとっても無縁ではない未来です。いや、すでにその領域に足を踏み入れている小説家も冗談抜きに多いのでは?

また、すでに一生分を稼いだと考えている一部の大御所作家さんも、親御さんの資産に頼れそうだと思っている方も、これから始まる激しい経済変動のなかにあっては、ちょっと運用の手違いがあれば、転落の可能性がかなりの程度あります。一番大事なことは現在の資産などではなく、どのような環境にも適応でき、変化にも楽しくゲームみたいにチャレンジしていけるサバイバル能力です。

ぼくの場合は、恐慌も巨大災害も戦争も全部込みの、あと60年間にわたる継続戦闘の準備は万全です。


日本は奥深い歴史を持っている興味深いガラパゴス社会で、良くも悪くも大衆の国です。リーダーは大筋としていつも無能で、大衆が朴訥と社会を支えることで成り立っています。日本の旧軍と死闘を繰り広げたジューコフやニミッツは「日本軍は下士官が最上、兵士と下級士官がそれにつぎ、高級士官以上は無能」と似たようなことを言っています。

会社も同様です。ぼくの周囲の経営者は成功者も少なくありませんし、社会のリーダーになるべき上位の経営者たちは誰もが今後の社会に対して大きな危惧を持っています。しかしどういうわけか、日本の経営者というのは、ひとたび欧米型の経営者になってしまうと、往々にして無能になってしまうんですね。ホテルラウンジで偉そうにM&Aとかの打合せに忙しそうですが、ぶっちゃけ何もしていないのと同様です。だから会社においても、日本のリーダーたちは偉そうに言うだけで何もしない人間だと割り切り、大企業ホワイトカラーが現実的に事業を進めねばなりませんでした。

しかし今、大企業ホワイトカラーたちの基盤が半ば崩壊しかけ、戦々恐々として保守化してしまったので、しばらくは(良くも悪くもですが)明治維新とか二・二六事件みたいな革命は誰も興味もなく、政治家が小手先の改革を選挙のために老人たちに訴えながら、転落していくのをただジッと眺めているだけの状態が続くでしょうね。


よく旧軍の問題点が色々な視点から語られますが、あれこそが「ザ・日本」、この社会の縮図に近いものですよ。欧米型の帝王学は軍事機構が基盤になっていますが、どうも日本人というのは馴染まないんです。日本の組織・社会は整然としたピラミッド型ではなく、本質的な決断を下して返り血覚悟で断行するリーダーに恵まれません。

天皇と民というシンプルな分け方にしかならないのが日本社会の特性なのかもしれず、民の次元は成功した社長だろうとホームレスの方だろうと一緒なのかもしれないですね。会社だったら本田宗一郎さんや松下幸之助さんのように経営者がブルーカラーに混じって一緒に仕事をするというスタイル、軍だったら将官や参謀も最前線に司令部を置いて兵と共にあるスタイルが、本来の日本に求められていたものでした。

ぼく個人はいつも現場に居座るようにしており、よく友人の経営者たちからは、ぼくがこんな風にいつも多忙なことを笑われます。たしかに、なんなら寝てたっていいんです。しかし一度そうした方向に舵を切ってしまうことで、自分が無能なうちの一人になってしまうのを恐れます。一瞬だけリタイア生活もいいかもなどと愚考し、実際に一定期間、事業の最前線から離れた時期もありましたが、信じられないくらいヒマを持て余して寝ぼけた感じでしたよ。今は現場に戻り、世界第一等のワーカホリックだと自覚していますが、これでいいんです。


ともかく社会全体としては、リーダーたちはナチュラルに無能、中堅層も保守化した今、皆で一緒に足を引っ張りあいながら落ちていく時代が続きます。

次の大きな変革は、南海トラフを待つことになるでしょうか。とはいえ1870年前後も1945年前後も、同レベルで大きな変革点だったとはいえ、長期スパンで見れば基礎国力は上昇傾向を描けた時期でした。しかしこの先はどうあがいても50年間だらだらと国力衰退が定められているわけで、南海トラフを経て貧困国および世界の辺境になる可能性を視野に入れておきましょう。


そうしたなかにあって、今ほど自活能力が求められている時代はありません。もう日本社会には余裕も余力もほとんど残されていないので、日本人が陥りがちな精神論は終わりにしましょう。この現実にどう対処していくかを真剣に受け止めなくては、いずれ自分が傷つくことになります。

小説家としての生き残りなどという次元にとどまらず、大衆と一緒になって自分が落ちてしまわないために、今が、没落する社会からの自立に舵を切る最後の分かれ道なのかなと思います。


皆さんがご想像されているよりずっとずっと悪い状況になります。だからこそ、せっかくここを見てくださっている皆さんには、いい加減に他者頼みのお祈りやクレクレ行為はやめて、自活能力を高めてほしいと思います。

できうるならば版元からも、そしてこの社会からも自立してしまうのが最善です。その結果として小説家としてもサバイバルできれば、末永く楽しい人生を送るための一助になるのではないでしょうか。


すべての商業クリエイターの方々を戦友だと思っています。同志の皆さまがた、何かお困りごとがあれば、ぼくまでご連絡ください。

今回の座談会もありがとうございました。

作品タイトル:NOVEL DAYS リデビュー小説賞 座談会(第二部閉幕!)

エピソード名:リデビュー小説賞 座談会 #2-3

作者名:講談社タイガ公式  kodansha_taiga

228|創作論・評論|完結|9話|126,227文字

【リデビュー小説賞】, 講談社タイガ, 講談社ラノベ文庫, 講談社ノベルス

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「NOVEL DAYSリデビュー小説賞 座談会」

現在第二部も終了いたしました。

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■参加者
司会:作家 至道流星

講談社ラノベ文庫 編集長
講談社タイガ 編集長

リデビュー賞応募者のプロ作家の皆様

■開催概要
講談社が主催する「NOVEL DAYS リデビュー小説賞」についての座談会を開催いたします!
この賞を開催するにいたったの経緯や、現在の出版市況、小説に対する思いなどを、縦横無尽に熱く語っていただきます。

「リデビュー小説賞」の応募資格をお持ちのプロ作家の方々からのコメント、ご意見、ご質問なども大歓迎です。

*応募者や応募検討中の方へのご質問などにもお答えいたしますので、今回の座談会への参加者(書き込める方)は「リデビュー小説賞」への応募資格のあるプロ作家の方に限らせていただく形にて開催してみます。

座談会は、2018年10月18日(木)の16時頃~1週間後の25日16時頃までを予定しております。

リデビュー小説の開催概要はこちらをご覧ください。
https://novel.daysneo.com/award/kodansha001.html

*こちらの座談会は開催当時の紹介です