セリフ詳細

サブタイトルに「新しいモノをつくる破壊と創造の冒険」とあります。

ほんと、これは現代のリアルな「冒険の書」なんだなーと思いました。


もし、あなたが特許や著作権はごくごくあたりまえの世界に生きていて、それが正しくて、違反行為は(文字通り)いけないこと。と、しっかりと「教育」されてしまっていたならば、この本に書かれていることは本当に『異世界の冒険』譚になりえます。


例えば欧米(日本含む)ではコピーは単純に犯罪であって、オリジナルの尊厳を貶める悪しき恥ずべき行為である。ということになっています。

でもその「常識」が全く通用しない、というかほぼ正反対の常識で動いている地域が地球上にはあるわけです。そう、中国。それも深圳のあたり。

(ここらへんで「ムムムム…」と眉をしかめる方は、上で書いた常識にしっかりと教育されているわけですネw)


どちらが正しいか、どちらが正義でどちらが悪かなんてことはひとまず脇に置き、実際に有用かどうかで考えて、まったくの異世界・異文化へ飛び込み、その文化圏の流儀で「新しいモノ」を作る。

(少なくとも有用であることは現代中国の製造業の躍進が証明しちゃってるわけです)


欧米の若者が、異世界中国でモノを作ることは、まるで剣と魔法の世界で竜を倒す冒険をするような感覚を覚えます。そういう意味でこの本は異世界冒険譚なのです。

異世界の冒険ですから、ばっちりファンタジーの文脈で読めます。センスオブワンダーなワクワク感いっぱいです。


そして当然ですが(現実の話ですから)リアルな描写もいっぱい(あたりまえ)。

中国でモノ作りをするときに欧米常識人が陥りそうな罠や、カルチャーギャップ、騙される危険性など、事業を失敗させる可能性のある危機もくどいぐらい語られます。読者はそのたびに欧米的な常識とは違うカルチャーを知り、主人公(って著者本人ですけど)の成長を見守ることになります。


(まあたいへんだったでしょうけど)襲い掛かる危機とそれを乗り越えていく姿はなんだかとても楽しそうなんですよね。いいなあ、面白そう。

面白そう、なんだけど……でも、やってることはほんとにすごいのです。


単純に「この中身はどうなっているんだろう」という探求心からチップの表面をはぎ取り、シリコンを露出させて顕微鏡で観察しちゃうなんてのは序の口で、「どうやって作っているんだろう」と工場を見学にいって自分でも作ってみてしまったり、法的にはやっちゃいけないはずのHDMIのコピーガードを逆手にとって、法的に正しくHDMIプロテクトを外してしまったり、はてまたコンピュータをハッキングするロジックをそのまま生物のDNAに当てはめてインフルエンザウイルスや大腸菌をハックしちゃったり(!)


前半の中国のサプライチェーンを使って(たぶんそれもこの方にとっては環境のハックなんですね)のガジェットづくりで感じたセンスオブワンダーが、今度はそのまま中国的な発想方向からみた西洋社会へのハックへ、そして人間の遺伝子ハックまでつながる光景はとんでもなく深いハッキングの「道」と、それにつながる裾野の広さ、軽々と分野を飛び越える強烈な好奇心を感じます。


最初「ハードウェアハッカー」ってタイトルとちょっと内容ずれてるかなあと思っていたのですが、読み終わるとまさにその通り、この方の生き方そのもののことだったのですねと納得です。

バイタリティ溢れるハッカー精神というかハッキング道に共感できる方、実際に中国で電子デバイスを製造したい人、またはヤバそうな手法(?)に興味ある方にはめちゃくちゃとってもおすすめの本でした。


作品タイトル:らせんの本棚・V

エピソード名:『ハードウェアハッカー』

作者名:神楽坂らせん  K_rasen

134|創作論・評論|連載中|100話|100,031文字

レビュー集, ネタバレなし, なんでもかんでも, アトランダム, コミック, 小説, SF, 技術書, いろいろあるよ

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地道に不定期更新。神楽坂らせんが読んで「グッ!」と来た本達の紹介レビュー集です。
アトランダムに食指が動いた本を乱読しています。
基本、ネタバレはなしで、なるべく内容をバラさずに本の面白さを紹介するように心がけています。
ですから対象本を読む前に読んでいただいてぜんぜんオッケー!
読んだあとから読んでいただくと、「そうそう!」って言いたくなる、そんなレビューにしているつもりです。

順番関係なくどこからでも気になったタイトルをどうぞー♪

※Google+の『本が好き』というコミュニティへの投稿が元になっています。2019年4月にGoogle+が閉鎖されてしまうという話もあり、この先どうなっちゃうのか心配ですが、まあいけるところまでまったり行こうとおもいます〜。