ハッピーレクイエム

[現代ドラマ・社会派]

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『わたしはかれを殺し、かれはわたしを救う。これより半年後のことだ』。
 
 誰とも馴れ合わず、無味乾燥なキャンパスライフを送る十九歳女子大生、朝野聖子。
 聖子の計画は遡ること二年前、父親が宴席帰りの列車内で死亡し、鉄道会社が巨額の賠償金を遺族である聖子の母に請求したことに始まる。
 それはクリスチャンの聖子の信仰を打ち砕くに十分すぎるほどであった。
 神など存在しない。もしくは、驚くほどの怠け者なのだ。
 聖子は工学部に入学し、ふつふつとたぎる怒りを込めて成績を上げてゆく。
 わたしは――ヒトクローンを造る。
 神の業を人間の手によって行なえば、神は神でなくなる。もし反対に神の逆鱗に触れたのちに裁きが下り死したとしても、なんら価値も意義もないこの世に未練など残すまい。これにより神の存在を、その意義を問えよう――そう思っていた。

 平松高志に心奪われ、なにもかもを絆されるまでは。

 当初、平松は聖子の人生に関わるような人種ではなかった。正反対の人物だった。しかし時間をかけて平松の愛情と、なりゆきで入団した大学オーケストラでの友情が凍り付いた聖子の心を溶かしてゆく。

 平松との愛は、出会って半年の間だけの命だった。その愛に今のわたしがあえて名前をつけるなら、

 ――『奇跡』だ。

 亡くなった平松高志をこの胸に宿し、わたしは死へと近づこうとする――。

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