奇譚草紙
奇譚――奇妙な味の短篇、あるいは変てこな短い物語を、ほろほろと書いてみようと思います。
※不定期連載です。
ファンレター
指食い女って、激しい嫉妬心の持ち主というイメージでおりましたが、この作品の主人公の端正なこと! 三奈乃さんの格調高い文章の賜物ですね。 だけどその上品さの裏に、やっぱり彼女なりの荒々しさが見え隠れしているようで……その象徴が「指」なんですよね。食いちぎることまではできず、夢の中だけ。それだけに不満は睡眠障害へとつながってしまう。このエネルギー、今にも爆発しそうで、読んでいて怖かったです^^。 今回も完成度の高い作品を堪能させて頂きました!
「わしを鬼にしたのはそなたではないか」という男の声に、はっとさせられました。結局のところ、一番恐ろしいのは主人公を含めた人間なのですね……。異形の蛇も、鬼になった男も、人間の弱さの表れだという気がしました。主人公は何の罰を受けているんでしょう。どうか彼女に救いの手が差し伸べられますように。 平安時代が舞台で、純文学で、となるとぱっと思い浮かぶのは芥川龍之介ですが、三奈乃さんの作品はさらに独特の色香を放っているように感じます。銀色の月光に溶けていく涙が、たとえようもなく美しかったです。
母体回帰願望って、男性が持つものとして描かれることが多いように感じますが、女性だって傷ついて、何かにすがりたい時がありますよね。主人公を大きく包み込む白熊は、そんな女性たちが無意識に求める安らぎであるように感じました。 「黒曜石に似た白熊の眼に、わたしはいつも、この世界に対するごく控え目な思慮深さといったものを感じて心打たれるのだ」。三奈乃さんの文章って、本当に美しく魅力的! この筆力が、物語の世界へと引き込む原動力ですね。
私と白熊の奇妙で静かな日常から、だんだん「私」の深層に話が及び……。最後の展開はなんだか魂を食われたようで怖くもあり、救われたような気もするし。不思議でそして原点回帰したような気分になりました。私も白熊に会いたい、そして頭のてっぺんをスリスリしてみたいです。(夢は見ているのですが、残念ながら覚えてないンですよ……)このお話大好きです。
もう、最初の行で「あ、私、これ好き」ってなって、読み進めるうちに私の大好物が目白押し。登場人物の白熊が、紳士的でウイットに富んでいて温かさが伝わります。軽妙で粋な音楽のようなストーリーが、ラスト近くで深い音色に転調して思わずハッとして……陳腐な表現ですが、私も主人公と一緒に癒やされました。ところどころにさり気なく置かれた言葉が、優しい色の宝石みたいで、私、この小説大好きです。