昭和童蒙逐電譚 月の背中
《戦うな、逃げろ》
弱い者はいつだって強い者の好きにされるのがこの世のルール。
ろくでもない暮らしはいつまで続くのか。思いどおりに生きたい。そう思ってもおれにはしょせん無理な話。そんなことができる年になるまであと三年半もある。
わかっちゃいる。わかっちゃいるが、それでもなんとかしたい。今をどうにかしたい。ここじゃないどこかへ行きたい。顎を動かしながら考える――なにも思いつけないおれの脳みそ。
チャンスは思いがけないかたちでやってきた。こいつに乗らない手はない――奴隷から自由の身へ。そのためならなんだってやってやる。どこまでだって逃げてやる。邪魔をするな。頭のおかしい女も教師も、おまわりも不良も怪物もみんなまとめてぶっちぎってやる。思いどおりにならない人生なんて、ごみだ! くそだ! 冗談じゃない! おれはおれのやり方で新しいおれになってやる!
小学生(がき)だからって、なめんなよ。