冷めたコーヒーのように

作者 木本伸二

[恋愛論・結婚]

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『冷めたコーヒーのように』
男は思った。
それは、俺の知る高橋和子とは、あまりにも、かけ離れたイメージの女性の噂話だった。
過去が追いかけて来て、俺を押しつぶそうとする。
雨に、滲《に》んだ蒼いインクが意味の無い模様になり、届かなかった言の葉の想いを現わしているようだ。
傷ついた彼女達を見殺しにした。

女は思った。
女という生々しい肉体に、思考まで支配され、逆らえない世界に引き込まれてしまいそうだったの。
 今想うと、私が産まれて初めて、甘えた相手は健一さんだったのかも。

「八神さん。八神さんは御母さんの事が好きだったの」
 八神さんの背中は何も答えなかった。

 隅田川の水面《みなも》に映るビルたちが静かに溶けてゆく。
 川底に沈む追憶の日々。

平成という時代を駆け抜け、すれ違った男と女。
平成が終わり、心の垣根が取れた二人は惹かれあう。

第一章・記憶のスケッチブック
平成元年。和子に恋する健一。和子は世間の誹謗中傷にさらされていた。
過去に押しつぶされそうになり、夜の街を徘徊する。
ある日、中学時代の同級生の山口恵に会う。
思春期の苦い思い出を、想い出す健一。
今、目の前に居る山口恵に心が少し動く。
平成が終わった歳。二十七年ぶりに和子と再会。

第二章・花火
和子は母と八神の関係が気になっていた。
母が倒れ、八神が和子の心の支えになる。
同い年の健一に心を許し始め、人生で初めてワガママな自分を出していく。
健一と一晩を過ごすが、肉体関係は中途半端な感じに終わる。
八神が倒れ、八神の息子の浩一に相談に乗ってもらう。

第三章・初恋
数十年後。
五十歳を過ぎた和子と健一が再会する。心の垣根が取れた二人は惹かれあう。
それは冷めたコーヒーのような恋だった。

ファンレター

素敵な作品ですね

自分の息子が自閉症であるせいか、障害児を育てる苦労の描写は他人事じゃなかったです。手に汗を握る思いで読ませて頂きました。それだけに、このハッピーエンドにはしみじみ、ほっとします。
過酷な人生を描いていながら、行間から優しさがにじみ出ているように感じます。弱者に寄り添う姿勢が、作品の魅力につながっていますね。
他の作品も読ませて頂きます。素敵な作品をありがとうございました。

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