【ブックガイド】人生は、断片的なものでできている

作者 mika

[創作論・評論]

89

25,298

21件のファンレター

☆NEW!!☆ウィリアム・フォークナー『エミリーへの薔薇』 #ノーベル文学賞
皆さまに、ぜひとも読んでもらいたい! と思う作品をネタバレなしで紹介しています。
ノーベル文学賞って気になるけど、難しそう……そんな受賞作家の作品も3000字程度で解説。
現在、お題企画「戦争について考える」に参加中です。

表題は『断片的なものの社会学』(岸政彦)のオマージュです。
※表紙はAdobe StockからFranzi Drawsさまの作品を使用させていただきました。

ファンレター

ワニワニパニック

えーっと、まず、かめさんにエアリプなのですが「桜の木の下には死体が埋まっている」は、梶井基次郎『桜の樹の下には』からの引用ですよー(たぶん)。
さて。もちろんソローキン『青い脂』が好きな僕なのですが、あの有名な「兵隊さんプレイ」のボーイズラブの話や、ロシア→フランス→アメリカ、と亡命してロリコンの語源になった『ロリータ』の作者、ナボコフの〈文学クローン〉の話はおいといて。
ソルジェニーツィンは(雪解けのときに『イワン・デニーソヴィチの一日』でデビューしたからって理由もあるけど)、『収容所群島』でスターリン主義を「個人崇拝め!」と直接書いていますね。それを敷衍して現在のことを直接的にそれっぽく書くのは控えますが。話を戻すと、ソルジェニーツィン『収容所群島』の最初の方で思わず笑ってしまったのが「ミハイル・バフチンという男がいる。彼はとても優秀な文学者である。だが、かなしいことに彼も私と同じ頃、群島送りになってしまった」と語られている箇所で。思わず「バフチンwww」と笑うしかないような。と、いうのも、mikaさんのこのブックレビューにあるように、フーリエ主義、ていうか空想社会主義(詳しくは拙作『密室灯籠』に詳述したので繰り返さないです。とりあえず、唯物史観のあの社会主義が浸透する前の思想です)に参加して銃殺刑を特赦で生き長らえて流刑になって生涯にわたり当局の監視下にいた経歴を持つドストエフスキーを研究するのは(革命前夜に亡くなったドストエフスキーはこころのなかでは革命思想のひとなのは最後に書いた『カラマーゾフ』の続きは革命の話になる予定だったことからもあきらかだし、転向していたとしても前時代側になるわけだし)ご法度だったので、今でこそ〈ポリフォニー〉理論などで有名なバフチンは、けしからん奴を研究してるけしからん奴、ということで捕まってしまったんですね。『鰐』のユーモアや、『永遠の夫』なんかは、ドストエフスキーの「NTR」(寝取られ、の略)属性がよく表れていると思うのですが、ただ、さっき革命思想と書いたけど、「転向」したのかというと難しくて『賭博者』は監視されているのでわざと破滅的な言動をした上で小説にしたんじゃないか、とか、そもそもあの頃借金まみれだったのも転向してないのを隠すためにバカを装ったのではないかとか、mikaさんとちょっとだけ、ドストエフスキーについては意見が違うのです。
長く書いてしまいましたが、意見が違っても、そんなことはささいなことです。とにかくこのブックレビューは刺激に溢れています。読んで刺激をたくさんもらいました。ありがとうございます、エキサイティングな気持ちになれました!! これからも読みます!!

返信(1)

成瀬川さん、お忙しいなかでお読みいただきどうもありがとうございます!

お手紙をお読みして、久しぶりに『収容所群島 1』(ブッキング)を本棚から出してきました。
おおー、たしかに「すぐれた文芸学者M・M・バフチンがぶち込まれている」(80頁)と書いてありますね!!
ここで言及されているバフチンが、ドストエフスキー研究で知られるあのバフチンと同一人物だとは!!
過去に一度読んだときは、気づきませんでした。

調べてみますと、彼は1929年に多発性骨髄炎で入院中にソロヴェツキー収容所で5年の刑を不在宣告され、カザフスタンのコスタナイで5年に減刑されたとのことでした。
もし減刑されていなければ、『ドストエフスキーの創作の問題』も『ドストエフスキーの詩学』も、世に出なかったかもしれませんね。
バフチンは骨髄炎の合併症により足を切断したそうで、数々の苦難を乗り越えて、文学と美学を研究し続けていたのかと驚きました。

そうですね、ソルジェニーツィンは『収容所群島』の中でスターリンを「専制君主」と呼んだり、「個人崇拝の暴政」などとはっきり書いていますね。
わたしは、読書メーターの自己紹介欄の<好きな本>の項で、彼の『ガン病棟』と『煉獄のなかで』をあげているほど、ソルジェニーツィンが好きなので、ここで思いがけず成瀬川さんとソルジェニーツィンのお話ができて、とってもうれしいです!


なるほどー、ドストエフスキーが、いかにも思想転向したように見えるのは当局を騙すための巧妙な偽装であった、と考えるのですね!
『賭博者』はあまりに真実味があるので、ドストエフスキー自身がギャンブル依存症だったからではと常々思っていましたが、あえてバカのふりをしていた、という見方もあるのですね。
現実のふるまいはどうあれ、心の中は本人にしか分からないのですから、そういうこともあるのかもしれないですよね。

わたしこそ、成瀬川さんのおかげで、たくさん勉強させていただきました!!
本当にどうもありがとうございます^^