セカンド・チャンス・ナウ

作者 SARTRE6107

[現代アクション]

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8件のファンレター

太平洋を舞台にした米中戦争から十数年、日本は崩壊し、反政府武装組織と日本政府の戦闘が続いていた。親から教わった狙撃術で流浪する少年、神無英司は森で山賊に襲われていた少女、小林綾美を助ける。それは、これから始まる物語の始まりに過ぎなかった――。

ファンレター

とても興奮した!

 数を読んでいないくせに語るな! と指摘されることも重々承知の上で申し上げると、これまで拝読したSARTRE6107さんの作品の中でこれが群を抜いて断トツに面白かったです。評価が高いと言われているRT企画応募作をまだ読んでいないのでこれからぼくの中の評価も塗り替わるのかもしれませんが、暫定1位は間違いなくこの作品です。


・ミリタリーに詳しすぎ!

 趣味ですか? まさかそういう仕事してますか?
 と、思ってしまうくらいの詳細に列挙される用語の数々にとにかく圧倒されました。銃器のみならず車も詳しいんですね。無知なぼくは、正直言ってしまうと半分どころかほとんど何言ってるのかわかんなかったです。わかんなかったのにそれでも読ませる迫力がこの作品にはありました。特に終盤の市街地戦闘に至ってからはなんか、もう、凄かった(語彙力)。ずっと興奮して手を握りしめながらページを捲りました。


・鋭い時流検証

 米中戦争という、ある意味トレンディーな仮定を持ち出しているのもさることながら、その経緯、その後の日本の変わり様についての描写には、それは決して「絵空事」ではないのだぞ、という納得感を感じます。現代の国際情勢・現代の国内情勢を鋭く分析・分解・展開・再構築し、決して無理のない未来図として描ききっていると感心しました。


・任務遂行型という明確なストーリー

 他のWEB作家さん(皐月原も含めて)の多くに見受けられる、思い付きをぽんぽん並べているだけ(のつもりながくても結果そうなっている)、すなわち悪い意味での「読者が不安になるストーリー展開」ではない、というのがとても良いです。
 敵の情報の詰まったCDを東京に届けるという明確なゴールがあるため、その明確なストーリーが良い方向に影響していると思います。


・主人公の未熟さが作品に与える魅力

 英司が不完全であるところが何よりも1番の魅力だと思います。彼の精神的な成長の過程を追いかけることでより物語に深みが加わっていき、読了後の満足感を与えてくれます。
 ただし、英司以外の登場人物についてはもう少し個性を描き分けてもいいのかな、と個人的には思う部分もあります。ストーリーの展開上必要だから人数合わせで名札と背景を用意した、というように見えてしまう部分もややあり、ラベルは違っても中身は同じ、という印象を持ちました。それでもみんなみんな、生き様はかっこよかったのですが。


・作者の「したい」が、登場人物たちに無理をさせていないか

 この作品を書き終えてどのくらい経過しているのかはわからないのですが、いずれは改稿されることもあるのかもしれません。その時のために、特に気になったことを1つここに残しておきます。
 おそらくですが(違ったらすみません)、この物語は最初に作者の「こうしたい」という話の流れが明確にあったのではないでしょうか。そして、それに沿うように「きっちりと」文章を組み立てていった結果がこれなのだ、と。
 そして、ぼくが思うに、「きっちり」書きすぎて、ストーリーの中で生きる登場人物たちにオカシナ行動をさせていて、読んでいる側には「そこで、そうするの?」と疑念を挟む余地を生んでしまっている、と思うのです。
 この手の緊迫感を売りにする物語では、緊迫感の演出のために登場人物たちは主に3つの行動パターンを取ることになるかと思います。

 ・複数の選択肢がある余裕のある状況下において、登場人物たちは最も合理的な(と彼らが思う)行動をとる
 ・追い詰められた状況下において、非合理と思っていてもこれしかない(と彼らが思っている)行動をとる
 ・錯乱状態に陥り、冷静な第三者の目から見ると不可解と思える行動をとる

 1例だけ置いていきます。序盤の山内の行動です。
 唐突に現れた正体のわからない英司を信頼して託すには、CDの情報は重すぎると思います。英司が敵のスパイではないという確証のない中では、CDは日頃から交流があり、人柄のわかっている村内の誰かに託すのがもっとも合理的ではないでしょうか。切羽詰まっていないあの状況下、「勘」だけで英司に大事な情報を託すのはちょっとやりすぎかと思いました。(しかも、あの時点で英司は追われている身。リスクが高すぎます)
 また、2枚焼いたCDを2枚とも英司に託すのも“経験豊富な”山内の行動としては安直に思えます。ぼくも過去に、定刻までに、なるはやで、そして確実に、とあるデータを届けなければならない仕事をしたことがありますが、その時HDDを2台用意し、別々の人間が別々の交通手段(不確実度が高いが速い、より確実だが遅い)を使って運搬を行いました。
 CDを2枚とも英司に託すには、山内が“そうせざるを得ないほどの緊迫した”状況に追い込まれていると、スタート時点の展開としてはかなりの納得感と重量感を物語に与えるのではないかと感じます。


 ……長々と書きました。
 総じてとても面白かったということは、もう一度申し添えておきます。ラストに希望があるのも、バッドエンドが苦手なぼくにはとても好感度高いです。(正直、リアルがこんなんなんだからフィクションでまでバッドエンドは読みたくないので)
 読み終わったときは、本当に爽快でした。
 彼ら若者たちに、光あれ!

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