【ブックガイド】人生は、断片的なものでできている

作者 mika

[創作論・評論]

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21件のファンレター

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ファンレター

アンドレイ・クルコフ氏

mikaさんのブックレビューのおかげで『ペンギンの憂鬱』を読んだ私としては、今回のレビューは「待っていた」感じがありました。
「ロシア語で執筆するウクライナ作家」であるクルコフ氏が、今どんな思いでウクライナに留まっているのか……私もクルコフ氏の英語のツイートを見ています。
今回mikaさんが、クルコフ氏がThe New Yorker誌に寄稿した文章を紹介して下さったのは、本当にタイムリーで、ジャーナリスティックな意義があると思います。
その中でも、特に「言語に罪はない、プーチンにロシア語の所有権はない」という言葉が胸に刺さりました。日本では、「日本人=日本語の所有者」というのが自明のことのように考えられていて、それがそのまま日本人のアイデンティティ―になっているところがありますが、実は日本殖民地時代の台湾には、台湾人日本語作家という存在がありましたし、現在の日本でも、リービ英雄さんや、この間芥川賞を受賞した李琴峰さんのように日本語で作品を書く外国人の方がいて、実は日本語は日本人だけが所有権を主張できる言語ではないんですよね…。
クルコフ氏が「言語に罪はない」と理性的に述べながら、戦後、ウクライナの子供たちがロシア語を学ぶことを拒否する場面を想像し、「僕は悲しくなる」と書いている部分が胸に迫りました。戦争がもたらした傷が次の代に伝えられていってしまう未来を、クルコフ氏は今自分の身に迫る危機の中で考えているのですね……。
いろいろなことを考えさせられるすばらしいレビューでした。ありがとうございます!^^

返信(1)

『ペンギンの憂鬱』を読んでくださった南ノさんに、クルコフさんの最新エッセイのことをぜひお伝えしたいと思っていました。お忙しいところお読みいただき、ありがとうございます。
クルコフさんのツイートは読んでいて本当に痛ましく、目を覆いたくなります。
先日ご紹介したイーサリアムのヴィタリック・ブテリンは、いつも英語でツイートしていますが、プーチン大統領を公に批判し、ウクライナ支持を表明するツイートはロシア語でした。ヴィタリックがあえてロシア語を選んだのは、ロシア語話者のフォロワーに読んでもらいたいからですよね。
クルコフさんが英語で発信しているということは、世界の読者へ向けてです。クルコフさんの最新エッセイを読んで、彼はもうロシア語での執筆や出版を止めてしまうのではないか、と感じました。

「日本語で作品を書く外国人の方がいて、実は日本語は日本人だけが所有権を主張できる言語ではない」という南ノさんのお言葉にハッとしました。
第二次世界大戦中、日本人移民や日系人の人々は、日本人であることを認めたくないかたもいたでしょうし、「祖国が自殺しようとしている」と思っていたかもしれませんね。
クルコフさんのエッセイを読むと、日本語話者であることを恥ずかしくと思うような国になってほしくない、日本語を二度と「侵略者の言語」にしてはならない、と強く思います。

戦下にありながら、クルコフさんはウクライナの未来を見つめていて、この戦争が子供たちにどのような傷を残すのか、歴史教育が本当に正しく行われるのか、危惧しています。
「真実の歴史よりも神話」の方が人々から好まれるというクルコフさんの洞察は、そのとおりだなと思うのです。恐ろしい侵略者から国家を英雄的な犠牲によって防衛した、という神話はソ連時代から現在のロシアまでずっと受け継がれています。
日本でも「英霊」と言う言葉があるとおり、遺族にとっては父や祖父が無意味な死であったと言われたくない、英雄的な犠牲であったという神話が必要とされているのだな、と思います。

南ノさん、いつも考えさせられるお言葉を寄せてくださり、どうもありがとうございます。