ハンカチを貸す理由《連作シリーズ》
「どうしたの、こんな時間に?」
「先輩を待ってたんです」
言葉は白い息になって冬の空に溶けるようで、彼女の耳まで届いているのか心配になった。
「また振られに来たの? しかもクリスマスに? 馬鹿じゃない」
ずいぶんな言われようだが、慣れていた。
*
元お笑い芸人で現在は探偵業を営む日坂幸人は元アイドルで小料理屋の女将である秋庭真冬と、籍は入れないままの関係をずるずると続けていた。可愛いお嫁さんになることが彼女の昔からの夢だと知りつつ、結婚に踏み切れない過去を抱える日坂。かつて、お笑い芸人の卵だった日坂が素人探偵として調査して知った事実が彼の心を縛り付けていた。そんな彼のもとに、長年の呪縛を解くかのような手紙が届く……。
********************************
連作短編シリーズ
※どこから読んで頂いても大丈夫です。
第1作「希と望/あなたとわたし」
第2作「十五光年先の」
第3作「あなたは今も、わたしの夢を見てくれることがあるかしら」
第4作「ティコとケプラー」
第5作「ハンカチを貸す理由」(本作)