【ブックガイド】人生は、断片的なものでできている

作者 mika

[創作論・評論]

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21件のファンレター

☆NEW!!☆ウィリアム・フォークナー『エミリーへの薔薇』 #ノーベル文学賞
皆さまに、ぜひとも読んでもらいたい! と思う作品をネタバレなしで紹介しています。
ノーベル文学賞って気になるけど、難しそう……そんな受賞作家の作品も3000字程度で解説。
現在、お題企画「戦争について考える」に参加中です。

表題は『断片的なものの社会学』(岸政彦)のオマージュです。
※表紙はAdobe StockからFranzi Drawsさまの作品を使用させていただきました。

ファンレター

魅力的な書評!

オルガ・トカルチュク『逃亡派』。またもやとても魅力的な書評でした!単体としての作品もとても面白そうですが、mikaさんのおかげで「逃亡派」に関する歴史的背景などがわかると同時に、「ドストエフスキーの『罪と罰』やトルストイの『復活』、トゥルゲーネフの『猟人日記』、ゴーリキーの『どん底』」との関わりなどが指摘され、興趣尽きません。
ロシアやヨーロッパの文学を本当の意味で理解するには、キリスト教に対する知識が不可欠だとはわかっていながら、信仰もなく、怠け者の不勉強で今まで生きてきてしまった私のような人間にとって、こうした背景をわかり易く書いて下さるmikaさんは、大変ありがたい存在です(^^)
書評でも小説でも、mikaさんの作品には、いつも澄んだ光が瀰漫している感じがするのですが、この間のご返信の中で、mikaさんご自身、教会で10年もオルガニストをなさっていたとのことで、なんとなくその理由が少しわかったような気もしました。
今回の書評の中で特に印象的だったのは、「『わたし』にとって旅とは、『巡礼』にほかならない」という一節です。ふと、山本周五郎の言葉(厳密にはストリンドベリイの引用らしいのですが)「苦しみつつ、なお働け、安住を求めるな、この世は巡礼である」を思い出しました。信仰のある無しに拘らず、人は誰しも、巡礼のようなものなのかもしれませんね。

返信(1)

南ノさん、お読みいただきありがとうございます! 「苦しみつつ、なお働け、安住を求めるな、この世は巡礼である」、名句ですね!! ストリンドベリイの言葉を山本周五郎が引用していたとは、知りませんでした。山本の『五瓣の椿』は読んだことがありますが、『樅ノ木は残った』は未読でした。
ちょっとネタバレになってしまいますが、『猟人日記』の「クラシーヴァヤ・メーチのカシヤン」のカシヤンが逃亡派ではないかと言われています。『どん底』の巡礼者ルカがサーチンに«к бегунам идти»(逃亡派へ行け)とすすめている場面があります。
ドストエフスキーは、異端の正教徒たちに並々ならぬ興味があったようです。『罪と罰』の出稼ぎのペンキ職人ミコールカが逃亡派に属しているとポルフィーリーが言っています。『白痴』のロゴージン家や『カラマーゾフの兄弟』のスメルジャコフは、去勢派だと言われています。古儀式派から派生した鞭身派からさらに分派した去勢派は、性器切除を実践する超厳格な禁欲主義者たちでした。
西方教会が宗教改革をきっかけに、カトリックとプロテスタントに分かれ、プロテスタントがルター派やカルバン派や国教会、バプテスト、聖公会、長老派、クエーカー、メソジストとどんどん新しい教派に分派していきました。同じように東方教会のロシア正教会も宗教改革をきっかけに大きく分裂しますが、宗教改革が国家主導で行われたためか、改革に反対した保守的な信徒たち(西方教会で言えばカトリックのような人々)がどんどんセクト化して、その中に逃亡派のようなアナキズム思想の分派が生まれていくのは興味深い歴史だなと思います。
そうなんです、2010年からプロテスタント教会の礼拝でオルガン奏楽をしていましたが、昨年2月から音楽活動をほぼ休止しています。昨年3月以降、会堂に集まっての礼拝が中止となり、その後、礼拝が再開されても讃美歌を歌うことは中止で。クリスマスイヴの礼拝だけ弾かせてもらいました。大好きな音楽の話題も、これから作品に盛り込めたらな、と思っています^^ いつもどうもありがとうございます!!