ワーク・イン・プログレス

作者 円目 旭

「聖書は魂の標本箱だ」
「俺」は牧師の命を受け、驚異の部屋の能力者たちを追っていた。
 明らかになったのは、今世ではすべて塵に還るという虚しさだった。
 新しい酒は新しい皮袋に。
 民族の神が、世界の神になり、宇宙の神へとなったことに、嘘はない。常に神は我らと共にあられるからだ。
 ガンジーの新七つの大罪や、静穏の祈りを取り入れながら、更約聖書なる書物が形作られていることを知った俺は、宇宙の途方もなさを前に、読者に呼びかける。
「俺にもわかるように、新しい聖書にしてくれるんだろう?」
 聖人が絶えることはない。善き行いもまた。しかし、聖書に続きはない。神の声に耳を傾ける人々はいなくなってしまったのだろうか。
 予祝の経糸を頼りに、まだ見ぬ時代の緯糸を求めて、俺は罪を刻みつける。

ファンレター

初めまして

佐藤子冬と申します。
円目先生の小説を一つ拝読させて頂きました。
とても難解な小説だと感じました。
初めの宇宙から幾度となく、繰り返される不完全な知の継承はどことなくオリゲネスの思想を想起させるものでした。
オリゲネスは逆に魂の純化がなされると考えておられた様ですが。
円目先生の思想は初期古代教会に通じるものがありますね。
永劫回帰も元々古代ギリシャの哲学者が発案し、それをニーチェが近代的に構築していましたね。
オリゲネスの時代には哲学者の手法とグノーシスの解釈も同時に用いていましたから円目先生の思想はとても難解な哲学の部類だと感じます。
長々と失礼致しました。

返信(3)

感想ありがとうございます!
浅学寡聞の身でして、オリゲネスを初めて知りました。哲学や神学は理解が追いつかなくて、敬遠しがちだったので、勉強になります。
東洋人のふりをして偽書を記した、本名の分からないサルマナザールの人生がとても心に残ったので、参考にしました。知ることの叶わない空白に、心惹かれたのです。
宇宙にも終わりがあり、一説では宇宙から子宇宙、孫宇宙が誕生する可能性があるそうです。その時、物語だけでも残せたらという考えのもと、小説にしました。
過酷な現実に直面している人々にとって、確かな安心や喜びを与える宗教や民間伝承は、祈りへ答えであり、欠くことのできない救いであると感じます。
消えてしまった文明の手がかりとしてふさわしいものは、聖書をおいて他にはないと思いました。
無宗教ゆえに好き勝手に書いた物語を読んでいただき、本当にありがとうございます。
こちらこそありがとうございます。
浅学寡聞の身はこちらの方でして。サルマナザールについては全く知りませんでした。調べたところ、文学の世界に多大な影響を与えた人物と判り、学びになりました。ある種の天才なのですね。
それと最初にレターを書いた際に空気を読まずオリゲネスのことを語ったことは失礼致しました。もし、ご迷惑でしたらそれとなくお伝え頂ければ差し出がましいことは控えますので。
又、仕事が休みだったのでこの様な中途半端なお時間に再度レターを送る無礼をお許し頂ければ幸いです。
返信をして頂き、感謝致します。
又、新しい知見を拓かせて頂いたことに関しても御礼申し上げます。
私の方こそ、時間のことを全く考慮していませんでした。時間のある時に読んで、書ける時に返信を書けばいいと考えていました。私はいつでもかまいませんので、お気になさらないでください。
他人の読み方は私にとってとても興味深いことなので、遠慮なさらなずに感想や知識をお聞かせいただけると嬉しいです。
知らないことは調べられないので、知らない人名はよき出会いです。
『奇書の世界史』(三崎 律日 KADOKAWA)に書かれたサルマナザールでは知恵者の側面が、『バンヴァードの阿房宮』(ポール・コリンズ 白水社)で取り上げられたサルマナザールには物悲しさがありました。
嬉々として調べる人たちの本に親しんでいるので、知識の豊富な人の書く文に現れる面白さと個性が、佐藤先生のレビューに感じられて、楽しいです。
それでは、メリークリスマス!