クイズ・誰から誰へ? 第2問「鬼と亀」
文字数 2,869文字
『だれがどすたの物語』より、第3話「鬼と亀」。
基本的に、ある一人のキャラクターの三人称一元視点で書かれていますが、一か所だけ別の人に切り替わり、そしてすぐ戻っています。
なぜかというと、その一瞬は、基本の視点人物が見ていない場面であり、そして、とても重要だからです。
基本的に、ある一人のキャラクターの三人称一元視点で書かれていますが、一か所だけ別の人に切り替わり、そしてすぐ戻っています。
なぜかというと、その一瞬は、基本の視点人物が見ていない場面であり、そして、とても重要だからです。
Q1. 基本の視点人物は誰でしょうか?
Q2. 一瞬だけ切り替わる視点人物は誰でしょうか? その部分は、どこからどこまででしょうか?
(それぞれ、すぐそばにいるキャラクターの視点も拾っていますが、メインは誰かでお答えください。)
Q2. 一瞬だけ切り替わる視点人物は誰でしょうか? その部分は、どこからどこまででしょうか?
(それぞれ、すぐそばにいるキャラクターの視点も拾っていますが、メインは誰かでお答えください。)
【鬼と亀】
海辺に、ひとりの鬼が住んでいました。
肌は赤く、髪は白くてふさふさで、筋肉がりゅうりゅうとしていました。
ずっとひとりで暮らしてきたので、鬼には、さびしい、ということの意味が、よくわかりませんでした。
おれは、さびしいのかもしれないな、と、思うこともありました。
何かとてもおいしいものを食べたとき、となりに、
「うまいな、これ」
と言える相手がいたら、もっとおいしいかもしれない、と思うようなときです。
でも、人間と友だちになろうとだけは、思いませんでした。人間だけは。
だって、人間は、最悪です。
何もしていないのに、鬼の姿を見ただけで、大声をあげて棒きれや石ころを投げつけてくるのです。それだけではありません。もっといやなのは、さっと目をそらせて、まるで鬼なんかそこにいないようなふりをされることでした。
そして、じゅうぶん遠く離れてから、人間たちだけでくすくす笑うのです。
ある日、鬼は、浜で、きみょうなものを見つけました。
近づいて、よく見ると、土をまるく盛りあげて、花が飾られているのでした。
板きれがさしてあって、こう書いてあります。
「鬼の墓」
鬼は、しばらく、ぼんやりと、その板きれを見つめていました。
何かが動く気配がして、鬼はふりかえりました。
大きな亀が、そこにいました。
鬼は泣いていないのに、亀の目に、涙がたまっていました。
鬼は、亀の背にまたがって、龍宮城へ向かいました。
ふつうの人間なら、酸素ボンベも持たずに深海へもぐったりしたら死んでしまうところですが、鬼だから、ぜんぜん平気です。
龍宮城で、鬼は、大歓迎を受けました。
鯛と、鮃(ひらめ)が、踊りを披露してくれました。鯛はキンメダイではなくて、真鯛です。真鯛だけあって、踊りも格調高くてすばらしいものでした。それにくらべるとヒラメは、踊っているのか砂の上でバタフライの練習をしているのかよくわからない感じだったのですが、言うと気の毒だと思って、鬼は笑って拍手をしました。
そしてどんどんごちそうが運ばれてきて、お酒もつがれました。
「うまい」
ひとくち飲んで、思わず、声が出ました。こんなおいしいお酒を飲んだのは、いままで生きてきて初めてだと、鬼は思いました。
「おいしいでしょう、おいしいでしょう」
さかなたちは喜んで、鬼のまわりでひらひらと踊りくるいました。
気がつくと、鬼から少しはなれたところに、乙姫さまが座っています。
乙姫さまは岩に腰かけたまま、潮の流れに揺られ、ちょっと浮いたり、また岩の上にふわっと下りたりしています。そして、にこにこしています。
「おいしいですか?」と、乙姫さまがたずねました。
「はい。おいしいです」
「どれが?」
「みんな、何もかも、おいしいです」
鬼は、力をこめていいました。乙姫さまは、さらに大きく、にっこりと笑いました。
「これはどう?」
乙姫さまは、ふわりと近づいてきて、さかずきほどの小さな器に入った食べ物を、すすめました。きらきら光るつぶつぶで、色は透きとおった紫水晶のようでした。
ひとくち食べて、鬼は、思わず顔をしかめました。
ものすごく、すっぱかったのです。
すっぱいだけではありません。なんとも言えないえぐみと渋み。薬味としては使えるかもしれませんが、これを単独で飲みこむのは無理でした。
「どうですか?」乙姫さまは、大きな黒い瞳で見つめています。「お口に合わない?」
おいしいです、と言おうとしたのですが、もう、涙が出て、鬼は何も言えませんでした。
きゅうに、乙姫さまが笑いだしました。
「ごめんなさい。やっぱり、すっぱいですよね?」
「すっぱいです」鬼は、小さな声で言いました。
「わたしも苦手なのです。これは、海ぶどうです。料理長の白龍が、体にいいから食べなさいと申すのですが、どうしてものどをとおりません。ほんとにごめんなさい、お客さまをためすようなまねをして。でも、ああよかった、お客さまもわたしと同じで。これ、まずいですよね?」
「いや……ええ……」
「正直におっしゃって」
「まずい、です」
乙姫さまは、手をたたいて喜びました。
そして、次から次へと、小皿に入った料理を持ってこさせました。
乙姫さまと鬼は、ふたりで、おいしいですね、ええおいしいですねと言ったり、まずいですね、ええまずいですねと言ったりしながら、どんどん食べていきました。
いっしょに食べているうちに、鬼には、乙姫さまがかなり食べ物の好き嫌いがある子だということがわかりました。でも、たいてい何でも食べられる鬼にも、これはちょっと無理かもしれないと思う、むずかしい味の料理もありました。白龍は腕利きの料理長でしたが、なんと言っても味覚がやはり、龍だったのです。
乙姫さまは乙姫さまで、鬼を見ていて、自分が苦手な食べ物を鬼がうまいうまいと言って食べると、はずかしそうにしました。
そうして、自分もそっと、ひとくち食べたりしました。
鬼といっしょにいると、乙姫さまの好き嫌いも、なおりそうだということがわかりました。
そこで、鬼と乙姫さまは、いっしょに暮らすことになりました。
さかなたちも白龍も大喜びし、お祝いの宴は、その後百年続きました。いまも、続いているかもしれません。
ただ――
鬼が、祝宴のさいちゅうに、ふっと姿を消すことがありました。
あるときそれに気づいたリュウグウノツカイが、長い体を縦に張って、とがめだてをしようとしたのですが、
乙姫さまは細い指をくちびるにあてて、にっこりし、首を小さくふりました。
そのころ鬼は、亀の背に乗って、誰もいない浜辺へと向かっていました。
もと住んでいたあたりには、もどりません。あの人間たちとはちあわせは、ごめんですからね。
ただ、陸に上がって、はだしの足に砂を踏みしめ、しばらくぶらぶら歩いたり、ちょっとそのへんに寝ころんでみたりするだけなのです。思いきり、太陽を、全身に浴びて。
とくに、意味はありません。
そのあいだ、亀も、あたりをゆるゆる泳ぎまわったり、浜で甲羅を干したりします。
とくに、意味はありません。
おたがい、口もききません。
そして、てきとうな時間がたったころ、鬼と亀の目は、しぜんと合います。
亀はだまってうなずき、鬼はだまって亀の背に乗って、
また、龍宮城へ、帰っていくのです。
【注】沖縄名産の「海ぶどう」は、緑色で、すっぱくありません。おいしいです。
海辺に、ひとりの鬼が住んでいました。
肌は赤く、髪は白くてふさふさで、筋肉がりゅうりゅうとしていました。
ずっとひとりで暮らしてきたので、鬼には、さびしい、ということの意味が、よくわかりませんでした。
おれは、さびしいのかもしれないな、と、思うこともありました。
何かとてもおいしいものを食べたとき、となりに、
「うまいな、これ」
と言える相手がいたら、もっとおいしいかもしれない、と思うようなときです。
でも、人間と友だちになろうとだけは、思いませんでした。人間だけは。
だって、人間は、最悪です。
何もしていないのに、鬼の姿を見ただけで、大声をあげて棒きれや石ころを投げつけてくるのです。それだけではありません。もっといやなのは、さっと目をそらせて、まるで鬼なんかそこにいないようなふりをされることでした。
そして、じゅうぶん遠く離れてから、人間たちだけでくすくす笑うのです。
ある日、鬼は、浜で、きみょうなものを見つけました。
近づいて、よく見ると、土をまるく盛りあげて、花が飾られているのでした。
板きれがさしてあって、こう書いてあります。
「鬼の墓」
鬼は、しばらく、ぼんやりと、その板きれを見つめていました。
何かが動く気配がして、鬼はふりかえりました。
大きな亀が、そこにいました。
鬼は泣いていないのに、亀の目に、涙がたまっていました。
鬼は、亀の背にまたがって、龍宮城へ向かいました。
ふつうの人間なら、酸素ボンベも持たずに深海へもぐったりしたら死んでしまうところですが、鬼だから、ぜんぜん平気です。
龍宮城で、鬼は、大歓迎を受けました。
鯛と、鮃(ひらめ)が、踊りを披露してくれました。鯛はキンメダイではなくて、真鯛です。真鯛だけあって、踊りも格調高くてすばらしいものでした。それにくらべるとヒラメは、踊っているのか砂の上でバタフライの練習をしているのかよくわからない感じだったのですが、言うと気の毒だと思って、鬼は笑って拍手をしました。
そしてどんどんごちそうが運ばれてきて、お酒もつがれました。
「うまい」
ひとくち飲んで、思わず、声が出ました。こんなおいしいお酒を飲んだのは、いままで生きてきて初めてだと、鬼は思いました。
「おいしいでしょう、おいしいでしょう」
さかなたちは喜んで、鬼のまわりでひらひらと踊りくるいました。
気がつくと、鬼から少しはなれたところに、乙姫さまが座っています。
乙姫さまは岩に腰かけたまま、潮の流れに揺られ、ちょっと浮いたり、また岩の上にふわっと下りたりしています。そして、にこにこしています。
「おいしいですか?」と、乙姫さまがたずねました。
「はい。おいしいです」
「どれが?」
「みんな、何もかも、おいしいです」
鬼は、力をこめていいました。乙姫さまは、さらに大きく、にっこりと笑いました。
「これはどう?」
乙姫さまは、ふわりと近づいてきて、さかずきほどの小さな器に入った食べ物を、すすめました。きらきら光るつぶつぶで、色は透きとおった紫水晶のようでした。
ひとくち食べて、鬼は、思わず顔をしかめました。
ものすごく、すっぱかったのです。
すっぱいだけではありません。なんとも言えないえぐみと渋み。薬味としては使えるかもしれませんが、これを単独で飲みこむのは無理でした。
「どうですか?」乙姫さまは、大きな黒い瞳で見つめています。「お口に合わない?」
おいしいです、と言おうとしたのですが、もう、涙が出て、鬼は何も言えませんでした。
きゅうに、乙姫さまが笑いだしました。
「ごめんなさい。やっぱり、すっぱいですよね?」
「すっぱいです」鬼は、小さな声で言いました。
「わたしも苦手なのです。これは、海ぶどうです。料理長の白龍が、体にいいから食べなさいと申すのですが、どうしてものどをとおりません。ほんとにごめんなさい、お客さまをためすようなまねをして。でも、ああよかった、お客さまもわたしと同じで。これ、まずいですよね?」
「いや……ええ……」
「正直におっしゃって」
「まずい、です」
乙姫さまは、手をたたいて喜びました。
そして、次から次へと、小皿に入った料理を持ってこさせました。
乙姫さまと鬼は、ふたりで、おいしいですね、ええおいしいですねと言ったり、まずいですね、ええまずいですねと言ったりしながら、どんどん食べていきました。
いっしょに食べているうちに、鬼には、乙姫さまがかなり食べ物の好き嫌いがある子だということがわかりました。でも、たいてい何でも食べられる鬼にも、これはちょっと無理かもしれないと思う、むずかしい味の料理もありました。白龍は腕利きの料理長でしたが、なんと言っても味覚がやはり、龍だったのです。
乙姫さまは乙姫さまで、鬼を見ていて、自分が苦手な食べ物を鬼がうまいうまいと言って食べると、はずかしそうにしました。
そうして、自分もそっと、ひとくち食べたりしました。
鬼といっしょにいると、乙姫さまの好き嫌いも、なおりそうだということがわかりました。
そこで、鬼と乙姫さまは、いっしょに暮らすことになりました。
さかなたちも白龍も大喜びし、お祝いの宴は、その後百年続きました。いまも、続いているかもしれません。
ただ――
鬼が、祝宴のさいちゅうに、ふっと姿を消すことがありました。
あるときそれに気づいたリュウグウノツカイが、長い体を縦に張って、とがめだてをしようとしたのですが、
乙姫さまは細い指をくちびるにあてて、にっこりし、首を小さくふりました。
そのころ鬼は、亀の背に乗って、誰もいない浜辺へと向かっていました。
もと住んでいたあたりには、もどりません。あの人間たちとはちあわせは、ごめんですからね。
ただ、陸に上がって、はだしの足に砂を踏みしめ、しばらくぶらぶら歩いたり、ちょっとそのへんに寝ころんでみたりするだけなのです。思いきり、太陽を、全身に浴びて。
とくに、意味はありません。
そのあいだ、亀も、あたりをゆるゆる泳ぎまわったり、浜で甲羅を干したりします。
とくに、意味はありません。
おたがい、口もききません。
そして、てきとうな時間がたったころ、鬼と亀の目は、しぜんと合います。
亀はだまってうなずき、鬼はだまって亀の背に乗って、
また、龍宮城へ、帰っていくのです。
【注】沖縄名産の「海ぶどう」は、緑色で、すっぱくありません。おいしいです。
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