32 どうか無事でいて
文字数 4,430文字
星灰宮から飛来した船は、本当にレジュイサンスにそっくりでした。形も大きさも構造も、まるで双子のように似ています。しかしそれぞれの船体外装に施された彩色、そして全体的な設計の趣向が大きく異なるため、まさに血が繋がってはいても性格はまったく正反対のきょうだいのようです。マノンたちが乗ってきた船が鮮やかな赤紫に包まれ、船首から船尾に至るまで優美な流線型で統一されているのに対し、コランダム軍の船はまるで焼かれた骨のような灰の一色に覆われ、直線が多用された角張った造りになっています。
校舎の玄関広間に身を潜めるミシスとノエリィは、その二機が距離をあけて真向いに対峙するのを、戦慄しながらのぞき見ていました。
船と船のちょうど中間あたりの地面にマノンが仁王立ちになり、灰白色の船を真正面から見据えています。
レジュイサンスの甲板上の操舵室のなかに、小さな動く影を認めたミシスは、目を細めてそれを観察しました。グリューがそこにいました。さっきまで彼の頭に乗っていたレスコーリアの姿は見あたりません。
次いでコランダム軍の船の操舵室に目をやると、そのなかには灰色の衣服を身に着けた屈強そうな男が二人いるのが見えました。でもまさかこれだけ大きな船にたった二人ということはないだろうと、ミシスは推測します。きっと船内には他にも何人か乗員がいるはず。それも、おそらくは武装した乗員が……。
そう考えていた時でした。
がきん、と金属の躍動する音が突如響いたかと思うと、コランダム軍の船の舳先から船体中程までにかけての甲板部分が、斜め前方へ向かってゆっくりと滑るように上昇しはじめました。そして船の前部ぜんたいが大きく開かれた鰐 の口のような形状になり、その喉の奥から、鉄槌を打ち鳴らすかのごとく重々しい足音が聴こえてきました。
少女たちは凍りつきました。
そこから現れたのは、二体のカセドラでした。
自分まで腰を抜かさないよう懸命に耐えながら、ミシスはそれらをおそるおそる見あげます。
二体は、それぞれ異なる型の巨兵でした。
一体の方は、まちがいなく、いつか雑木林のなかから偶然見かけた灰色の鎧の巨兵でした。やはりあの時とおなじく、今もその手に巨大な槍を携えています。〈ラルゲット〉の名でノエリィが呼んでいたことを、ミシスは思いだします。
しかしもう一体の方は、これまで一度も見たことのない種類のカセドラでした。
こちらの躯体は、まるで炎のような緋色 の鎧に身を包み、斧の刃を彷彿させる形状の銀の飾り角 を兜に戴いています。躯体の細部の造型にはラルゲットと類似する部分が多少見受けられますが、しかし汎用型のそれと比べるといくぶん背丈が高く、それに合わせて胴体や腕や脚も長く造られているようです。そしてこの躯体もまた、片手に槍の柄を握りしめています。
二体のカセドラは前へ向かって数歩踏みだすと、そこで動きを止めました。あと二、三歩進むだけで、マノンを踏み潰してしまう距離です。
しかしマノンは表情一つ変えません。無言で二体の巨兵を見あげたまま、まったく動じません。
雨はなおも降り続いています。空は隙間なく黒雲に蓋をされたままで、まだしばらくは止みそうにありません。けれど雷は、いくぶん落ち着いてきたようです。岩を抉 るほどだった雨滴の圧力も、徐々に減じつつあるのが感じられます。
雷が収まったのはありがたい、とマノンは内心思っていました。これでどうにか声を届けあうことができるだろう。
「こちらはホルンフェルス王国軍所属の、マノン・ディーダラス。こちらに抵抗の意志はない」
大きな声でマノンが名乗りを上げると、しばらく間を置いてから二体のカセドラの胸の扉が開き、その奥からそれぞれの操縦者が姿を見せました。
(本当に人が乗ってるんだ……)
巨兵の操縦席から人間が出てくる場面を初めて目撃したミシスは、胸中で率直に感心しました。
でもその次の瞬間には、驚愕の声が飛び出さないよう、思わず両手で口を押さえることになりました。
カセドラの操縦者たちに、見覚えがあったからです。
「ねえ、あの二人って……!」ノエリィも気づいて、ミシスの袖をぎゅっと引っぱりました。
それは、タヒナータ市内の川沿いのレストランで遭遇した、あの〈調律師団〉の男に同行していた二人の女性にまちがいありませんでした。
あの時の二人は長いマントで全身を覆っていましたが、今は両者とも肌にぴったりと貼りつくような風変わりな衣装を身に着けています。ただそれぞれの生地の色だけがちがっていて、髪の短い方は青、長い方は赤で、その赤は彼女の乗っているカセドラの鎧の色とそっくりです。短い髪の女性が乗っているラルゲットは、赤いカセドラの一歩前に立っています。
ラルゲットを操縦していた女性が身を少し外へ乗り出し、眼下のマノンに向けて声をかけました。
「先刻の放送は聴かれたか」
マノンは無言でうなずきます。
「ならば話は早い。見てのとおり我々は、ゼーバルト・クラナッハ将軍率いる新生コランダム軍の者だ。その船は貴君のものだな」
「そうだ」
「我々は哨戒行動中に貴船を発見し、確認のため立ち寄らせてもらったにすぎない。無抵抗の者に攻撃をしかけたりはしないから安心してほしい。将軍がおっしゃったとおり、これは侵略戦争ではないのだ」
その後方で赤いカセドラの女性がくすっと笑いました。
「戦争じゃない、だって」ほんの少し幼さの残る甲高い声で言って、彼女はぺちぺちと操縦席の扉を叩きます。「これだけ武装しといて、よく言うよね。まるで、戦争したくてたまらないって感じじゃん」
「口を慎め、レンカ」ラルゲットの女性がたしなめます。
「はいはい。将軍のことになると、ライカ姉さんはす~ぐ怒るんだから」レンカと呼ばれた長髪で赤い服の女性が、大袈裟に肩をすくめておどけました。
「では率直にたずねさせてもらう」ライカと呼ばれた短髪で青い服の女性が、マノンをじっと見おろしたまま告げます。「いったいなぜ、王国軍がこのような場所にいるのだ」
「自分たちはここより南方の実験場で任務に当たっていた。しかし王都へ帰還する途上で燃料を切らしてしまい、ここに不時着した次第だ」
ライカはじっとマノンを見据え、隅々 まで検分するように、じっと目も首も動かさずにいました。そして簡潔に尋問しました。
「どういった任務か」
「それにはこたえられない」
「なぜ」
「あなたも軍人ならわかるはずだ」
「極秘任務か」
「まぁだいたいそんなところだ」
「なんか、やばそぉ」レンカがわざとらしく身をよじって笑い、地面に絵を描く子供のような姿勢で操縦席の床に座り込みました。
「実験場と言ったな」妹と対照的に剣のように直立するライカが、さらに追求します。「では、なにかの実験の任務というわけだ」
「ご想像はお好きに」マノンはひらりと手を振ります。
「困ったな」唐突にライカが薄い笑みを浮かべました。「たとえ今、貴君が我々に抵抗しなくても、貴君のような高名な研究者が手掛けたなんらかの成果が、いずれ我々に抵抗する強力な道具になるかもしれない。いや、その可能性は極めて高いと言える。そうではないか? マノン・ディーダラス博士」
マノンはにやりと微笑しました。そして腰に片手を当て、至って冷静な調子で言いました。
「申しわけないが、その手の仮説に基づいた未来予測に関する問いにはおこたえしかねる。これでも、公平性と確実性を重んじる科学者の端 くれなもので」
その言葉を受けて、ライカは狐のように鋭い両目を大仰にぱちくりさせ、笑うのをこらえながら言いました。
「これは失礼した。では、不要な問答を好まない武人の口から発せられる言葉だと思って、聞いてほしい。船のなかを見せろ」
「断る」マノンが即答します。
「貴君は自分の置かれた状況を理解しているのか?」
「もちろん。僕たちはあなたがたに抵抗しない。攻撃する意思も、出し抜こうという腹積 もりも、これっぽっちだってない。まち針 一本だって、そちらに差し向けるつもりはない」
「だから?」
「抵抗しないなら攻撃しないと言ったのはあなただ。これは侵略戦争ではないとも言った。僕の船を僕の意思を無視して暴こうというのなら、それは侵略に等しい」
マノンが言い終えると、ライカがなにか言い返すより先に、妹のレンカの方が銀髪をひるがえして立ち上がりました。その表情からは、さっきまでの気楽な野次馬のような笑みが完全に消えてしまっています。代わりに現れたのは、激しい嫌悪を隠そうともしない、まさに悪鬼のような形相でした。
彼女はその表情のまま唇だけを歪めてにたりと笑うと、刺すように吐き捨てました。
「私、屁理屈ってほんと大嫌い」
その一言の残響がまだ宙に残っているうちに、赤いカセドラの操縦席がぴしゃりと閉じられました。
「やれやれ」ライカが嘆息しました。そしてさも淑 やかに、マノンに向かってほほえみかけます。「妹は気性が荒くてね……」
そしてその瞬間、無遠慮に腕を振りかぶった赤いカセドラが、その手に持つ槍で周囲の虚空を薙ぎ払いました。
獣の咆哮のような風切り音を轟かせ、白銀の穂先が大きく弧を描きました。
巨大な刃の切っ先は、まずレジュイサンスの操舵室前方の窓に触れるか触れないかのぎりぎりの空をかすめ、そして、思いがけず勢い余ったという具合に、学院の校舎の一階と二階の中間あたりの壁に直撃しました。
落雷のような衝撃音と共に、抉り取られた箇所から破砕された木屑や土埃が噴出しました。
今まさに玄関広間から脱出しようと立ち上がったところだったミシスとノエリィは、恐怖に打ち震える悲鳴を上げて、必死に身を寄せあいました。
「馬鹿者め。無関係の民間施設だぞ。少しは加減をしろ……」
ライカが額に手のひらを当てて舌打ちしました。
両腕を交差させて頭を守りながらうずくまっていたマノンは、跳ねるように顔を上げて校舎の惨状を目の当たりにし、歯をがちがちと鳴らして怒号を上げました。
「貴様らっ! なんてことをっ……!」
続いてすぐさま、その血眼を少女たちが逃げ込んだ先へと注ぎます。
二人が潜伏していた玄関広間は、今の衝撃で内壁や天井に損傷を受けたらしく、木材や石材の破片がそこらじゅうに散らばっているのが確認できます。しかし粉塵がもうもうと舞っているせいで、奥の方まではよく見通せません。
「どうか、どうか無事でいてくれ……!」
マノンがすがるような思いで天に祈ったまさにその時、ミシスの腕のなかで、落下してきた大きな木片の直撃を頭部に受けたノエリィが、こめかみのあたりからうっすらと血を流し、気を失っていくところでした。
「ミシス……」両目いっぱいに涙を溜めて、ノエリィは自分を見おろす顔面蒼白の親友を見あげました。「逃げて……」
ひゅっと短く息を吸い込むと、ミシスは喉を焼くほど苦い声を吐き出しました。
「ノエリィっ……!!」
校舎の玄関広間に身を潜めるミシスとノエリィは、その二機が距離をあけて真向いに対峙するのを、戦慄しながらのぞき見ていました。
船と船のちょうど中間あたりの地面にマノンが仁王立ちになり、灰白色の船を真正面から見据えています。
レジュイサンスの甲板上の操舵室のなかに、小さな動く影を認めたミシスは、目を細めてそれを観察しました。グリューがそこにいました。さっきまで彼の頭に乗っていたレスコーリアの姿は見あたりません。
次いでコランダム軍の船の操舵室に目をやると、そのなかには灰色の衣服を身に着けた屈強そうな男が二人いるのが見えました。でもまさかこれだけ大きな船にたった二人ということはないだろうと、ミシスは推測します。きっと船内には他にも何人か乗員がいるはず。それも、おそらくは武装した乗員が……。
そう考えていた時でした。
がきん、と金属の躍動する音が突如響いたかと思うと、コランダム軍の船の舳先から船体中程までにかけての甲板部分が、斜め前方へ向かってゆっくりと滑るように上昇しはじめました。そして船の前部ぜんたいが大きく開かれた
少女たちは凍りつきました。
そこから現れたのは、二体のカセドラでした。
自分まで腰を抜かさないよう懸命に耐えながら、ミシスはそれらをおそるおそる見あげます。
二体は、それぞれ異なる型の巨兵でした。
一体の方は、まちがいなく、いつか雑木林のなかから偶然見かけた灰色の鎧の巨兵でした。やはりあの時とおなじく、今もその手に巨大な槍を携えています。〈ラルゲット〉の名でノエリィが呼んでいたことを、ミシスは思いだします。
しかしもう一体の方は、これまで一度も見たことのない種類のカセドラでした。
こちらの躯体は、まるで炎のような
二体のカセドラは前へ向かって数歩踏みだすと、そこで動きを止めました。あと二、三歩進むだけで、マノンを踏み潰してしまう距離です。
しかしマノンは表情一つ変えません。無言で二体の巨兵を見あげたまま、まったく動じません。
雨はなおも降り続いています。空は隙間なく黒雲に蓋をされたままで、まだしばらくは止みそうにありません。けれど雷は、いくぶん落ち着いてきたようです。岩を
雷が収まったのはありがたい、とマノンは内心思っていました。これでどうにか声を届けあうことができるだろう。
「こちらはホルンフェルス王国軍所属の、マノン・ディーダラス。こちらに抵抗の意志はない」
大きな声でマノンが名乗りを上げると、しばらく間を置いてから二体のカセドラの胸の扉が開き、その奥からそれぞれの操縦者が姿を見せました。
(本当に人が乗ってるんだ……)
巨兵の操縦席から人間が出てくる場面を初めて目撃したミシスは、胸中で率直に感心しました。
でもその次の瞬間には、驚愕の声が飛び出さないよう、思わず両手で口を押さえることになりました。
カセドラの操縦者たちに、見覚えがあったからです。
「ねえ、あの二人って……!」ノエリィも気づいて、ミシスの袖をぎゅっと引っぱりました。
それは、タヒナータ市内の川沿いのレストランで遭遇した、あの〈調律師団〉の男に同行していた二人の女性にまちがいありませんでした。
あの時の二人は長いマントで全身を覆っていましたが、今は両者とも肌にぴったりと貼りつくような風変わりな衣装を身に着けています。ただそれぞれの生地の色だけがちがっていて、髪の短い方は青、長い方は赤で、その赤は彼女の乗っているカセドラの鎧の色とそっくりです。短い髪の女性が乗っているラルゲットは、赤いカセドラの一歩前に立っています。
ラルゲットを操縦していた女性が身を少し外へ乗り出し、眼下のマノンに向けて声をかけました。
「先刻の放送は聴かれたか」
マノンは無言でうなずきます。
「ならば話は早い。見てのとおり我々は、ゼーバルト・クラナッハ将軍率いる新生コランダム軍の者だ。その船は貴君のものだな」
「そうだ」
「我々は哨戒行動中に貴船を発見し、確認のため立ち寄らせてもらったにすぎない。無抵抗の者に攻撃をしかけたりはしないから安心してほしい。将軍がおっしゃったとおり、これは侵略戦争ではないのだ」
その後方で赤いカセドラの女性がくすっと笑いました。
「戦争じゃない、だって」ほんの少し幼さの残る甲高い声で言って、彼女はぺちぺちと操縦席の扉を叩きます。「これだけ武装しといて、よく言うよね。まるで、戦争したくてたまらないって感じじゃん」
「口を慎め、レンカ」ラルゲットの女性がたしなめます。
「はいはい。将軍のことになると、ライカ姉さんはす~ぐ怒るんだから」レンカと呼ばれた長髪で赤い服の女性が、大袈裟に肩をすくめておどけました。
「では率直にたずねさせてもらう」ライカと呼ばれた短髪で青い服の女性が、マノンをじっと見おろしたまま告げます。「いったいなぜ、王国軍がこのような場所にいるのだ」
「自分たちはここより南方の実験場で任務に当たっていた。しかし王都へ帰還する途上で燃料を切らしてしまい、ここに不時着した次第だ」
ライカはじっとマノンを見据え、
「どういった任務か」
「それにはこたえられない」
「なぜ」
「あなたも軍人ならわかるはずだ」
「極秘任務か」
「まぁだいたいそんなところだ」
「なんか、やばそぉ」レンカがわざとらしく身をよじって笑い、地面に絵を描く子供のような姿勢で操縦席の床に座り込みました。
「実験場と言ったな」妹と対照的に剣のように直立するライカが、さらに追求します。「では、なにかの実験の任務というわけだ」
「ご想像はお好きに」マノンはひらりと手を振ります。
「困ったな」唐突にライカが薄い笑みを浮かべました。「たとえ今、貴君が我々に抵抗しなくても、貴君のような高名な研究者が手掛けたなんらかの成果が、いずれ我々に抵抗する強力な道具になるかもしれない。いや、その可能性は極めて高いと言える。そうではないか? マノン・ディーダラス博士」
マノンはにやりと微笑しました。そして腰に片手を当て、至って冷静な調子で言いました。
「申しわけないが、その手の仮説に基づいた未来予測に関する問いにはおこたえしかねる。これでも、公平性と確実性を重んじる科学者の
その言葉を受けて、ライカは狐のように鋭い両目を大仰にぱちくりさせ、笑うのをこらえながら言いました。
「これは失礼した。では、不要な問答を好まない武人の口から発せられる言葉だと思って、聞いてほしい。船のなかを見せろ」
「断る」マノンが即答します。
「貴君は自分の置かれた状況を理解しているのか?」
「もちろん。僕たちはあなたがたに抵抗しない。攻撃する意思も、出し抜こうという
「だから?」
「抵抗しないなら攻撃しないと言ったのはあなただ。これは侵略戦争ではないとも言った。僕の船を僕の意思を無視して暴こうというのなら、それは侵略に等しい」
マノンが言い終えると、ライカがなにか言い返すより先に、妹のレンカの方が銀髪をひるがえして立ち上がりました。その表情からは、さっきまでの気楽な野次馬のような笑みが完全に消えてしまっています。代わりに現れたのは、激しい嫌悪を隠そうともしない、まさに悪鬼のような形相でした。
彼女はその表情のまま唇だけを歪めてにたりと笑うと、刺すように吐き捨てました。
「私、屁理屈ってほんと大嫌い」
その一言の残響がまだ宙に残っているうちに、赤いカセドラの操縦席がぴしゃりと閉じられました。
「やれやれ」ライカが嘆息しました。そしてさも
そしてその瞬間、無遠慮に腕を振りかぶった赤いカセドラが、その手に持つ槍で周囲の虚空を薙ぎ払いました。
獣の咆哮のような風切り音を轟かせ、白銀の穂先が大きく弧を描きました。
巨大な刃の切っ先は、まずレジュイサンスの操舵室前方の窓に触れるか触れないかのぎりぎりの空をかすめ、そして、思いがけず勢い余ったという具合に、学院の校舎の一階と二階の中間あたりの壁に直撃しました。
落雷のような衝撃音と共に、抉り取られた箇所から破砕された木屑や土埃が噴出しました。
今まさに玄関広間から脱出しようと立ち上がったところだったミシスとノエリィは、恐怖に打ち震える悲鳴を上げて、必死に身を寄せあいました。
「馬鹿者め。無関係の民間施設だぞ。少しは加減をしろ……」
ライカが額に手のひらを当てて舌打ちしました。
両腕を交差させて頭を守りながらうずくまっていたマノンは、跳ねるように顔を上げて校舎の惨状を目の当たりにし、歯をがちがちと鳴らして怒号を上げました。
「貴様らっ! なんてことをっ……!」
続いてすぐさま、その血眼を少女たちが逃げ込んだ先へと注ぎます。
二人が潜伏していた玄関広間は、今の衝撃で内壁や天井に損傷を受けたらしく、木材や石材の破片がそこらじゅうに散らばっているのが確認できます。しかし粉塵がもうもうと舞っているせいで、奥の方まではよく見通せません。
「どうか、どうか無事でいてくれ……!」
マノンがすがるような思いで天に祈ったまさにその時、ミシスの腕のなかで、落下してきた大きな木片の直撃を頭部に受けたノエリィが、こめかみのあたりからうっすらと血を流し、気を失っていくところでした。
「ミシス……」両目いっぱいに涙を溜めて、ノエリィは自分を見おろす顔面蒼白の親友を見あげました。「逃げて……」
ひゅっと短く息を吸い込むと、ミシスは喉を焼くほど苦い声を吐き出しました。
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