1.化け狐

文字数 873文字

私にの後ろにはいつも化け狐がいた
いつだったか突然現れて、勝手に私にとりついていた
それからずっと、ずっと一緒


「はぁ、もう死んでしまったのかね?」
人間とはもろいものだ。
あっという間に寿命というものが来て死んでしまう。
こいつの場合は私に憑りつかれていたから本来の寿命より短かっただろうが


―――


『お嬢さんの後にいるそれは化け狐だ。早々に祓ったほうがいい』
ある日現れた青年は彼女にそう言った
しかし彼女は狐を祓おうとはしなかった
『構いませんよ。化け狐でも何でも。』
そして笑顔でこういった
『彼は私の大切な友達です。』
青年は困ったような顔をして
『ですが、それはあなたの生気を得て生きているのです。あなたはいつかそれに殺されてしまいますよ?』
と言った
『それでも構いません』
彼女は幸せそうに笑っていた


『本当によかったのかい?』
狐が問う
『ええ。』
彼女は迷うことなく答えた。それから
『あなたは、私が死んだらどうなるの?』
今度は彼女が狐に問う
『そうだね…そうなったらほかの人間に憑りつくさ。人間の生気がなければ死んでしまうからね。君がわたしを祓うというなら、今からほかの人間を探しに行くが?』
彼女は狐の答えを聞き苦笑する
『祓ったりなんかしない。』
『それで死ぬことになってもかい?』
『ええ。』
『御人好しだなぁ。君は』
そういって狐はからからと笑った
『そうかしら?人はいつかは死ぬのよ。だったら好きな人と最後まで一緒にいたいでしょう?』
彼女はそう言ってから少しうつむいて
『ただ...あなたがほかの人にとりつくのは少し嫌だな......』
と呟いた



ーーー


「本当によかったのかい?」
狐は死人に問いかける

『ええ。』

彼女の声が聞こえた気がした
しばらく死体の前にしゃがみ込んでいた狐はやがて立ち上がり
「さて、早く新しい人間を探さなくては。」
そう言って静かに目を閉じる
思い出すのはあの寂しそうな笑顔
そして

『ただ…あなたがほかの人にとりつくのは少し嫌だな…..』

あの言葉
「......やっぱりやめよう。」
もう次の人間は必要ない
狐は彼女の隣に横たわり目を瞑る。
「おひと好しだなぁ。君も、わたしも」

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