正勝と寅 ~番外編・本物の化け猫~

文字数 2,774文字

ある昼下がり……。
ん?珍しいなあ、着物の参拝者……。げっ!また猫の仮装をした子供か!最近あいつら以外にも時々見かけるんだよなあ~。

皆私が猫を嫌いなことを知っててアテツケでやってんのか?いやまさかな。何かのアニメの影響だろう。

勝正!勝正どのォ!!
ひっ!いらっしゃいませェ!!

あ……すみません考え事をしていたもので。

勝正は先代の宮司の名前でして私は息子の正勝と申します。

まさまさ!お主まさまさじゃったんか!!

いやぁ~、暫く見んうちに、大きゅうなって。勝正殿とそっくりじゃ。

ほんで、勝正殿はどこにおるん?

亡くなったんですよ……もう10年以上前になりますね。
あ……
お嬢ちゃん若いのにどうして先代を知ってるんだい?

市内のゲートボール大会での武勇伝を聞いたファンかな?

たしかに公民館に飾ってある先代の写真に似てきたとよく言われますよ。

ほうじゃの、そういうことにしておこうかの……
そういうことにしないで本当の理由を話してくれないかな
かぁッ!そこは流す所じゃろが!!
ヒョッ!!?
ど、どしたん?無駄に驚いて。

あいや、スマンスマン。

お嬢ちゃん、猫の耳なんか付けてるから、昔ここで飼われてた猫を思い出しちゃったよ。

怒ると「かぁッ!」ってキバを剥いてね。

まさまさ!あしのこと覚えとるんか!?

お主相当ちっちゃい頃じゃったろー??

足?いやあ~あの猫のことは忘れるわけもない。

その猫がトラウマで今や大の猫嫌いだからね。

お主まで猫嫌い?

……嘘じゃろ?

いや本当なんですよこれが。

勝正殿を猫嫌いにしてしもたのはたしかにあしじゃ。

足じゃなくて、猫ですよ。
勝正殿や佐代子殿に可愛がってもろたにも関わらず、あしは大事な祈祷中に祭壇をひっくり返してボヤ騒ぎにしてしもた……
結局床が焦げた程度で済んだけど、市広報にまで載ったご近所ニュースだね。

いやあ、ゲートボール以外のことも先代のことを調べてて熱心なファンだね!

そして猫畜生め、と箒を振り回してあしを追い出そうとした勝正殿に、幼かったお主は……


あっ……
ふふっ……あしのことを庇ってくれたんよね。

「猫だから仕方ないよ、許してあげて!」ってな。

追いかけて、探しにも来てくれたっけのう。

どうして君がそこまで知ってるんだい?

お寅さんのことを……

実は市広報ばっくなんばーにちゃんと載っとるんよな。

公民館で読ましてもろて……

すっとぼけないでくれ!

その話はうちの家族から聞いたのかい?

散々すっとぼけたのはお主の方じゃろ……

まあすんなり信じるほうがおかしいしちゅえいしょんじゃろけどな。


……あしが、寅じゃよ。

足が虎!鵺ですか!?
ッかァーッ!!言う思たわ!!

「わたしが、寅です」ってちゃーんと説明せにゃいかんかったんやな!!

君が、お寅さん……?
言われたって信じんじゃろ。

仕方ないけん、耳と尾を触ってみ。作りもんじゃなかろ。

猫嫌いなので遠慮します、と言ってる場合ではないから失礼するよ……

お、おおう、取れない、生えてる……!

どうじゃ、鵺ではないが、化け物じゃよ。

お寅さんの魂が化けて出たのじゃ!!

おおう、にわかには信じられんが……

ど、どうして化けて出たり……ああそうか、父に恨みを持っているからか。

カッ、違わい!恨みやない、逆じゃ、感謝しとんじゃ!!

可愛がってもろとったのに、大事な儀式を邪魔した挙句に危うく社ごと燃やしてしまうとこじゃった。あしだけやなくて、猫自体に嫌な思い出植え付けて、生き辛くしてしもて……

じゃけん、ひと目会うて謝りたかったんよ……ほうか、もう逝ってしまわれとったか。

お生憎様ですが……。
猫嫌いの神主が結界を張りよったーいう風の噂……

「猫嫌いの神主」がまさか、まさまさの方じゃとはの。

いえ、幼少の頃の話だったもので多少記憶の混同がありましたが、私の猫嫌いはお寅さんのせいじゃなかったような気がします。

むしろお寅さんとの別れがトラウマ……でしょうか。

ああ、よかったわ。あしは嫌われとらんかったんじゃな。

ほうじゃな。まさまさとは一緒によく遊んだしな。
父があまりに猫を毛嫌いするので、やがて自分にも刷り込まれたのかもしれません。

それに……他のどの猫を見てもお寅さんほど格好良いとは思えませんし。他の猫のことを軽く見てしまっていたのかもしれませんね。

れでぃーを目の前にして可愛いとか綺麗じゃなくて、格好良い……か。

まあ、悪い気はせんの。

キバを剥いた顔なんて本当に虎みたいで格好良かったですよ、お寅さん。
かぁッ!!さっきはそれを見てとらうま扱いしたくせによく言うわい。
だってまさかこんなことに、今だって夢みたいですよ
そりゃそうじゃな。

さてまさまさよ。勝正殿の墓にお参りしたいんじゃが……

かなり離れた所になりますので地図を書きましょうか?

それとも夜なら時間が取れるのでご案内……

いや、大丈夫よ。結界の中に無いんやったら猫の姿で行って門前払い食らいそうなし、今人間の言葉で祈って帰ろうかの。


えっ、結界ですか?結界は境内にしか張ってないんですよ。本当はうちにも貼りたいのですがここのを保つだけで手一杯ですね。

ちなみにお寺と違って神社の敷地内には基本的にお墓って作らないんですよ、それというのも……

……で、うんぬんかんぬん、というワケなんですよ。

あっそういえばお寅さん猫除けの結界の中にどうやって……

……。

よし!勝正殿、許してはくれんかもしれんが、反省は伝わったじゃろう……。

ん?まさまさ何か言っておったか?

宮司のお役立ちプチ知識などです!もう一度お伝えしましょうか!
いや、ええわ。

しかしお主、猫嫌いを克服したんじゃったらこの結界は解いてしまうん?

まさか!お寅さんのことは確かに好きでしたが、猫嫌いとして過ごした時間のほうがずっと長いんですよ!ほぼほぼ半世紀ですよ!

そう簡単に変わりませんな、お寅さん以外は無理なままですよ!!

おー、それは光栄……と言って良いのか?

ふぅー、しかしこれで胸のつっかえも消えて無くなったな。

もう足から消えかかっとる……あしはそろそろ成仏せにゃいかんようじゃ。

待って下さいお寅さん!
ふふ……あしも名残惜しいが……
神道に「成仏」という概念はありません!!!
かぁぁーッ!!??感動的なお別れのしーんに揚げ足取りかや!!
神道では死後の魂は神になるんですよ!

猫神様を祀っている神社も全国には何箇所かあるんですよ!!

おお、それじゃあしのことも雪待神社で祀ってくれるん!?
無ー理でーーす!!!
カァアああーーーーーッ!!!!
 

 

 

ああ、お寅さん、消えてしまった……。

化け猫……なはは、まさかな。これは全部夢だ、夢!夢!


……私一人の裁量で雪待神社でお祀りする神様を勝手に増やすわけにはいかないが、裏の山にでもお寅さんの小さな祠を作ってあげようかな?

ニャーゴ……
ヒッ、猫の声!

来るなよ~結界だってあるんだからな~。

猫、退散退散退散……!

番外編 おわり
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登場人物紹介

雪待古都夜(ゆきまちことや)

「一度猫飼ってみたかったけど人型ってのが不可思議すぎてモヤモヤするー!」


17歳。猫嫌い神主の娘だが猫は好き。犬は嫌いではないが怖い。

ヒョン!なことから人間の姿になった猫たちの保護やお悩み相談、縁結びなどのドタバタに巻き込まれる羽目に……!?

部活は帰宅部で放課後や休みの日は境内の掃除や授与所の手伝い、そして野良猫の監視と追い出しの仕事を任されている。

巫女と言っても神秘的な聖人というわけでもなく、他人の恋愛話に興味津々なお年頃の普通のJK。スマホを持たせてもらえずガラケーなのが目下の悩み。

好きな食べ物はパンケーキとりんごあめと野沢菜漬け。

得意料理はホットケーキとタンドリーチキン。

まおた

「悪の巫女オンナ!!覚悟しろ覚悟ッ!!てりゃー!!」


年齢は3~4ヶ月くらい。雪待神社に捨てられていた猫の兄弟の小さい方。

呼び名は『マオ』。やんちゃざかりの男の子。

子猫だが最近恋に目覚めて格好良い三毛猫のお姉さんに一目惚れ。でもやっぱり恋愛について全然理解出来ていないみたい。

趣味はヒーローごっこ、お散歩、屋根の上でお昼寝。

好きな食べ物はお魚(特に生魚)。おさしみ最高。人の姿では食べても平気な物が増えたのでカレーライスやハンバーグも大好きに。

たまお

「す、捨てられてなんか!!……ううん、捨てられたんだけど……」


年齢は1歳未満、詳しくはひみつ♡雪待神社に捨てられていた猫の兄弟の大きい方。

呼び名は『タマ』。とっても乙女チックなマオの姉ちゃん。

人間化する際には女の子の見た目になるが実は去勢済の元オス疑惑がある

自分たちを引き取ってすぐに捨てた2代目の飼い主のことを信じて待っている。

趣味は縁の下でお昼寝、内緒の趣味は可愛い生き物探し(狩り)。

好きな食べ物はねずみだったが人間の姿での味覚には壮絶に合わずトラウマになっている。代わりに好きになったものは、カップケーキ等の可愛いスイーツ。

えんじぇる☆まりりあ

「ああっ、と!これは猫の従業員にだけ話してくれた秘密のお話なのでした……!」


年齢はタマとマオの間くらい。ワケあって逃亡中のスコティッシュフォールドの女の子で呼び名は『マリー』。実は近所の猫カフェ『ぷてぃ☆にゃんじゅ』の大人気看板猫だがスレたところはなく、丁寧でおっとり、ふわふわとした優しい性格。

どうしても叶えたい願いがあり、人間になれる神社の噂を聞きつけ古都夜を頼ってお忍びでやって来た。

お客さんが(店内で買って)くれる細長いパウチに入ったおやつと店長が大好き。

写真集好評発売中!30冊限定サイン(足形)本は店内にてお買い求めください♡

吹雪貴(ふぶき)

「大丈夫かい?手荒な真似をしてすまない。怪我は無いだろうか……」


年齢はタマより少し上くらい。吹雪貴と書いてフブキタカシ、ではなく『フブキ』

マオがお散歩中に危ない所を助けてもらい一目惚れした初恋の"おねいさん"。

歌劇団のスターのようなクールビューティーな三毛猫。立ち居振る舞いはまさにおとぎ話の王子様。紳士的で芝居がかった喋り方をする。

元野良で一度保健所に連行されたが、里親に引き取られペットショップに売られ今はお金持ちの家で飼われているというシンデレラキャット(?)。生まれた直後から二転三転の人生を歩んだので年の割に落ち着いているが、年相応にハシャぐ場面もある。

好きな食べ物はメロンと、飢えていた時久々にありついた保健所の安いキャットフードの味が忘れられない。

三毛猫にはほぼメスしか居ないが果たして……!?

こじろ

「みぃ……ご主人様ぁ……ご主人様のとこに帰りたいよぉ……」


体格はやや小さいが年齢はマオと同じ。

タマたちとは別の家に貰われていった兄弟。呼び名は『ろろ』。

新しい家庭では『ロンディーネ=ガンリュー』と名付けられたがその家では『ろろ』とは呼ばれないらしい。

方向音痴で怖がりで甘えん坊の末っ子ちゃん。あざといほどにThe・子猫。

趣味はご主人様のお膝でお昼寝。好きな食べ物はご主人様がくれるおいしい物。

こじろの兄弟達は人間化すると黒と黄緑の毛色だけど実際は基本白黒の長毛猫。いちばん小さくて白の割合が大きい子なので元の家では「こじろ」と名付けられた。

こじろうではない。でも漢字で書くと小次郎。まおたは猫太でたまおは玉男もとい玉緒。

(とら)

「仕方ないけん、耳と尾を触ってみ。作りもんじゃなかろ。」


年齢は不詳。謎の方言で喋るなんとなく古風ないわゆる『のじゃロリ』風のとらねこの少女(ロリババア…?)。

正体は昔雪待神社で飼われていた猫の霊で本物の化け猫。呼び名は『お寅

飼い主達が自分のせいで猫嫌いになったのを知っていたため強い未練を残しながらも再び神社に姿を表すことを躊躇っていたが、猫除けの結界を利用して人の姿でやって来た。

死後の時間の感じ方は現世と違うらしく、神主が代替わりしていたことに気づけなかった。

趣味はいたずら。好きな食べ物はかつおぶし。

シロ

「巫女どのにボクの飼い主を説得して欲しいんだ。」


年齢はタマより少し上。ひねりの無い自分の名前にコンプレックスを抱いている白猫のお姉さん。

自分の名前を隠し通したいので名乗らない主義。

飼い主は何らかのオタクらしい。少し不遜な態度と喋り方は飼い主が大好きなアニメのキャラクターの影響なのかもしれない。

趣味は飼い主の話を聞いてやること、飼い主がパソコンをしているのを邪魔しつつ見守ること。

好きな食べ物は飼い主特製の猫用兵糧丸。

「ぶにゃー!」


汎用アイコンでただのシルエット。全員黒猫というわけではない。

雪待正勝(ゆきまちまさまさ)

「ン猫ォォォオオオオーーーッ!!」


猫嫌いな古都夜のパパ52歳。声がでっかい。

好きな食べ物はパンケーキ。得意料理は肉じゃが。

次回予告(変更の可能性ある)

次のゲストねこさんはロシアンブルー(すごく青い…)だよ!

シンプルエディタで編集したいので登場人物登録だけ先に済ませておくよ!ちょっと恥ずかしいよ!

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