004.日陰くんと白い粉

文字数 1,256文字

 同居人がFXで50万勝負をかけているその瞬間を決死のダイブで止めた日陰くん。

 息も絶え絶えの中、家の目の前にある中華料理屋「北風軒」へと滑り込んだ。

いらっしゃいませ……チッ、日陰かよ。
客だろ客! 舌打ちの前にお冷でも出せよ!
当店はセルフサービスとなっております。よろしければ厨房にどうぞ。
セルフの範囲!
今日最初に店に来る客が日陰か……なんかロクなことなさそうだなー。
人をタロットカードみたいな感じに扱うのやめてもらえるかな……


あれ、親父さんは?

親父……?


ああ、多分、老人ホームにボランティアに行ったかパチンコ。

その対極さどうなってんだよ……


まぁいいや、とりあえずチャーハンと餃子セット。

醤油ラーメンね!まいど!
耳鼻科に行け!
だってさ……こんな朝早くから客来るなんて思わないし、餃子の仕込みなんてまだ途中なんだよ。
じゃあ店開けんなよ! 開いてるから来たんだろうが!
別に開けたくて開けてる訳じゃないんだよ!


朝ドラ見たら仕事する、ってのが我が家代々の家訓でさ……

この街の朝ドラ視聴率高そうだな!
まぁ、ラーメンぐらいなら作れるけど……


あ、ダメだ。粉切らしてる。粉。

粉?
ジャンキーには欠かせないあの白い粉だよ!
意味深な言い方! 化学調味料って言えよ!
ラーメン◯郎の行列が途絶えないのみると、あれ半分麻薬と言っても過言じゃないなくない?
一部そういう見方もあるけれど! 


じゃあ何なら作れるんだよ……

すまん日陰!


粉……粉がないと……私は何もできない……粉……粉……

やめろ! 


そういう「薬物からの復帰」みたいな社会派作品じゃねえから!これ!

けどどうしたもんかな……ないと仕事にならないんだよ、粉。



バイトにでも買ってきてもらうか……

バイト? この店にバイトなんかいたか?
いや、親父のことだけど。
父さんバイトだったのかよ! どうなってんだこの店!
あまりにも「パチンコがしたい……」って言うもんだから、店譲ってもらって親父はバイトに格下げ。
親父さんが1番のジャンキーじゃねえか……
ホントよ。


店主になったから好き勝手出来るのはいいんだけど、自分の時間がないのも辛いのよね。


私だって専業主婦になって夫の金で2000円ぐらいするランチ食べてエステ行って自分磨きしたいのに……

ネットで仕入れたような偏見を真に受けるな! 


専業主婦の皆さんだって色々大変なんだよ! ならないとわからないんだよ! きっと!

あーあ、


幼稚園小学校中学校高校が一緒で家が目の前の幼馴染のクソヘタレ童貞野郎がとっとと正ヒロインに手を出してさえくれれば私だって専業主婦になれるかもしれないのに……

……北風さん、僕、粉買ってきますよ!
わかればよろしい。


ついでに殺傷する意味で科学的な粉も買ってきてくれる?

何に使うんだよ! 共謀罪どころか普通にアウトだから!それ!
いや、正ヒロインが恋路を邪魔するYoutuberに毒を盛るヤンデレパターンで作品のテコ入れでもしようかと思って。
テコ入れが必要なほど、もともとの期待も人気もねえからこの作品!
nice boat.
やめろ! また次回!
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登場人物紹介

日陰くん。


27歳。

まばたき市にあるIT企業のシステムエンジニア。

凪島さん。


27歳。

日陰くんの同居人。Youtuber。
日陰くんとは大学時代の同級生。

大依さん。


29歳。

まばたき市役所産業振興課主任。
日陰くんの大学時代の先輩。

鮫岡さん。


25歳。

日陰くんの会社の後輩。

北風さん。


28歳。

日陰くんの家の目の前にある中華料理屋「北風軒」の一人娘。
日陰くんとは幼稚園、小学校、中学校、高校が一緒。

折場くん。


26歳。

日陰くんの大学時代の後輩。FXで生計を立てている。

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