epilogue jinx (2)

文字数 982文字

 面倒がる陸くんの腕を無理矢理引き、わたし達は隣接の喫茶店に向かった。

 喫茶店のドアの前に立つ。けれどドアが開く気配が無い。立つ場所をころころと変えるけど、全く開いてくれない。

 なにこれ?どこにセンサーがあるんだろう。

 一分程、二人でドアの前でうろうろしていると、五十路くらいの女性が中からドアを押し開けてくれた。

「ごめんなさい。うちのドア、自動じゃないんです」

 にっこりとした笑顔がとっても素敵なおばさまだった。

 そういえばドアって昔は自動じゃなかったんだっけ。

「あ、あの、隣の映画館に来たら、御用の方は喫茶店へと書いてたもので」

 わたしは訪ねた経緯を話す。

「あら~、観にきてくれたの?嬉しいわ~久しぶりのお客様だわ」

 え?久しぶり?

 ひょっとしたら、お客がいないから閉めてるの?

 わたしはタラリと冷や汗が流れるのを感じた。

「おいおい~大丈夫かよ~潰れんじゃねぇのか」

 わたしの彼氏は初対面の人にも失礼な態度しか取らない。

 本当にもう、なんで好きなんだろ。

 わたしは心でそっと、溜め息を吐く。

「いまはもう皆さんハウスシアターばかりだから、こんな古びた映画館じゃ観てくれる人も少なくて。でも観るときは貸し切りよ~」

「よくそれで商売成り立つよな~、いででででででででで」

 わたしは無礼千万な彼氏の頬をつねる。

「あなた達って恋人同士?」

 おばさまはうきうきした様子で尋ねてきた。

「ええ、まあ」と、答えたわたしは、不本意ながら、と付け足したい気分だった。

「じゃあ、恋人割ね」

 と、おばさまは嬉々とした表情で言う。

「恋人割?」

 と、わたしは首を傾げる。

「カップル限定のサービスなの。うちでなにか注文してくれたら、映画の料金もサービスしちゃうわよ~」

 ふ~ん、なるほど~うまいことやってるだ、と思っていると、また無神経な彼氏が余計なことを言い出した。

「映画代サービスしてもらっても、こっちでなんか注文すればプラマイゼロじゃん」

 もう(怒)こいつ首締めちゃおうかな。

「そんなことないわよ~、あなた達中学生?」

「高校生です!」

 ちょっと語気を強めてしまった。

 おばさまくらいの年齢の人なら若く見られると、そりゃあ嬉しいんでしょうけど。わたし達の年齢だと逆にそれは失礼なんですよ。

「あらあら、ごめんなさい。でも学生なら学割もつけるから、かなりお得よ」

 へぇ~、それはラッキーかも。

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