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文字数 2,897文字

15:00 起床
16:30 食事 味噌汁 ヒレカツ弁当(昨日の現場からのもらい物)
17:45 出発
18:25 稼働開始
08:00 稼働終了
00:40 食事 ハンバーグ弁当 緑茶
06:30 食事 おにぎり弁当 緑茶 
09:00 帰宅、日記執筆開始

 2022年元日。ここ数年、僕にとっては何も変わらない日。昨年は正社員だったが、やっていたことは変わらない。パチンコを打っているか、家でダラダラしているか、働いているかの3択を、ここ十年繰り返している。変わらないのは、自分の将来がクソには変わらないだろうという諦観だけ。今年は労働者として、現場仕事からスタート。先日、会場運営でお世話になった東京ドームのイベントの撤収補助の日雇いだ。

 18時過ぎのJR水道橋駅には、100名近くの人間でごった返していた。その内の大半は、ジーンズとフード付きのパーカーで身を包み、その上からダウンジャケットを羽織っている、そして、頭にはニットキャップ。着替えが入って、パンパンに膨らんだリュックサックを背負って完成。、見るからにイベント関係の日雇い派遣然とした男達ばかりだ。

 この時期になると、作業員たちは老いも若きも同じ格好だ。真似しているというか、行き着くんと思う。なぜなら、僕も同じ格好をしているからだ。違いがあるとすれば、現場の掛け持ちをしないからリュックサックの代わりに、数点の小物しか入らないメッセンジャーバッグを身に着けているだけだ。

 バイトリーダーが点呼を取って班分けをする。僕が配属された班は計11名。全員が夜19:30~昼11時まで働く連中だ。拘束時間で考えたら20時間近くになる。正直狂ったような労働時間だ。一日だけの運命共同体となった僕らの共通点は、金もなければ健康でもなさそうな、生命力だけで動いているような人形みたいだってことだ。

 「じゃあ、行きましょう」

 バイトリーダーが発した一言で、僕らは東京ドームに向かってゾロゾロと歩き出す。東京ドームに向かう道の上には僕らだけ。誰ともすれ違わない。歩道橋から見下ろした明治通りには、トラック一台、客を探しているタクシーすらもなく、吹き付ける寒風が今が真冬の正月だと教えているようだった。僕らにとっては余計なお世話である。きちんと日中働いてる勤め人とは違う、浮世離れした生き方に選ばれてしまったやつらなのだ。

 20時勤務開始。先日とは違って、いきなり業務が始まった。 運命共同体の連中と、ほかの会社から派遣された仲間と声を掛け合い、、ひたすら暗幕を畳んでビニール紐で縛って台車に乗せる。コミュニケーション能力が欠如した連中ばかりだった。ぶつぶつと独り言を繰り返す壮年の男、短文しか発さない陰キャ大学生、間延びした話し方をするヤンキーっぽいフリーター。いつも通りの夜の労働者たちだ、包み隠さず本音を言えば、こうはなりたくないなと、再確認させてくれる稀有な存在。とはいっても、ほかの人から見れば僕も漏れなく同類なのは否めないだろう。非常に不本意だが、やはり仲間なのだ。

 僕は持ち前の適当なトークで彼らとの距離を縮めていき、情報取集を図る。どうやら今日の現場は、8時になったら入れ替えの人間がやってくるらしい。そして、この撤去作業は途中から搬入作業&設営に変わり、18時までに完遂して新たなイベントが開演するという。その時、11時まで働けることはないなと悟った。またか、とため息を書く。本当に僕が属している派遣会社は、終了予定時間を引き延ばして日当を高く見せて人を募り、実際は低い日当しか払わない会社なんだよな。これってなんか詐欺じゃないか? まぁ、なんだかんだで同じ作業でもらえる日当は他より高いし、募集人数も多いから作業量も分担できて体力的に楽だというメリットもあるから、しばらくお世話になるのは変わらないのだが。


 0時40分まで暗幕を畳みまくり弁当をいただく。そこから待機して、2時40分から暗幕を地下へと移動する。3時30分から待機。もう休憩時間と待機時間の境がどこかわからなくなる。しっかり睡眠を取り、5時から稼働開始。これがきつかった。マスコミ用のビデオカメラ台の撤去なのだが、これがちょっとしたビルくらいの高さがある。それを職人がパーツごとに分解し、僕らバイトがバケツリレー方式で運搬するのだが、1時間近くノンストップである。両手で部材を受け取り、腰の回転で次の人に渡し、また腰を返して部材を受け取る。これを一時間だ。腰も痛くなれば二の腕も痙攣が起きてくる。パチンコばかり打っている僕にとって、ドル箱より重いものを持つのは久しぶりである。しかし、声を出し続けていれば案外いけるものだ。テンションを無理くり上げるのは偉大だなと思った。

 6時になり弁当をいただく。このころには、バケツリレーのおかげで労働の満足感を抱いていた。12時間拘束で、実働で言えば6時間くらいなのだが、梅おにぎりがとても美味しく感じだ。その後、今日はこれで終わりなんだろうなと思いながら、ぐっすり眠る。


「起きて、変える準備して! ヘルメットのシールと顎紐外して!」


 そう言われて、見たことがないオッサンにたたき起こされる。スマホを見ると7時50分を指していた。

「あと3時間あるんだけどな」と思いながら、バイトリーダーを探すと、現場責任者の元へと歩いていく姿だった。しっかりと、ニットキャップとダウンジャケットを着こんで、パンパンのリュックサックを背負っていた。僕は深いため息を一回ついて、帰る準備を済ませて、シールと顎紐を外してヘルメットを返却してバイトリーダーの後を追った。

 思い返すと複雑な気持ちだ。当初の収入が下がるのもそうだが、予定外の早上がりがあると、ほかの仕事を予約する選択肢が狭まる。かといって、作業が少なくて、終わってから違う仕事にいけるほど体力温存ができる仕事とも言える。悪く言いたいが悪くないのだ。これが、この会社のやり方だとすれば、総合的にはいい会社なんだろう。不満があるとすれば、締め日が週一で振り込みが月一回なので、すぐに給料がもらえるわけではないということか。

 ふと大学生のときを思い出した。当時もイベント会社でバイトして、こんな大人にはなるまいと思っていたが、そんな大人になっていた。

 金は良いけど体がキッツいし、長続きしないわ、そう思っていた。今となっては、金が良いし要領も覚えたし楽で、ちょこちょこ10年近くやっている。

 うん、僕はこんな大人になっていたのだ。だから当時の僕に言いたい。

「お前、いろいろバイトして嫌な仕事は分かってたけど、やりたいことも上辺だけだったじゃねーか。楽な仕事ばっかやって、やり遂げたいことを探そうとも挑戦もしなかったじゃねーか。今になって、僕はお前の代わりにやってやってるよ」、そう言ってやりたい。


 今日はどうしようか。とりあえず休もうかなと思ったけど、近所で18時から3時でデリバリーのバイトを見つけた。手渡しで1万近くもらえるようで、少し迷っている。まぁ、起きたら考えよう。

 とりあえず、おやすみ、世界。
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