第6話 長く仕事を続けるには

文字数 1,159文字

 まあいいや、とにかく書こう。
 1年前、辞めた施設では、「一生懸命仕事をすることが、自分の仕事なんだ」と信じていた。結果、「よく頑張ってますね」などと周りから一定の評価を受け、そのもらった評価を落とさぬよう、保持しようとしたことが、苦しい結末を迎える土台になった。
 要は「自意識」、ここを、今回の職場では、自分の改善点として第一に挙げねばならない。

 仔細を書けば── あ、オレ、介護の仕事に合ってるんだという自覚(それは周囲からの「評価」によって持った自覚だった)があり、それに乗っかって調子に乗った自分がいて、

頑張っていた、という内部過程があった。
 他者の目に捕われ、「自分はこうして働けばいいんだ」と思い込んだ。何ヵ月も働けば、惰性になって「今までのように頑張りたくない」そんな自分もいた。だが、あの初心を忘れていけない、と思った。で、とにかく一生懸命やること、こればかりに自分を引き戻し、立たせようとした。惰性になった時点で、終わっていたのかもしれない。

 辞めた理由を、具体的に書けば…人のせいにしたくないが…ひとりの女性従業員が苦手だった。彼女は周囲から、仕事は良くできるが、性格の面ではいかほどか、と見られていなくもない人だった。また言えば、下の従業員たちには厳しく、上のリーダー格の人々にはやたら親しくなるという人だった。この人と一緒に仕事をすることになったら、自分は辞めるだろうな、と私は「初心」の頃に既に予想していた。

 私は介護初心者だったし、介助のテクニック面では、彼女のツマ先にも及ばなかった。そこに私の葛藤があった。こちらがお風呂介助をしている時に、扉の向こうから何か小言を言ってきたり、こちらが何かするたびにいちいち何か言ってきた。こんな人に、仕事を覚えるために、従わなければならない…

「入居者さんのために」が彼女の口癖だったが、私にはそれは偽善のように思われた。従業員どうしがギスギスした関係であったら、入居者さんのためになどなりっこない。空気は伝染するんだし、もっとチームワークのようなものを、何故この人は重視しないのか、というワダカマリが、気持ちの中にずっとあった。
 自分の解消できないカタマリに、じわじわ、自分自身が食われてしまった。

 …でも、もういいんだ。「人は自分と違う」という、決定的な事実を重んじなかった、私の自業自得なのだから。

〈 自分を職務に「貸し」はしたが、自分を職務に「投げうつ」ことはしなかった 〉

 モンテーニュの言う通り、これが全く、私に最大に必要なスタンスだ。私は、すぐ、まわりに持って行かれてしまう。
 実務は実務として、淡々と、謙虚に、自分は無知であるということを根本に、仕事に向き合えたら。
 いや、生きること自体に、そうして向き合えたら。
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