第46話 『死と乙女』①

文字数 1,031文字

 コテージを出た時には日が傾いていた。

 正語(しょうご)は真理子の軽自動車を運転していた。
 助手席の真理子は静かな寝息をたてて、正語の肩にもたれている。

 右手でハンドルを握りながら、左肩を外して真理子を膝に寝かせた。

 規則正しい寝息はそのままだった。
 正語は、その細い肩にそっと手を乗せた。

 (……大丈夫かよ)

 懸念は初めての女相手にやり過ぎたことだけではない。

 先刻、
 さすがに中はマズイだろうと腰を引いた瞬間、真理子が『このままでいい』と、しがみついてきた。
 そうですかそれならばと、そのままに、した。

 だが、万一の事態が起きて責任取れと言われても構わない、という気になってきていた。
 孫が出来たと告げた時の母親の顔も見たい。

 ——俺は女とは浮気しない。
 男とは遊ぶだろうが、真理子を傷つけないよう最大限の努力はする。
 
 案外悪くない未来かもしれない……。

 そんなことを考えていたら、本家に着いた。
 停めた時と同じ位置に正語の車があった。

「真理子さん、着いたよ」

 小さく肩を揺すった。

 真理子は目をパチリと開けた。
 正語と目が合うと、ガバッと起き上がり、すみませんと小さく言った。

「車、ここに置く? 門の中に入れる?」

 辺りは夕日に赤く染まっていた。
 ちょうど正語が確かめたかった景色だ。

「……あとは、私が運転します……」

 そううつむく真理子を置いて、正語は車を降りた。

「ちょっと来て」

 正語が言うと、真理子はシートベルトをもたつきながら外して、車から出た。

 正語は、鷲宮一輝(わしみやかずき)の遺体が発見された温室へと続く坂道の前に立った。
 真理子もすぐ後ろに立つ。

「一輝さんが亡くなった日、コータ君は遺体を発見した後、どっちから来たの?」

 真理子はポカンとしながら、「……こっちから……」と坂道を指したが、すぐにその手を引っ込めた。

 そして、沈んでいく太陽に顔を向ける。

「……違う……コータは、あっちから来たわ……」

 真理子は怪訝そうに眉を寄せて、正語を見た。

「……どうして?……あの子、まっすぐここに来なかったの?……」

 それを正語も知りたい。

「……やっぱり、あの日、何かあったんだわ……コータは中に人がいるのに、鍵をかけたりなんか、絶対にしないもの……」

 人が近づく気配を感じて、正語はそちらに顔を向けた。

 鷲宮高太郎(わしみやこうたろう)が門から現れた。
 高太郎は正語に目もくれずに言った。

「真理子君、岩田さんが亡くなりました。瑞散寺(ずいさんじ)の和尚が来ています。喪主をお願いしたいので、すぐに来てください」

 
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登場人物紹介

鷲宮秀一、主人公の高校生

九我正語(くがしょうご)、秀一の従兄弟、警察官

九我正思(くがしょうじ)正語の父親。人の恋愛感情を瞬時に見抜く特殊能力を持つ。

九我光子、正語の母親。秀一の伯母。

雅、介護士。雅は熟女スナックにいた時の源氏名。本名は不明

夏穂、秀一の幼馴染。秀一に片思い。

涼音(すずね)、秀一の幼馴染

武尊(たける)、秀一の幼馴染

賢人、秀一の甥っ子

真理子、みずほ中学の教師

コータ、真理子の弟、秀一の幼馴染

野々花、パンケーキ店の女主人

岩田、秀一のテニスの師匠

鷲宮一輝(故人)秀一の兄

鷲宮輝子(故人)秀一の母親。正語の母親、九我光子の妹

水谷凛、夏穂の従姉妹

鷲宮智和、秀一と一輝の父親

鷲宮高太郎、智和の兄

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