第2話 フレックスランチ制

文字数 1,448文字

フレックスランチ制

 私の職場はJR東京駅の丸の内側にある。高層ビルが立ち並ぶ、テレビで見たことがあるようなビジネス街だ。
 お昼の12時近くになると、ビジネスパーソンが高層ビルから大量に外に放たれる。高層ビルという巣から放たれた大量のビジネスパーソンがお昼ご飯を求めて蠢く様子は、アリの行列を思い起こさせる。

 私の職場のお昼休みは12時から13時までだ。
 おそらく多くの会社で同じような時間になっていると思われる。
 だからこそ12時ころになると各ビルから一斉に人が出てくるのだろう。

 働きアリのランチタイムはなかなか大変なのだ。
 なにしろ人気のお店は行列ができている。
 行列に並ぶのは嫌だ。かといって、中高生の時のように12時のチャイムと同時にダッシュする若さも青さも持ち合わせていない。
 となると、空いている店に行くことになる。

 そしてオフィスに帰りながら思うのである。
 あの人気の窯焼きのピザ屋さんでランチをしてみたいなぁ、あのうどん屋さんはいつも行列ができているけど美味しいのかなぁ。丸の内仲通りのテラス席で優雅にランチを楽しめたらなぁ。

 ある時、気付いてしまったのだ。
 当たり前のように12時になったらご飯を食べに外に出ていて、まるで働きアリのDNAに深く刻まれた逃れられない習性だと思っていたが、そんなことはない。
 昼休みの時間を変えればいいのである。
 それは働きアリのDNAから解放された瞬間だった。
 私は赤いカプセルを飲んだのだ。

 簡単なことだった。フレックスランチ制を採用すればよいのだ。
 お昼休みは11時から13時まで、あるいは10時から15時までの間で好きな時間に1時間、とすればよいのだ。
 多くのお店は11時から開店している。
 開店時間に行けば、入れないお店などないだろう。

 さて、そんなわけで職場にフレックスランチ制を採用したら良いんじゃないか、と思い、同僚にも話してみた。職場の同僚も確かにそれは良い、と思ったようだ。
 だが、問題は経営陣だ。就業規則には、お昼休みは12時から13時まで、と書いてある。
 就業規則を変更させる必要があるわけだ。

 というわけで、職場のフレックスランチ制の導入について経営陣に申し入れをしよう、と同僚とも話してみたのだが、どうも皆さまそこは躊躇する。
 経営陣がフレックスランチ制を採用するとは思えない、というのだ。仕事をお願いしたいときにいないと困る、という。

 ならば私は一人でも戦って職場のルールを変えてやる、という気概があるはずもない。
 組織を変えるのは大変だ。というかメンドクサイ。組織を変えるよりも自分を変える方がはるかに簡単で早い。

 弁理士の仕事というのは基本的に個人ワークなのだ。
 だから時間の融通が利く。
 職場のルールでは、昼休みは12時から13時までだが、仕事の都合で時間をずらすことは問題ない。

 私は週に1回はランチを外食としている。
 それからというもの、週に1回、12時半頃に仕事の用事が入るようになった。
 そういう日は仕事の都合で早めにランチを済まさなければならないのだ。

 最近見つけたお気に入りのお店は、群馬のひもかわうどんのお店だ。
 開店時間の11時に来れば待たずに直ぐに入れる。
 食べ終わって帰る頃には満席になっており、外には行列ができ始めている。

 皆さんまだフレックスランチ制に気づいていないのですね。
 自由を手にした私は行列を横目にちょっと優越感に浸りながらオフィスに戻るのである。


 神山ユキ
 2022.6.19
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