第4話 理論編 2012/12/03 改訂

文字数 2,572文字

従来の焼き芋の焼き方に対して、この本では、次の3つの仮説を採用している点が大きくことなります。

1)水蒸気温度仮説
2)生糖度仮説
3)温度分布仮説

1)は、「サツマイモの中に水分が十分にある場合には、気化熱によって、サツマイモの内部の温度の上限は100度以下になる」という仮説です。「サツマイモの中に水分が十分にある場合」を作るために、ここでは、サツマイモをアルミホイルで、包みます。こうすると、オーブンの設定温度に関係なく、サツマイモの温度の上限は、100度になります。
なお、電子レンジの場合には、水分があっても、部分的に100度をこえるので、この仮説はあてはまりません。温度制御の視点から見れば、蒸し焼きになるほど水分が多い場合を除けば、電子レンジは、調理に使うべきではありません。

2)は、「生芋の糖度の高いサツマイモほど。焼き芋にした時の糖度が高くなる」という仮説です。生糖度の一番高い品種は、紅はるかです。紅はるかの良いサツマイモでは、生糖度は40度になりますので、これが、ベストの素材です。

3)温度分布仮説
サツマイモや、焼き芋の研究者は、物理学の視点を欠いています。

ーすり下ろしたサツマイモ液
ー切り取ったサツマイモのピース
ーまるのままのサツマイモ

加熱した場合に、内部の温度分布は、全く異なります。
焼き芋のは、「まるのままのサツマイモ」ですので、他の条件のデータは使えませんが、「まるのままのサツマイモ」のデータはほとんどありません。

生のサツマイモには、空気が大量に含まれています。空気は、断熱性が高いので、サツマイモの熱伝導特性は、断熱材に近いはずです。

よく、遠赤外で加熱すると美味しい焼き芋ができると宣伝することもありますが、遠赤外線が、サツマイモの内部まで、到達するとは思えません。

サツマイモが断熱材であると考えると、サツマイモの中心の温度を上げるには、表面温度を上げて、温度勾配をつけるしか方法がありません。

βーアミラーゼの活性温度が、70度であるから、70度に加熱する方法は、温度勾配が不足するので、加熱不足になります。

つまり、「サツマイモは、断熱材なので、内部温度を上げるには、外側の温度を上げて、大きな温度勾配をつける必要がある」(温度分布仮説)と考えます。

レビュー

甘いサツマイモを焼く方法については、WEBだけでも、非常に多くの情報があり、何が、正しいのか錯綜しています。大きな課題は、加熱温度と加熱時間です。

考慮すべき点は、次の4つです。



1)デンプンが糊化する温度 70~75度以上
2)βアミラーゼの至適温度 60~80度
3)βアミラーゼが活性を失う温度 70~80度以上
4)ペクチンが硬化しない温度 80度以上

(1)糊化およびペクチン化防止
80度以上が必須です。

(2)βアミラーゼの活性保持および反応促進
80度未満が望ましい。

これは、両立しません。

糊化は、サツマイモを触ってみればわかります。柔らかくなっていれば、糊化できていて、ペクチン化していません。

一方、βアミラーゼの活動は、サツマイモを切ってみないとわかりません。

サツマイモの焼き方で、温度に言及しているものは、サツマイモの温度ではなく、加熱機の温度です。サツマイモ自体の温度が書かれている文献は、サツマイモのダイスや、ジュースの温度で、丸いままのサツマイモの温度ではありません。

つまり、誰も、サツマイモの内部の温度を測った人はいません。

丸のままのサツマイモの温度を一定にするのは、容易ではありません。サツマイモは、周囲から加熱するので、サツマイモが大きくなるほど、温度は不均一になります。

β アミラーゼの活性が、80度で失われるという実験は、ダイス、または、ジュースで、丸いもではありません。石焼き芋では、サツマイモの外部が130度くらいになります。それでも、焼き芋は甘くなりますから、丸いもの場合には、80度以上でも、β-アミラーゼの一部は、活性を失っていないと考えられます。

サツマイモを焼いてみて、わかったことは、さつまいもに水分がある限りは、サツマイモの温度は100度を超えないということです。

オーブンで、焼き野菜を作る時には、野菜の表面にオリーブオイルを塗ります。こうすると野菜の表面から、水蒸気の発生が抑えられて、野菜の温度が、100度を超えて、焼き野菜ができます。オリーブオイルを塗らないと、最初は、蒸し野菜ができ、さらに加熱すると温度が上がりすぎて焦げてしまいます。

焼き芋も同じで、オーブンで、丸いもを焼くと、最初は、蒸し芋になり、更に、加熱すると焼き芋になります。焼き芋は、蒸し芋から、水分がとんだ状態です。水分の飛び方は、サツマイモのサイズで違いますので、小さいサツマイモは、加熱時間を短く、大きなサツマイモは加熱時間を長くする必要があります。しかし、丸いものサイズごとに加熱時間を調整するのは容易ではありません。

そこで、サツマイモをアルミホイルで包んでいます。この場合には、サツマイモの水分は、少ししか抜けませんので、サツマイモの温度は、一番高温になる皮の近くでも100度を超えることはありません。つまり、オーブンの設定温度は、加熱時間の違いであって、サツマイモの温度の違いにはなりません。

加熱は、最初は糊化を狙いますので、高めにして、丸いもの中央まで、80度を超えて、確実に糊化を起こします。

あとは、80度くらいで、長時間置けば、糖化が進むはずです。炊飯器の保温モードは80度らしいですが、丸いもの周辺を80度にしても、サツマイモの中心が80度になるとは限りません。また、炊飯器は、大型出ないと大きなサツマイモは貼りません。そこで、ここでは、タオルで包んで、発泡スチロールの保温箱の中で、保温することにしました。この方法は、省エネですし、大きなサイズのサツマイモにも対応できます。
ただし、この方法では、保温箱に入れてから、温度は、下がる一方ですので、念のため2時間以上経過した時点で、一度、再加熱してから、保温を継続しています。

ここまでの、この方法は、蒸し芋です。そこで、最後に、水分を飛ばして、焼き芋に仕上げます。保温が終わった時点で、サツマイモの表面に、麦芽糖の蜜が出ていますので、仕上げの加熱は、蜜が焦げない140度くらいにします。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み