第26話 Thanksgiving

文字数 1,439文字

 エンドラシア大陸の上空を、飛行船がゆったりと進んで行く。

「飛空艇に比べて、この船は乗り心地が非常に良いですな。パナタ様の力を継承させる者を育てなくては」
「ヘイゲン、それなら候補はすでにいる。そこの赤毛の魔道士(メイジ)だ」

 アシュが帆の下で眠りこけていた。ヘイゲンは(くちびる)を震わせ、アシュを起こすために駆け寄って行く。
 それを眺めて微笑み、パナタは陽の光の射す方向に顔を向け、目を細めて(つぶや)く。

「ルキ、エンドラシアは私たちが守る。この大陸は、きっと人の子も魔物も助け合っていける。この優しい世界を大切にするよ」

 後ろからヘイゲンの怒号が聞こえてきた。パナタは息を()き、呆れ顔で彼らの元へ歩いて行く。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 キヴリは鉱山の中、掘り進めた穴から這い出て来た。

「スワビ、これがミスリルとかいう鉱石か?」
「そうだぁ。ようやく見つけたか。この大陸にもあったんだなぁ。これで浮走器(ランダー)の修理ができるようになるぞぉ」

 キヴリは、集まったたくさんの採掘者たちに鉱石を掲げて大声で言う。

「今日は眠らずに掘り続けるぞ! 覚悟しろ!」

 採掘者たちの顔が(ゆが)む。逃げたらきっと(ひど)いことになる。
 悲鳴にも似た大声で、彼らはキヴリの号令に応えた。

 スワビが空を見上げる。

「この大陸に(わし)らの技術を伝えていくぞぉ。それでいつかまた、アシェバラドの様子を見に行くんだぁ。海の底にあるならそこまで行って、お前たちの墓を見に行かなきゃなぁ」

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 ナビ=デイルは他の怪狼(フェンリル)たちを従え、草原を駆け抜ける。
 それぞれの怪狼(フェンリル)の背中には、帝国の兵たちがしがみついていた。

『もっと、背中を動かさないように気を付けて走るんだ! こんな感じでね!』

 ナビの背中に乗るダマクスが、顔面を白くして吐き気を(こら)えている。

 魔物の言葉は、時々、西の海岸に()むミケ=エルスに師事している。少しずつだが、何を言っているのか分かるようになってきた。
 いつか、気持ちを伝えられるようになる日が来るだろう。そう信じて、今はこの乗り心地の悪い背中に揺られている。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 巨木の下で、葉の影が揺れる。

 マレルとメリアは、互いの肩にもたれながら眠っていた。
 彼の右手には、メリアに読み聴かせるために持ち出した本が広げられたままになっていた。
 メリアの首飾りには、魔導珠(まどうじゅ)が埋め込まれていた。木漏れ陽が当たるたび、きらきら美しく輝いている。

 その(かたわ)らでは、リリシアが草の上に座り、浮走器(ランダー)の手入れをしていた。
 彼女は浮走器(ランダー)の壊れた脚を持ち上げ、困り顔をする。

「素材さえあれば、直してあげられそうなんだけどね」
「リリシア様に運んでいただくのも、それはそれで、嬉しいものです」
「あなた、すごく重いんだもの。本気で早く直してあげたいわ」

 ベルウンフが、分厚い布を持って坂を上がって来た。

「またここで眠っていたか。こんな風の強い所で寝てると、病気にかかってしまうよ」
「あら、ベルウンフ。まるで世話係ね」
「いや、大変だよ。まるで子供が三人いるみたいだ」

 そうぼやきながら、マレルとメリアに布を掛けていく。

 そしてもう一人、メリアの足を枕にして眠りこけている銀髪の少年にも、そっと布を掛ける。

 リリシアは微笑み、空を仰ぐ。

「ルキ、見てる? 新しい暮らしが始まってるわよ。ここでもう一度、(みんな)でやり直すの」

 エンドラシアの上空を、飛行船を守るように、巨竜(ドラゴン)飛龍(ワイバーン)の群れが飛んで行く。

 人の子と魔物が共に生きる、そんな世界が、確かに始まろうとしていた。

  <了>
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