「幼女は出ているか?」

文字数 2,068文字

「貴様ぁぁぁぁ! よくもわしの娘をたぶらかしたなあ!」

 地面にめり込んでいたはずの何者かが、やっぱりハンパない勢いで穴から飛び出してくる。

「お父様!」
「お父様!? レユさんの!?」

 穴から飛び出した人影は空中で一回転すると、今度こそ僕の目の前に着地した。

「お前か! わしの娘を弄んだのは!」

 そう叫ぶのは、体つきに対して頭の大きい、細い手足の、柔らかそうなおなかをした、

「幼女じゃん……」
「?」
「幼女じゃん……!」

 うわああああああ幼女だ! 目の前に幼女がいる! 本物の幼女だ! すごいぞ! 幼女は実在したんだ!
 大きな黒目! 小さい唇! 小さい体! んはぁっ! 幼女たんの髪をクンカクンカしたいお! クンカクンカ! あぁあ!! 間違えた! モフモフしたいお! モフモフ! モフモフ! 髪髪モフモフ! カリカリモフモフ……きゅんきゅんきゅい!!

「……どうかされましたか? 大丈夫ですか?」
「はっ!」

 レユさんがぼくの方を心配そうに見つめている。
 い、いかんいかん、ついうっかりあっちの世界へ行ってしまっていた。戻って来い、ぼくの理性。

「ふむ。やはりな。完璧な適性を示している」

 ぼくの目の前の幼女が、ぼくを見上げながら一人納得したように頷く。
 幼女がぼくを見てる。三次元の幼女がぼくを……いや、落ち着け、ぼく。
 今は現状を把握しよう。

「適性って?」
「この世界で生きていくための適性だ」
「この世界?」
「そう、このルオナ界でな」

 ……ヤバい、全然意味が分からない。

「あの、最初にぼくの方から質問しても」
「ダメだ」
「ど、どうして?」
「質問なんか聞いてたら時間がない。説明パートなどストレスでしかないということを、分かれ!」
「ええ!?」
「わしはそのお陰で散々痛い目に遭って来た。連日更新しても読者が付かず、宣伝してもポイントは増えず、レビューは書いても書かれず……そしてようやくわしは気づいた。そうだ、異世界転生させよう! とな」
「はあ?」
「光栄に思え。お前はみごとその対象に選ばれた。お前のやることはただ一つ、このルオナ界の天下を取ることだ。様々な種族がしのぎを削るこの世界で見事天下を取ってみせろ! でなければ……」
「でなければ?」
「この世界ごと爆破(さくじょ)する。当然お前は死ぬ」

 幼女は真剣な顔つきで言う。

「そ、そんな! めちゃくちゃだよ!」
「しかも一か月以内にだ」
「はちゃめちゃが押し寄せてくるよ!」
「めちゃくちゃでもはちゃめちゃでもやってもらわねばならない!」
「そんな……、出来っこないよ! 天下なんて穫れるわけないよ!」
「ええい、お前は嫌でもやって貰わなきゃ困るのだ! このままじゃわしはただのニート……げふんげふん。とにかくやれ! サポートにレユをつける。困ったことがあったらレユに訊け!」
「で、でも天下なんてどうやれば……」
七聖幼女(ザ・セブンスロリ)だ。七人の星型の痣をもった幼女を集めろ。そうすれば自然に道は開けるはずだ」
「よ、幼女を集める?」
「ああ。痣はへその下のあたりにあるはずだ。彼女たちがお前を助けることになるだろう」
「つ、つまりぼくはロリハーレムを作ればなんとかなるんですね?」

 ぼくの言葉に、幼女が大きく頷く。動作がいちいち可愛い。

「その通りだ」

 ほう、ロリハーレム。
 なんだかやる気が出て来た。

「なるほど、分かりました。やってやりましょう。それで、どんなチート能力をくれるんです?」
「え?」

 幼女が目を大きく見開く。

「え、なんか、こういうのってチート能力でストレスなく敵を倒しまくるのがセオリーなんですよね?」
「…………」

 目を見開いたまま固まってしまう幼女。

「いやいや、冗談でしょ? まさかチートがないなんて……」
「え、ええい、時間もない。わしの渡せる能力の中で一番役に立つものをやろう。受け取るがいい」

 そう言って幼女は小さい手をぼくに向け、何か呪文のようなものを早口で唱えた。
 でも、ぼくの体に変化はない。

「……何か変わりました?」
「自分で確かめろ! クソ、導入部だけで四千字近く使ってしまった。もうこれ以上ページは割けん。さっさと転移しろ! レユ!」
「は、はいお父様!」
「こいつを頼んだぞ。わしの運命はこいつが握っておる」
「分かりました」
「よし。それでは健闘を祈るぞ。わしは帰る」
「ちょ、ちょっと待ってください、ぼくにはまだ聞きたいことが!」

 ぼくが幼女の腕を掴んだ瞬間、幼女の体がふわっと浮かんだ。まるで目に見えない力が働いているみたいに。

 そして幼女はそのままぼくの耳に顔を寄せると、

「説明してやってもいいが、これ以上字数は使えん」

 幼女の手触りのよさそうな頬がぼくのすぐ真横にある。
 ぼくはぼくの心臓が跳ねる音を聞いた。

「……と、いいますと?」
「ここから先は、カットじゃ」


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