第92話 ライフプラン:2024年1月

文字数 1,078文字

2024年1月。東京。首相官邸。
首相として、日本経済を立て直す上では、正常な労働市場の構築は、どうしても、避けて通れない課題だ。「首相としての任期中に、どうしても解決したい」洋子は常々こう思っていた。
洋子には、ライフプランがある。人生100年としたら、いろいろなことを経験してみたいと思っていた。洋子は、22歳で、大学を卒業して、G社に就職した。27歳で、政治プロセス分析チームを社内で立ち上げた。その成果を買われて、28歳で、アマゾネス・ウーマンズ・パートナー社の社長に抜擢された。もっとも、これは、アマゾネス・ウーマンズ・パートナー社が大きくなったから言えることで、本当のところは、左遷だったかもしれない。28歳で、ユニバーサル・ジェンダー党を立ち上げて、政治の世界に入った。29歳で、過去最年少で、初めての女性首相についた。しかし、ずっと政治の世界にとどまるつもりはない。新しい世界に入って、最初のうちは、知らないことだらけで、脳は、どんどん学習する。しかし、10年もすれば、新しい情報は入ってこなくなる。こうなると、脳の機能は低下してしまう。そのまま政治の世界に居続ければ、脳は機能低下してボケてしまうに違いない。80歳まで、脳の活動を健全に保つには、常に、新しいことにチャレンジすることが必要だ。だから、政治の世界はこの辺りで見切りつけて、新しい仕事がしたい。次の仕事を何にするかはまだ決めていないが、その前にやっておくべきことがある。日本の労働市場問題である。日本の労働市場は、18歳の高等学校卒業生と、22歳の大学卒業生に、集中したいびつな構造になっている。このままでは、政治の世界を抜け出しも、次の仕事に就くことは難しい。もちろん、洋子の能力をもってすれば、日本を捨てて、海外に、仕事の場を求めれば、困難はないだろう。しかし、洋子は、日本が好きだった。できたら、日本で働きたいと考えていた。
人生100年計画が困難なこと、硬直化した人事システム、不完全な労働市場、教育システムの遅れ、個人の能力の発揮を蝕む社会システム、急増する自殺者、これらは、同じ木の別々の枝に過ぎない。ひとつの枝を切り落としても、根を断ち切らない限り、また、同じような枝が生えてきてしまう。改革をするのであれば、木を丸ごと取り換えなければならない。洋子はこう思っていた。
「2016年に、ドロシー・ストルツマンが、『LIFE SCAPE(ライフ・スケープ)』で、人生100年計画で、働けるなら80歳でも働くべきだと言った。しかし、最大の課題は、労働市場だ」と洋子は思った。
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