第5話 居眠りに添い寝する準備
文字数 1,420文字
青空に過ぎた雨を恨んでも雨上がりの涼しさ羨んでも君を思い出すよ。愛してる、言葉は簡単だ、煙草をギシギシ噛んで、愛想が尽きた、君は即座にその嘘と「理由」を見抜く。
雨のように降り注ぐ僕の泪を雲の上に連れて行ってしまうよう、あのとき君が笑ってさえいなかったら、この三歳もそこに帰る道も夕暮れ知らず、歩くまま宛てどない幸福の在り処なんて雲の隙間に探しやしなかったのに。
毎日の夕暮れも一つながりで一抹の奇跡なぞシュガースプーン、当たり前になって期待もしなくなった。都ど僕は決められた分量のカフェイン飲料を沸かしてテーブルにカップを飾り、毎日を、煙を歌うように吐いている。
すこしだけ哀しいかもしれない、前に君が風邪の僕を部屋に置き去りにして仕事に出掛けた時、風邪薬の傍のメモに「テレビ台の引き出し」書置きがあって、本当にその日は部屋を出ることなく君を待ち、待つことに正当な理由と、その閑しのぎをやはり少し寂しがりながら昼食を飲み込んだ。
ぷかぷか金魚の呼吸に煙突ふやして、のど飴を頬にこすりつけながら灰皿がシケモク溢れ喉の腫れ、待ち遠しさが勝てば痛みにも鈍感になってくる。その鈍い痛みや微熱を思い出して、甲斐がないことを、すこし、そう、煙草を、口先にちょっぴり、コホン、また電話だ。
お義父さん「君も縛られずに、奇跡の雫も一献と消してしまえばいい」。こういう表現をする義父だから嫌いになれず、お義母さんの口元の笑みの意味もおおまかに理解する。
だってね、彼女は言っていた、お酒が嫌いになるのも好きになったのも原因は、いえ、理由もアナタにあるのよ、ブランデーが奥歯に滲みて、ずるずる鼻をすする。赤い目が酔いの行く手と、思い出ばかり先立てば、君が、あのとき急に目の前でいなくなる理由、三メートル、いるのに会えないその理由、夏の蚊に癇癪を起こして灰皿をひっくり返すことも、窓のフレームから僕の世界が切り取られ、その中に収まりきれない空想が熱を含んで魘されることもなかった。
ポム・プリゾニール、林檎の色とその形而上的果肉、ガラス瓶に閉じ込められた秘密の逸話に耳を澄ます「果物以上の希望的味覚観測」、世界という青い果実にくるまって、君は何を想い、漂いながら、そして何処を想っている。
君との生活に並んでみれば、胸焼けや洗濯物、玄関にユニークな傘立て、ベランダ梅雨空サボテンの葉房、揃いのカップは片方が縁欠け、君に似合いの男なんて僕ではなかったのかもしれない。
いつかの切り花咲いた赤い絨毯思いふかし、そういう君は罪悪の理由になるね、目の前が毎にち同じ色で、すべての始まりを彼女の気紛れのせいにし、臆病為して物語の結末から逃げる。都市のアスファルトに必死に土を探し、寝息に僕を閉じ込め、時計ばかりの静かな部屋で、浅い眠り得意のまま、中途で君は感想を言ってくれない。
四面に楚国の生活音、それも筆文の冗句なら兎にも角、「原因」から「理由」もう三十分もすれば玄関の呼び鈴が押され、小説の題材も見当たらないまま、頭痛を叩くように無言問われの通告を受けるだろう。僕が物を書く、暇だから、お茶を飲む。
自暴自棄と言えば不確かな生活に石置きして彼女との朝食に何故かすごく腹が減る。その「理由」が、そういうものがあるのであれば音を立ててやってくる。僕は待つ、流し台洗い物メロディを鼻で、とっておきの強度のブランデーを喉奥に、自分への言い訳も溢れるくらい贅沢に用意して。
雨のように降り注ぐ僕の泪を雲の上に連れて行ってしまうよう、あのとき君が笑ってさえいなかったら、この三歳もそこに帰る道も夕暮れ知らず、歩くまま宛てどない幸福の在り処なんて雲の隙間に探しやしなかったのに。
毎日の夕暮れも一つながりで一抹の奇跡なぞシュガースプーン、当たり前になって期待もしなくなった。都ど僕は決められた分量のカフェイン飲料を沸かしてテーブルにカップを飾り、毎日を、煙を歌うように吐いている。
すこしだけ哀しいかもしれない、前に君が風邪の僕を部屋に置き去りにして仕事に出掛けた時、風邪薬の傍のメモに「テレビ台の引き出し」書置きがあって、本当にその日は部屋を出ることなく君を待ち、待つことに正当な理由と、その閑しのぎをやはり少し寂しがりながら昼食を飲み込んだ。
ぷかぷか金魚の呼吸に煙突ふやして、のど飴を頬にこすりつけながら灰皿がシケモク溢れ喉の腫れ、待ち遠しさが勝てば痛みにも鈍感になってくる。その鈍い痛みや微熱を思い出して、甲斐がないことを、すこし、そう、煙草を、口先にちょっぴり、コホン、また電話だ。
お義父さん「君も縛られずに、奇跡の雫も一献と消してしまえばいい」。こういう表現をする義父だから嫌いになれず、お義母さんの口元の笑みの意味もおおまかに理解する。
だってね、彼女は言っていた、お酒が嫌いになるのも好きになったのも原因は、いえ、理由もアナタにあるのよ、ブランデーが奥歯に滲みて、ずるずる鼻をすする。赤い目が酔いの行く手と、思い出ばかり先立てば、君が、あのとき急に目の前でいなくなる理由、三メートル、いるのに会えないその理由、夏の蚊に癇癪を起こして灰皿をひっくり返すことも、窓のフレームから僕の世界が切り取られ、その中に収まりきれない空想が熱を含んで魘されることもなかった。
ポム・プリゾニール、林檎の色とその形而上的果肉、ガラス瓶に閉じ込められた秘密の逸話に耳を澄ます「果物以上の希望的味覚観測」、世界という青い果実にくるまって、君は何を想い、漂いながら、そして何処を想っている。
君との生活に並んでみれば、胸焼けや洗濯物、玄関にユニークな傘立て、ベランダ梅雨空サボテンの葉房、揃いのカップは片方が縁欠け、君に似合いの男なんて僕ではなかったのかもしれない。
いつかの切り花咲いた赤い絨毯思いふかし、そういう君は罪悪の理由になるね、目の前が毎にち同じ色で、すべての始まりを彼女の気紛れのせいにし、臆病為して物語の結末から逃げる。都市のアスファルトに必死に土を探し、寝息に僕を閉じ込め、時計ばかりの静かな部屋で、浅い眠り得意のまま、中途で君は感想を言ってくれない。
四面に楚国の生活音、それも筆文の冗句なら兎にも角、「原因」から「理由」もう三十分もすれば玄関の呼び鈴が押され、小説の題材も見当たらないまま、頭痛を叩くように無言問われの通告を受けるだろう。僕が物を書く、暇だから、お茶を飲む。
自暴自棄と言えば不確かな生活に石置きして彼女との朝食に何故かすごく腹が減る。その「理由」が、そういうものがあるのであれば音を立ててやってくる。僕は待つ、流し台洗い物メロディを鼻で、とっておきの強度のブランデーを喉奥に、自分への言い訳も溢れるくらい贅沢に用意して。