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文字数 1,999文字

「ああ、クソみたいな現実だ……死にたい」
 俺は、鈴木幾男。この現実に絶望していた。
 大学受験に3度失敗。進路を変更し就職しようとしても正規雇用先は見つからない。
 恥ずかしくて実家にもいられず、安アパートの一人暮らし。仕方がないので流れてきた物をプレスする時給の安い簡単なバイトをこなしながら、何かありそうで何もない日々を過ごしている。
 こんな時間がいつまで続くのだろうか……将来への不安が俺を押しつぶす。
 そんなある日。バイトから帰宅し部屋でくつろいでいた時のことだ。スマホに知らない番号からの着信があった。怪しいと思い無視していたのだが、触れてもいないのにスマホが勝手に通話を開始しした。
「ちょっ!」
 俺は慌てて通話を切ろうとスマホを操作する……が、操作ができない。そうこうするうちにスマホの画面が光りだし、まるで女神のような女性の画像が映し出され、話始めた。
「あなたは異世界転生の候補者に選ばれました。おめでとうございます!」
「喋った!?」
 なんだか胡散臭い。当選商法の類だろうか。
「あなたは、こんなクソみたいな現実とオサラバする権利を得たのです!」
「どういうことだ!?」
「つきましては、明日の午前二時に海沿いの国道に来てください」
「おい、ちゃんと説明しろ!」
 俺の言葉を無視して話し続ける女神。それに頭にきた俺はスマホを投げつけた。当然スマホは壊れ通話は切れる。だがその束の間、部屋のテレビの電源が勝手に入り、画面にスマホに映っていた女神が映し出された。女神はまた話の続きを始める。
「予定時刻がくるともれなく、『金』・『銀』・『銅』のトラックが走ってきます。とにかくそのトラックがきたら突っ込んで死んでください! 金のトラックに轢かれて死んだあなた! 異世界でチート無双することが出来るでしょう! ハーレムも思いのまま! 惜しくも銀のトラックで死んだあなた! 異世界でとっても幸せになれるでしょう! 最後に……銅のトラックで死んだあなた! まあ、この世界にいるよりはとってもマシな生活を送れます! チャンスは三回! レッツ! チャレンジ!」
 テレビはその後、消えてしまった。
「異世界!? なんだったんだ……」
 不可解な事象に俺は困惑した。これは、ラノベとかでいうあの転生のことなのだろうか。かなり怪しい……だが、もし本当なら……。
 俺は騙されたと思って家を飛び出し、海沿いの国道へと向かった。

 夜の国道。辺りは暗く人の気配はない。道路沿いの縁石に座って予定時刻を待つ。
 予定時刻の午前二時を過ぎて間もなく、明らかに存在感のあるトラックが猛スピードで走ってきた。遠くからヘッドライトの輝きが迫る。
「あれか!」
 トラックが近づいてくる。色はゴールド!
 トラックは轟音を立てて猛スピードで走ってくる。
「本当に来た! あれに轢かれれば……」
 だが、飛び込もうという意思に反し、体は恐怖に震えた。生ようとする本能が飛び込むことを拒否したのだ。
 目の前をゴールドのトラックが通過する。
「冗談じゃない……無理だろこんなの!」
 恐怖の震えが静まる前に、もう一台のトラックがくる。色はシルバー!
「銀……あああ! だめだぁ!」
 シルバーのトラックは俺の目の前を轟音を立てて通過した。
 足がガクガクし、呼吸が乱れる。当然だ……ぶつかれば死ぬ。
 さらに頭の中で疑念が錯綜する。
 本当に異世界に行けるのか!
 俺を殺すためのトリックじゃないのか!
 何のために俺を殺す? ……あれ? 俺死んで得するやつ……誰もいないだろ。

 つまらない自問自答で俺は冷静になった。そのタイミングを見計らったかのようにトラックが走ってくる。色はブロンズ!
 おそらくこれが最後のチャンス。確かに怖い。本能的に怖い。だが、このチャンスを生かせないことの方が俺にとっては恐怖だった。
 この現実……夢も希望もない未来を過ごすことになんの価値がある……ならばいっそのこと、まだ見ぬ世界へダイブしたほうが面白いんじゃないか!
 そう自分に言い聞かせ、覚悟を決めた。
「逝くぞ! 逝くぞ! 逝くぞおぉ!」
 そして俺は……トラックにダイブした。
 吹き飛ぶ俺の体。内臓は破裂、全身骨折でもう助からない。俺は眩しい光に包まれ、意識を失った。


その後、俺は無事異世界転生を果たした。そこはお約束の中世風なファンタジー世界。裕福とは言えないが普通の平民として生まれ普通に暮らした。そして、無事15歳の成人を迎える。あの時、もっと早くトラックに飛び込む覚悟できていればもっといい生活ができたと後悔するばかりだが、今の暮らしも乙なものだ。
 実は、今の俺にはチート級ではないが一般人なら属性は3つが限界のところ全属性魔法を扱える才能がある。なので、それを生かして冒険者ギルドに登録し、Aランク冒険者を目標に魔導士として地道に頑張ってみようと思う。
 俺の異世界生活はこれからだ。
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