17:クエスト4 完了

文字数 2,354文字

「あれが私たちが欲しかった『心』かな」

 まだ辺りに土煙(つちけむり)やラチオが()いた黒い(けむり)(ただよ)ったまま、私は虎帝(こてい)()けより、虎帝の上に()かぶ黒いハート型の結晶(けっしょう)をつかんだ。
 他の四人も私より少し(おく)れてやってきた。

「……この(ねこ)はラックスで、お前はビートだな。それは分かった。他のヤツは?」

 私とオブリガートとハーモニーとリズムで、(たが)いの顔色を(うかが)う。

「まぁ、ここで言っちゃうと色々めんどくさいから。秘密ってことで」

 えへへと笑って誤魔化(ごまか)してみる。

「お前らは怪盗(かいとう)だって言ってたもんな。そんで、欲しかったのは手に持ってるそれか?」

 手の中にあるものを指さされ、私はうなずく。
 しかし、このままではいけない。虎帝から『心』を奪いとったまま(・・・・・・・)だから。

「そうなんだけど……。ちょっと持ってて」

 私は足元にいたコートに結晶を(わた)し、再び(がっき)を構えた。オブリガートたち四人に目で合図を出して準備してもらうと、(がっき)を前後に()って始まりのタイミングを合わせる。

 私たち五人の音が、ラチオにより荒廃(こうはい)した街に(ひび)(わた)った。
 コートの手の中の結晶はだんだん明るくなっていく。くすみが取れ、不透明(ふとうめい)だったものがどんどん()んでいく。

 なぎ(たお)されたり、跡形(あとかた)もなく(くず)れたりした建物は、まるで逆再生しているかのように元に(もど)ってくれた。地響きや足を()み鳴らして入った道路のヒビ割れも、そうだったことが分からないくらいにふさがった。

「わぁ、すごい」

 私たちの音につられて、たくさんのプレイヤーやアバターがぞろぞろとやってきた。ふさがれていた道が元通りになったからでもあるだろう。

 (かれ)らの目に焼きついたのは、全てのスキンを持っている人でも知らない格好をした、(じゅう)のような楽器のようなもので演奏する五人の姿だった。もちろん、これらの武器は武器コレクターでも知らない。

 くすみのないクリアな『心』が、ひとりでにコートの手から(はな)れ、虎帝の中に吸収された。

「キミの『心』を、怪盗団・GROSKが浄化(じょうか)して元に戻してやったよ」
「これを(うば)うんじゃなかったのか」
「いや、元に戻してくれる怪盗もいるってことさ」

 人だかりの中をかき分ける警察の姿が見える。
 フッと微笑(ほほえ)むと、コートは前足をあげた。次の瞬間(しゅんかん)、私たちの姿は虎帝たちの目から消えた。





 コートとさよならをして、ようやく自分の家に戻ってこられた。どうやらまだお母さんは帰ってきていないらしい。

「あーマジで(つか)れた」

 真っ先にソファーに()転がる志音(しおん)

「でも、これで一件落着?」
「いやぁ、まだああいうのがたっくさんおるってことやろな」

 律歌(りっか)の言うとおりだ。『オルビス・ナイト』のレビューには、私たちが遭遇(そうぐう)しなかった事件もある。

「だけど、コートは『今までは存在を消すっていう方法しかなかったけれど、アバターの生活を守ったまま事件を解決することができただけでも大きい』って言ってたよね」

 一語一句間違(まちが)えずにコートのセリフを再現する琴音(ことね)

「……まだまだ、(ぼく)が知ってる中でも迷惑(めいわく)プレイヤーは結構いるからね」
「やっぱりキリがねぇじゃん」

 やってらんねぇと言って、志音は目を閉じてしまった。その姿を見た琴音は苦笑いをする。

「色んな人がいるし、プレイヤーにはプレイヤー、アバターにはアバターの生活もあるし、一回で全部解決するのは無理だよね」
「ホントだよ。迷惑プレイヤーはさっさと運営がBAN(バン)してくれればいいって思ってたけど、まさかアバターっていうものがいるなんてよ。コートが(なや)んでる気持ちが分からなくもないな」

 私は目の前にある、チョコチップクッキーをかじった。ほんのりとした(あま)さが口の中に広がった。

「……(だれ)も言わないけど、さっきの演奏、今までで一番良かったよね」

 ……あ。言われてみれば。

「私もちゃんと律歌に合わせられたし、音葉(おとは)ちゃんのソロも上手だったよね」
「うちはドラム自体の音がデカくて分からんかったな」

 パッと目を開ける志音。

「確かに。レッスンで言われたこと、ほとんどできてたような」

 なんか無我夢中で、余計なことを考えずに()いてたよね。

「うん、そうかもね。いつもみたいに『よし、ソロだ!』って思わなかった」
()び伸びとしてる方がええんちゃう?」
「伸び伸びかー。レッスンの時は難しそうだね」

 ということは、レッスンで先生から言われたことを、体が覚えるまで練習しろってこと?
 ……うわぁ。

 明らかにどんよりと暗くなった私を見て、スナップをきかせてスパンと私の背中を(たた)く律歌。ホント痛いって。

「うちもまだまだやからなぁ。せいぜい、みんなを引っ張れるくらいまでにはならんと」

 さっきはうまくいったとしても、また同じようにうまくいかせるには、今の私たちではできないことだろう。
 もっと練習しないと。私がGROSKを引っぱるんだ。

 私の指に(がっき)の感触が戻ってきていた。一つの成功体験が刻まれる。





【お知らせ】
 システムメンテナンスにご協力いただき、ありがとうございました。先日から相次いでいた『フリーモードで戦闘(せんとう)状態になる』等の深刻な不具合を修正いたしました。ご利用の皆様(みなさま)には、多大なご迷惑をおかけし申し訳ございませんでした。
 また、新しいアイテム『グレースクリスタル』を追加いたしました。このアイテムは、他のプレイヤーに思いやりのあるプレイをすると手に入れることができます。一定数集めると、グレースクリスタルでの交換(こうかん)しか手に入らない、特別なスキンや武器などを入手できます。

・怪盗団の服(キュート、アクティブ、クール)
・怪盗団のスーツ(スタンダード、シック)
・怪盗団のスタンダードガン
・怪盗団のハンドガン
・怪盗団のロングガン
・怪盗団のウェポン(鍵盤型、太鼓型)
・専用BGM『ニュー・オルビスシティ』ジャズVer.

 これからも『オルビス・ナイト』をよろしくお願いいたします。
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登場人物紹介

名前:音葉(おとは)

コードネーム:メロディー

年齢:11歳(小学6年生)

性格:どんな人とでも対等に話せる、愛情深い

担当:アルトサックス、GROSKのリーダー

ジョブ:スタンダード


一人称は『私』。志音は双子の弟。北小学校。

アルトサックスがメロディーであり、体力テストでAとBの瀬戸際という理由でリーダーになった。

癖の強いメンバーをなんとかまとめている。

名前:志音(しおん)

コードネーム:オブリガート

年齢:11歳(小学6年生)

性格:面倒くさがり屋、大ざっぱ、やるときはやる

担当:テナーサックス

ジョブ:スタンダード→スプリント


一人称は『俺』。音葉の双子の弟。北小学校。

適応能力が高く、反射神経がよい。

面倒くさいものは姉に押しつける。

名前:琴音(ことね)

コードネーム:ハーモニー

年齢:12歳(小学6年生)

性格:おっとり、気が利く

担当:ピアノ

ジョブ:スタンダード→ヒーラー


一人称は『私』。北小学校。

勉強ができて特に暗記が得意。学校1ピアノがうまいのでよく伴奏者になる。

常に周りを見ており、冷静。

名前:弦斗(げんと)

コードネーム:ビート

年齢:11歳(小学6年生)

性格:真面目、ぼんやり、聡明

担当:コントラバス、エレキベース

ジョブ:スタンダード→エイム


一人称は『僕』。西小学校。

学校1の頭脳を持つが、しゃべり始めるまでにラグがある。

ゲームの腕前はピカイチで、上位プレイヤーなら誰もが知っているほど。

名前:律歌(りっか)

コードネーム:リズム

年齢:12歳(小学6年生)

性格:とにかく明るくアネキっぽい、積極的

担当:ドラム

ジョブ:スタンダード→ワイド


一人称は『うち』。西小学校。

好きな芸人に影響され、エセ関西弁をしゃべる。

見境なく誰にでも話しかけるタイプで、GROSKの活気の源。

弦斗のいわば保護者。

名前:ラックス

コードネーム:コート

年齢:?

性格:正義感が強い、忘れっぽい

担当:情報収集、GROSK補佐

ジョブ:案内役(スパイ)


『オルビス・ナイト』をプレイすると一番最初に出会う猫のキャラクター。見た目は白猫でオッドアイ。

普段は案内猫としてプレイヤーをサポートしているが、裏ではスパイをしているという。

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