第1話 はじまりのはじめ

文字数 800文字

 わたしは足が細い。
 でも、これは自慢ではない。
 たとえば、わたしの後ろ姿を見て、足の細さに目が留まった男の子がいたとして。
 足のすぐ上のお尻は、ぼたっ、としている。腰も特に細い訳ではない。胸も大きい訳でも、小さい訳でもなく、メリハリがない。
 そして、これが一番問題なのだけれども、視線をずっと上げて行って最後にたどり着く、わたしの、その、顔は。
 ぱっとしない。
 ・・・こんなわたしだけれども、男の子に告白したことがある。
 と言っても、小学校3年生の時のこと。
 しかも、自分が相手に直接言った訳ではないけれども、面と向かっては伝えたという、やや複雑な状況下で。
 こんな、シチュエーションだった。
 その日の放課後、わたしは好きだった男の子の家の前まで行った。同じクラスの女の子で特に仲がいい訳でもない、秦さんと一緒に。秦さんは美人ではきはきしてて、クラスの男の子たちとも割とよく喋っているというキャラだったので。
 その日はその男の子の誕生日だった。秦さんはクラスの男の子たちとの雑談の中で、その情報を仕入れていて、わたしに教えてくれた。ついでに、というか、秦さんの方から、「絶対今日、行くべきだよ」と引っ張るようにして連れて行ってくれた。
「森野さん、多田くんのこと、好きなんだって」
 玄関に出て来た多田くんは、しばらく秦さんの顔を呆然と見ていた後、視線をわたしの方に向けたようだ。‘ようだ’、というのは、気配でそう感じただけだから。わたしは恥ずかしくてずっと俯いていたので、多田くんの顔の輪郭はぼんやりと見えたけれども、目は直視していない。
「じゃあ」とたった一言、そう言って、多田くんは静かにドアを閉めた。
 返事も貰えなかったけれども、今となってはそれでよかったのかな、と思っている。
 なぜなら。
 多田くんは小学校4年生になった頃からもの凄いいじめに遭い、5年生の冬の初雪の日、自殺してしまったから。
 
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