第1話

文字数 2,000文字

 このちょっと屈託しつつブッ飛ばしてる感じ、どっかで聞いたことあるなあ、何だろ? そうだ、台湾のバンド、透明雑誌だっ! 7、8年前、『僕たちのソウルミュージック』という透明雑誌のアルバムを聴いて、勢いよく溢れ出す音の活力に衝撃を受けたけど、NITRODAYにもそれに通ずるエナジーを感じる。音がどっか突き抜けてるから、痛快なんだな、歌詞はなんか煮え切らないけど。
 NITRODAYも透明雑誌も、NUMBER GIRLに影響を受けてるわけだけど、考えてみると、福岡というメトロポリタンシティ(日本的陰湿を確信犯的に文章に盛り込みつつ、日本人離れしたスケールで小説を書いた夢野久作は、福岡の作家だ)のバンドが、解散後こんなふうに、福岡を間に挟んだ東西の別のメトロポリタンシティ、横浜と台北のバンドにそれぞれ深い影響を及ぼしたというのは、注目すべき現象だ。
 NITRODAYを聴いてると、港に停泊している外国の船を見て、悶々としてる少年の姿が目に浮かぶ。はやりの音楽もつまんないし、みんなとアニメやゲームの話するのにも飽きたし、ヘッドフォンしてスマフォいじってるだけじゃあ何も変わらないし、いっちょあの船に乗って、外国に行ってみてえな、でもやっぱそんな金も度胸もねえし、好きな子もできたし、と内心でつぶやいて、レコ屋で一昔前のCDや洒落たジャケの輸入レコードの掘り出し物を探してる少年、そんな掘り出し物のことを誰かに話したいなあ、と想ってる少年。
 それから、NITRODAYと透明雑誌に共通するもう1つの特徴は、島国のバンドらしいナイーブさをたたえつつも、音の質感が大陸と直結してること。繊細であると同時に、アメリカのバンドと同質の開けっぴろげで、からりとした、ダイナミックな音たち。2つのバンドとも母国語で歌ってるんだけど、借り物の英語で歌うバンドよりも、芯の部分でメリケンスピリッツを匂わせてる。
 前置きが長くなったけど、『少年たちの予感』について述べよう。でもやっぱり、もうちょっと前置き。今2019年、令和元年というこのときに、少年たちがロックバンドをやっていこうとすることの意味について。青春パンクブームがあり、パンクも商品の1つとして一応市民権は得ました、みたいな状況があって、ただ爆音を出すだけでは「不良」と見なしてもらえないし、もはや目新しくもなくなって、じゃあどうすりゃ個性を出せるのよ、というこの今。インターネットの普及で、奇抜過激なアイデアも瞬く間に出回り、陳腐化していくし、ネット上の無数の過去の楽曲群を前に、「すでにやり尽くされてんじゃない?」と気後れしないわけにはいかないこの今。
 そんな、やる前からすでに「去勢」されてる感はNITRODAYにも濃厚にある。でも、去勢されてようがとにかく、俺たちは俺たちで俺たちの音を、今、ここで鳴らしたいんだ、というせっぱつまった衝動が核心にあって、それが救いになってる。
 カット&ペーストの時代、テクノロジーを器用に駆使して、耳になじみやすいフレーズを組み合わせ、曲をでっち上げるのは容易なことだし、むしろ、情報過多にうんざりしてわけのわからぬものよりはとにかく判りやすいものを求める人々にとっては、そんな安易な曲の方がかえっておあつらえ向きなのかもしれないが、奴らは、そういうのはイヤなんだろう、気質的にそぐわなくて。この「みんな」との違和感が出発点になってるから、歌詞の上では弱々しいことを言ってても、音や声にはぎらりと光る異彩がある。そしてそれこそ、今ロックバンドをやっていくことの意味を問う設問への、奴らなりの解答。過去にどれだけロックバンドが存在したとしても、やっぱり不満だよな、自分たちの手でやってみなけりゃ、自分たちのロックバンドを。
 このレビュー、前置きばかりで、肝心の本論になかなかたどり着かない。だけど、このシチュエーション、『少年たちの予感』で歌われる少年たちの立ち位置にそっくりじゃないか?! スカッとスタート決められないで、とつおいつ思案して、1周遅れになってても、まだ煮え切らない。このレビューだって、本当は、1曲目はどうでとか、単刀直入、理路整然と進められたらいいけど、「そんな簡単にいかないのだ」。
 というわけでこのCDが結局、どんな作品なのかは、自分で聴いて確かめてくれ、ってのはズルいか。でもズルいといえば、『少年たちの予感』というタイトルも、ズルいよな。だって、予感だったら、間違ってても、あれは全部単なる予感に過ぎなかったってことにして、ごまかすことも可能だから。やる前から言い訳用意してるみたいで、ホント、煮え切らねえバンドだ、音はふっ切れてるのに。まあそのギャップがいいんだろうね。「予感」の先にある少年たちの「体感」へ、ライブで共に入っていこう。予感を予感のまま終わらせんな!
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