第3話
文字数 2,646文字
本当に自由な奴だ。ここは一発でも殴ってやりたいところだが、あいにくそんなケガは俺にはとっくに消えている。納得して引き下がるしかない。
彼女は敵に氷の拘束具を付け、炎を鎮火した。とはいえこいつの能力がいまだによくわからない。1人に1つの能力じゃないってことか? とはいえパンチは努力すればいくらでも強く......
いや聞いた方が早いか。素直に教えてくれないのはもう学んだが、遠回りの草原を歩きながら俺は彼女に問いた。
腹が立つ。できることなら殴ってやりたいところだったが、俺の拳をシミルが止めた。仕方ない。ようやく素直でないにしろこの世界に詳しそうな奴と出会えたんだ。この機会を逃すわけにはいかない。
ならなぜ逃げない。といってやりたかった。が、このままその考えに至られても困る。せっかくの情報だ。とれるなら取れるだけもらっておくのがベストだ。
彼女が言っていることは一理ある。とはいえ念のためにシミルに手錠を強化してもらい、おまけに羽も凍らせた。とはいえあまり無意味なことはなんとなく理解していた。
彼女は俺の顔を見て睨みを見せた。が、手錠に抵抗を見せたわけではなかった。にしてもエルフに悪魔。ここまで簡単に特殊族に会えるなんて思ってもみなかった。
俺が1人だけだったら、こいつはいつまでも俺を殺そうと努力していたわけか。とはいえどうせ俺は死なないのだから、意味はないけどな。
やっぱり俺の直感に間違いはなかった。シミル・パルテロッカ。彼女は俺にとっても脅威であり、何より彼女にとってもそうらしい。おかげで危ない目に合うことも少なさそうなのが一部喜びだが。
とはいえこいつの言動などなに1つと信用してなどいない。悪魔は嘘をついてなんぼだ。さっきの性格から嫌でも思い知らされた。
少しだけ好戦的ではないように思える。だが嘘をついている様子はない。俺はシミルへの命令を取り下げ徒歩を再開した。とはいえさすがに時間がかかりすぎているか。
まさかと冷静な考えが今更よぎった。ひょっとしても何もない。14歳としての行動としてもおかしくない。むしろ地図があればいいくらいだ。
俺は笑うこいつを思いっきり睨んだが、むしろ笑いが増えるだけだった。14歳の彼女ならカワイイで済むが、俺ならただのバカで終わる。
とはいえこいつに頼るしかないか。バキリアが周辺事情に詳しいかは定かではないが。
3日間分の食糧もある。最悪は帰ることも......ないな。
頑固な奴だ。とはいえ疑うことを忘れていないその姿勢は少しだけ学びになる。シミルは俺がうなずいたことに疑問を感じていたが。
純粋無垢でなんでも知りたがりの彼女に冷静さを取り戻させるのには苦労したが、バキリアはそれに納得し、俺たちを王都と呼ばれる場所へと案内してもらうことになった。
とはいえ王都か。この周辺の王様はどのような人物なのだろう。金に貪欲で人を物としか見ていないとか?
優しさを大切にし過ぎて活動資金をばら撒いているとか?
さすがに極端すぎるか。
ただわかるのは王都が悪魔を認めているということだ。俺の予想じゃこいつは嫌われていそうだが、今回はその限りでもないらしい。王様はきっと寛容なのだろう。
俺たちはテントを張り、森の中で夜を過ごすことにした。とはいえ安心はできない。目の前に敵がいるのだから。