第20話 花火大会

文字数 2,316文字

花火大会の会場付近には、出店が縦と横に沢山並んでおり、市の住民がほとんどが来ているのではと感じるくらい人で溢れかえっている

「もう少しで希子たち着くって」
春来がスマホの画面を眺めながら僕に伝える

僕と春来は、会場に集合時間より早く着いてしまい会場付近の休憩スペースで腰を下ろしながら、後から来る女性二人を待っている。

「お待たせ~、人多すぎて着くのに時間かかっちゃったー」
希子と澄川さんが仲良く歩いてきて、よく見ると二人とも浴衣を着ていた

(澄川さんの浴衣初めて見た…新鮮だな~、こんなにも浴衣が似合う女性がいるのか…?)

澄川さんは、いつもの長い髪を一つに丸めて小さなお団子ヘアーにしており、浴衣は薄いピンクに白の花柄がデザインされている浴衣を着ていた

「それじゃ行くかー」
春来が重い腰を上げて、4人で出店のある方へ向かった

色々回ってるうちに、春来が希子のわがままに付き合わされどこかに行くと言って、僕と澄川さんが2人きりになった

「待ってた・・・」
希子と春来がいなくなってから急に澄川さんが言った

「えっ?」

「2人だけになれる時間・・・」
彼女は恥ずかしそうにしながら、僕の手を握り顔を見て言った

「そっ、そうだね」

(澄川さんの手・・・なんか震えてるしいつもより握る力強いような・・・)

「ねっ、ねぇ良大君・・・金魚すくいやってみない?」

「うん、いいよ…」

僕らは、手をつなぎながら金魚すくいの出店まで行き一回200円という文字を見てすぐに二人分お金を払い、おじさんから2つポイをもらってそのまま1つ澄川さんにあげた

「えっ、いいの・・・?」

「いーよ、僕もやってみたかっし」

(とはいっても、正直自信ねー!カッコつけた勢いで言ってみたけど、金魚すくいなんか人生で1、2回くらしかないよ)

「あっ、」
ポイを水に入れて数秒もしないうちに、死角からきた金魚に破かれた

「ふふっ、リョータ君って下手っぴなんだね」
澄川さんは、持っているポイで口元を隠しながら笑った

「次は、私の番だね」

澄川さんは、浴衣の袖を少し捲りポイを入れると慣れた手つきで金魚をすくっていき、破けたときには5匹も捕まえていた

「澄川さんって、こういうの得意なの?」
僕は、こんなにうまいのか聞いてみたかった

「うん、小さいころに地元のちっちゃな祭りで両親とよく金魚すくいしてたからね」

おじさんから金魚を受け取り、出店にあったリンゴ飴を買って歩いていたら春来からメールがきた

「お前ら今どこだ?」

「リンゴ飴買ったところ」

「なんだそれ、まぁいーや俺たちもう会場にいるから来いよ!前の方な」

「了解」

春来からのメールで、会場に向かうことにしたが会場に着くと人混みで中々目の方に行きそうにもなかったので春来に事情を説明したメールを送った

「ここじゃあ、見づらいよね・・・?」

「そんなことはないけど・・・あそこならここよりもよく見えるかも・・・」
僕は、澄川さんが指をさした方向を見ると小さな山の頂上にあるテラスだった

「距離あるけど~、間に合うかなー?」

「きっと大丈夫だよ!」
そういって、彼女は僕の腕を引っ張り人混みの間を縫うように抜けて、そのまま山の頂上のテラスまで走った

「ほらね…間に合ったでしょ…」
彼女は、僕の手を握りながら言ってきた

「確かに…間に合ったけど…」
周りにはだれもいなくて、僕らだけの貸し切り状態みたくなっていた

「あっ、はじまったよ!」

花火が会場から打ち上がり、高いところから見る花火はとてもきれいだった

(なんかこのムードいい・・・)

花火は盛大に打ち上がり、街を照らし最後に一番大きな花火が打ち上がり終わりを告げた

「終わったね・・・」
花火の煙が夜空を漂い、それを名残惜しそうにしながら僕は言った

「終わっちやったね・・・」

「春来たちの所に戻ろっか」

僕が、彼女の手を握ったまま来た道を戻ろうとした時だった

「ねぇ、リョータ君・・・」
彼女が握っていた手に力を少し入れて、僕の足を止めさせる

「リョータ君はいつ気づいてくれるの?」

(ん?急にどうしたんだろ・・・)

「気づくって・・・なにか僕見落としてる?」
なにか見落としてないか周りを見る

「ちがうよ…リョータ君はいつ私の気持ちに気づいてくれるの?」
下に顔を向けていた澄川さんが、勢いよく顔を上げ僕に涙目を見せながら力強く言った

(えっ、澄川さんの気持ちに…気づく…?)

「澄川さんの気持ち・・・?」
僕の口から自然に出た

「そう、私の気持ち!」
彼女は、ついに涙を流した

(澄川さんの気持ちってなんだ…?確か前にキャンプで二人であの夜を過ごした時、言ってたことかな…?大事な人なんじゃないかって…)

「まさか、前に言ってた大事な人の意味って・・・」
僕は、あの意味を間違えて捉えていたのかもしれない

「そうだよ、私にとっての大事な人って・・・ずっと一緒に居たいってことだよ」

それは、彼女からの事実上の告白だった

(くっそ、なんで今ままで気づかなかったんだ!僕のバカ!しかも、澄川さんなんかに言わせて情けねーよ!ちゃんと、僕から言うんだ…僕の思いも!)

「澄川さん・・・その、僕も一緒に澄川さんと一緒に居たい!これからも・・・長く一緒に!」
僕は、勇気を振り絞って今の気持ちを彼女にぶつけた。
すると、涙が急に溢れ頬に伝った

「もう、リョータ君が泣いてどうすんのさ…リョータ君のバカ…」
彼女は、握っていた手を離し両腕を広げながら、僕の胸に飛び込みずっと我慢していた涙を流し、僕の胸に顔をうずめて泣き止むまで何回も言った

「リョータ君大好き!リョータ君大好き!」
僕は、彼女を包むよう抱きながら言った

「僕もだよ澄川さん…愛してる!」

こうして、僕たちは残っていた1発の大きな花火に照らされ付き合うことになった



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