(四)ゼットンフォーラム2

文字数 3,368文字

 ゼットンフォーラムの表の顔は、他の新興宗教団体の姿と然したる違いはない。多少ブースカ仏会に逆恨みを抱き目の敵としている位で、後は至って穏健なる顔を装っている。ではゼットンフォーラムのその奥に一歩足を踏み入れたならば、どうであろうか。これから述べるのは、ゼットンフォーラムの裏の顔並びに裏側の世界の話である。
 そもそもゼットンフォーラムのような一言で言えばカルト教団というものは、見た目や役所の手続き上は独立した宗教法人のようではあっても、世の裏側に於いては決して独立した団体ではないのである。上には上がいるもので、ゼットンフォーラムのようなカルト教団をひとつの駒として操る上位組織がちゃんと存在している。でそのレベルの組織を更に支配する上層の組織が有り、そのまた上に……というように、幾層ものピラミッド構造で世の悪の組織が成り立っている。そのピラミッドの頂点に君臨する組織こそが、この世界の悪の総本山とも呼ぶべき超国家的な闇の組織なのである、じゃーん。この闇の組織の前では、流石のゼットンフォーラムも最早下っ端も下っ端の末端機関に過ぎず、吹けば飛ぶというか用が済んだらさっさと潰されてしまう、大空を漂う一片の雲の欠片にすら満たない存在なのである。
 この闇の組織が、実質的にこの世界を支配し、操り動かしている。なぜなら如何なる組織、団体、機関、法人すらも、意識するとせざるとに関わらず、闇の組織を頂点とするピラミッドの支配下に組み込まれ、何らかの形でつながっているからである。すべての国家の権力者である国王、政府、政党、政治団体、警察、軍隊は勿論、国連を始めとする国際平和団体、宗教団体、経済団体、果てはマフィア、テロ組織に至るまで、皆裏で牛耳られている。それらの団体や組織、会社に所属する一般市民たちは、自分がそんな闇の組織の支配下にあるなど夢想だにしないのは勿論であるが、そんな一般市民が闇の組織を陰で支えているのもまた事実なのである。例えば税金。みんなが汗水垂らして納めた税金の一部が、巡り巡って闇の組織の懐へと吸収され資金源となっている。尤もお上が下々の民に年貢を納めさせるのは、いつの世も同様ではあるが。
 世界を思うがままに動かすこの闇の組織、歴史は古く紀元前というかすべての宗教の発生より以前、古代ヨーロッパはイングランドの地に発祥し、現在に至るまで人類の歴史に於いて戦争と平和とを交互に繰り返しながら、この地上に現代物質文明かつ貨幣制度社会を着々と築き上げて来た。
 彼ら闇の組織のトップの思想は、至ってシンプル。戦争が神によるその時代時代の最後の審判であり、平和がその時々の文明即ち限定されたユートピアである。平和が永く続くと人類が怠惰、倦怠を覚え堕落することを熟知している彼らは、時より神の裁きの名の下に堕落した人類を清算、詰まり戦争を起こしてジェノサイドを敢行する。その後更に高度な文明を築き上げ、進歩を成し遂げる。この最後の審判とユートピアの思想こそが、彼らの支配する数多くの宗教団体の基本的教義となるのは言うまでもない。従って万国共通どの宗教も似たり寄ったりの教えとなるのは止むを得ない訳である。
 永い年月、この戦争と平和のサイクルを続けて来た彼らであるが、いつまでも永久無限にこれを継続させる訳ではさらさらない。物質文明がある程度完成の域に到達したと彼らが満足した暁には、いよいよ彼らは終わりの終わり、これが本当の世界の終わりですよ、いいですか良い子のみなさん、全面核戦争だか地球温暖化だか知らないけれど、最終の本番の最後の審判をば断行する腹積もりでいる。
 これによってさんざ長いことこき使って来た一般市民たち、不要となった大部分の人類が滅亡する。だからこれが本物の最後の審判であり、神の裁きの本当の基準というのは、実は彼らにとって必要か否かだけなのである。でないと彼らにとっても貴重な地球の資源が、一般市民に食い潰されてしまうからね。だからエコロジーとか持続可能なライフスタイルなんてムーブメントも、実は彼らが自分たちの資源を守る為にやらせているんだよ、いいかい良い子の皆さん。そしてその後、僅かに残った彼らだけのユートピアが確かに完成するという訳。
 極秘のホットラインを使って、最後の審判をいつやりますかね、何てことをば常々冷静に討議し合う彼らに、ジェノサイドに対する罪悪感など一切なし。「すべては我らがユートピア完成の為、多少の犠牲も止むを得ますまい」などとすまし顔。今日もこの地球の何処かで質素な一般市民に成り済まし、いい気なもんだよ、彼らは日向ぼっこしながら午後の紅茶とお饅頭などしているのである。

 話戻って、そこで我らがカルト教団ゼットンフォーラムである。仮にも天下の闇の組織の下っ端中の下っ端ゼットンフォーラムにも、来たるべき最後の審判の日に備え、光栄にもそれなりの役割と使命が与えられるのであった。でなければ飼い馴らしておく意味、存在価値がないというもの。簡単に言えば人類滅亡の為、宗教的には最後の審判の名の下に、地道な破壊活動を行う実行部隊、尖兵となるのである。
 しかし仮にも宗教団体なんだから、そんな所が破壊活動だなんてナンセンス。神を信じ平和を愛する真面目な信者たちが、そんなことをする訳ないじゃん。そりゃそうだ。そこで破壊活動とは言わず、お得意の宗教的解釈によって綺麗事を並べ、信者をその気にさせてしまうのである。例えば「わたくしたちの目指すユートピアは必ずやいつかこの地上に到来するのではあるが、現在のこの悪魔に支配され汚れ切った世界が続く限り、それは到底無理、不可能なことなのである。では皆さん、わたくしたちはこの現状現実を踏まえ、一体何を成すべきなのでしょうか。指をこまねいて、ただひたすらユートピアの到来をば無力に祈るしかないのでしょうか。答えはノー、ノーなのです。人類救済とユートピア実現の為、わたくしたちが成すべきはただひとーつ、それは自ら戦うということなのでーす。宜しいですか、皆さん。この生命を投げ打ってでも、そうです皆さんお得意の自己犠牲ってやつですね。この数千年の長きに渡り支配され続けた悪魔の世界から脱却し、わたくしたち自らの手でわたくしたちのユートピアをば勝ち取らねばならないのです。その為の戦い、その為に戦うということなのです。そうです、聖なる戦い、これは聖戦なのでーす。さあ皆さん、共にユートピア目指して、戦いましょう。じゃーん」
 アイアイサー、ヒューヒュー、ブラボー、拍手かっさーい。流石は我らが教祖、佐谷大先生様。ハイル佐谷、佐谷マンセー。我らの佐谷に永遠の祝福あーれーっ。わたくしはこの命を、ゼットンフォーラムと救世主佐谷様に捧げ切りまーーす。
 それはゼットンフォーラムの絶対的カリスマ佐谷が、まだバルタン協会の一幹部に過ぎなかった時のこと。闇の組織のエージェントは巨大教団であるバルタン協会に、日本に於ける最後の審判即ち破壊活動をばやらせようと企んだ。しかし生憎バルタン協会は既に闇の組織の別の目的の為に機能しており、それなりの成果も上げていた。そこでエージェントは急遽計画を修正し、なぜこんなろくでなしがバルタン協会の幹部なのだと呆れる程の唯物的野心家佐谷に目を付け、酒、女、金で篭絡してバルタン協会を脱退させ、破壊活動を主なる目的とする新たな教団を創らせたのである。それがゼットンフォーラムという訳。
 そんなこととは露知らず、一般市民の中の善人共、人畜無害のお人好しが、今日も何処かの街角でゼットンフォーラムに勧誘され入信する。自分たちは世の中の役に立ち世界を救い人類救済の使命を担っているのだ、我がゼットンフォーラムは愛と正義に満ち溢れた素晴らしい団体なのだと固く信じ、良かれと思い献金し奉仕もする。まさか自分が悪の組織を支えているなどと夢にも思わず、日々自らが破壊活動の協力者、加害者となっていることに哀れ気付きもしないのである。
「しっかし、まっことあくどいお方ですなあ、佐谷様という方は」
 にやにやと酒を交わす側近たちに、けれど佐谷は高笑いでこう繰り返し答える。
「いやあ、結局何処の宗教団体だって、うちと似たり寄ったりなのさ、がっははははっ」
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