16 魔王の真実

文字数 5,250文字

 ファミーユが案内(あんない)してくれた(さき)は、大岩(おおいわ)のそばの建物(たてもの)だった。

 木でできた建物(たてもの)(なか)(はい)ると、木のいい(かお)りに(つつ)まれる。もう何年(なんねん)()っているような建物(たてもの)だけれど、いまだに木の(にお)いがするのはすごいわね。
 中には祭壇(さいだん)(つく)られていて、その前の演説台(えんぜつだい)のところに、昨夜(さくや)女性(じょせい)神官(しんかん)が立っていた。

 「来たわね」
 そうつぶやくと、神官は私たちの方へと歩いてきた。
 「さ、(すわ)ってちょうだい。……ファミーユたちも一緒(いっしょ)にね」
と言って、そばの(ゆか)にみずからも座る。ファミーユにうながされて、ヒロユキもコハルも床に座り込んだ。

 ヒロユキが気まずそうに、
 「あ、あの。(おれ)たちを(たす)けてくれてありがとうございます」
と言って、(あたま)を下げた。コハルもあわてて一緒(いっしょ)に頭を下げる。

 神官(しんかん)(わら)いながら、
 「お(れい)なら私たちというより、そこのキツネちゃんに言った方がいいわね。私たちが(むか)えに行くまで、キツネちゃんがたった一匹(いっぴき)で、二人(ふたり)(まも)っていたのよ」
と言うと、ヒロユキとコハルがおどろいて私を見る。

 ……いいわよ。(べつ)に。そんな(たい)したことしてないし。
 そう(おも)ったけど、コハルが、
 「本当(ほんとう)? ユッコ。ありがとう」
と言って私の(あたま)をなでてくれた。
 ()(ほそ)めてその()をぺろっとなめると、コハルは微笑(ほほえ)んだ。

 神官(しんかん)が、
 「私はここの(むら)長老(ちょうろう)でもあり神官をつとめているフローレンスよ。あなたたちを(むか)えに()けっていう神託(しんたく)が下りてね。そこの二人に迎えに行ってもらったの」
というと、そこでヒロユキとコハルが(あらた)めてお礼を言っていた。

 ふうん。神託(しんたく)ねぇ。いったいどんな(かみ)さまかしら? きっと私のことを知っていたのよねぇ?

 気になる言葉(ことば)が出てきたけれど、神官のフローレンスが説明(せつめい)をするのを()つわ。

 「(ひさ)しぶりに人間族(にんげんぞく)()ったわね。
 ……私ね。(むかし)仲間(なかま)一緒(いっしょ)にロンド大陸(たいりく)(たび)したことがあるのよ」

 ヒロユキがいぶかしげに、
 「もしかして……、ここはロンド大陸じゃないんですか?」
というと、フローレンスはうなづいて、
 「ここは魔大陸(またいりく)ダッコルトよ。今は、魔王(まおう)復活(ふっかつ)して支配(しはい)する魔族(まぞう)大陸(たいりく)になっているわ」

 コハルがおそろしそうに、
 「ま、魔王(まおう)復活(ふっかつ)?」
 「ええ。少し(まえ)にね。
 ……ここはダークエルフの(かく)集落(しゅうらく)よ。
 ほかにも私たちみたいに(かく)()んでいる種族(しゅぞく)がいるけれど、ここは(むかし)から不思議(ふしぎ)結界(けっかい)があって、魔族(まぞく)も入って来れないの。
 それもあって、はるか昔には、私たちの先祖(せんぞ)魔王(まおう)(たたか)ったのよ」

 ヒロユキが、
 「へぇ。ダッコルトは魔族(まぞく)魔物(まもの)魔獣(まじゅう)()暗黒大陸(あんこくたいりく)ってことしか知らなかったなぁ」

 フローレンスは微笑(ほほえ)んで、
 「あらあら。それはみんなの前では言わない方がいいわね。私たちは魔族(まぞく)じゃなくても、実際(じっさい)()んでいるんですもの」
 「あ、ごめんなさい」
 「いいわよ。ロンド大陸(たいりく)の人はそういう認識(にんしき)だってことは()ってるから。ちょうどいいから魔王(まおう)のこと説明(せつめい)しましょうか?」
 ヒロユキとコハルはうなづいて、
 「おねがいします」と言った。
 うん。私も興味(きょうみ)があるわ。この世界(せかい)魔王(まおう)のこと。

 フローレンスは、ファミーユにお(ちゃ)用意(ようい)指示(しじ)すると、ヒロユキとコハルに()きなおる。

 「もともとダッコルトには、悪魔族(あくまぞく)鬼族(おにぞく)、ダークエルフ、獣人族(じゅうじんぞく)が住んでいたの。
 悪魔族(あくまぞく)って言っても、知恵(ちえ)のあるスライムなんかもいて、色々(いろいろ)なんだけどね。
 ……たくさんの種族(しゅぞく)が住んでいたの」

 「うんうん」

 「はるか(むかし)に、悪魔族(あくまぞく)一人(ひとり)(おとこ)が、人々(ひとびと)()(いか)りとか (うら)み などの(わる)感情(かんじょう)に、(つよ)いエネルギーがあることに注目(ちゅうもく)したのね。
 最強(さいきょう)存在(そんざい)目指(めざ)したその(おとこ)は、特殊(とくしゅ)魔方陣(まほうじん)(つく)りあげて、世界中(せかいじゅう)からそういう(わる)感情(かんじょう)自分(じぶん)(あつ)めて吸収(きゅうしゅう)することに成功(せいこう)したのよ。
 ……そうして()まれたのが魔王(まおう)

 ……あちゃぁ。そいつ、やっちゃいけないことしてるよ。
 マイナスの感情(かんじょう)(あつ)めたら 破滅(はめつ)をもたらすだけでしょうに。
 (つよ)くなりたいなら 地道(じみち)修業(しゅぎょう)しないとだめよ。

 「魔王(まおう)は、たちまちに魔族(まぞく)鬼族(おにぞく)獣人族(じゅうじんぞく)支配下(しはいか)にしたわ。
 そして、魔王(まおう)(わたし)たちダークエルフを支配(しはい)しようとすると同時(どうじ)に、ロンド大陸(たいりく)()()んだのよ。
 たくさんの人たちが()んで、(おお)くの()(なが)されたわ。
 ……だけど、あるとき、(つき)精霊(せいれい)降臨(こうりん)して、魔王(まおう)を三つのオーブに封印(ふういん)したといわれているわ」

 コハルが、
 「三つのオーブに?」
とききかえす。フローレンスはうなづいて、
 「そう。太陽(たいよう)のオーブ、(つき)のオーブ、そして、(ほし)のオーブよ」
 「じゃあ、その三つのオーブが無事(ぶじ)なら魔王(まおう)復活(ふっかつ)できないってことだよね?」

 コハルがそういうと、フローレンスは言いだしずらそうにして、
 「もう()わってしまった(はなし)よ?
 月のオーブはこの神殿(しんでん)にあったの。()()したのは……、私の(おさ)なじみのバアルなの。
 (かれ)は……、彼は人間族(にんげんぞく)(うら)んでいる。
 きっとほかのオーブを(あつ)めたのもバアルだと思う」

 「え? じゃ、じゃあ……」
 「確証(かくしょう)はないけれど、バアルが魔王(まおう)復活(ふっかつ)させたのよ。人間族(にんげんぞく)(ほろ)ぼすために」

 フローレンスは(かな)しげな表情(ひょうじょう)でうつむいた。
 う~ん。一体何(いったいなに)があったのかしら? 

 ヒロユキが、
 「あのさ。そいつは、なんで人間族(にんげんぞく)(うら)んでいるんだ?」
とたずねた。
 フローレンスはしばらく沈黙(ちんもく)してから、(かお)()げる。
 「さっき()ったわよね?
 仲間(なかま)一緒(いっしょ)にロンド大陸(たいりく)()ったことがあるって。
 ……その時の仲間(なかま)がバアルと、ミニーだったのよ」

 フローレンスは、なつかしそうに天井(てんじょう)見上(みあ)げた。
 「(いろ)んなところへ行ったわ。
 ヒルズとかいう村で、太陽(たいよう)のオーブのある ほこらも見つけたし。
 ……ただ、とある(まち)に行った(とき)、ちょうど(ちか)くのモンスターが大きな()れがおそってくるところだったのよ」

 ヒロユキが、
 「魔獣大暴走(スタンピート)か?」
 それにフローレンスはうなづいた。

 「私たちは、そこの騎士団(きしだん)冒険者(ぼうけんしゃ)協力(きょうりょく)して(たたか)った。
 想像以上(そうぞういじょう)の大きさの()れで何人(なんにん)もの騎士(きし)冒険者(ぼうけんしゃ)(たお)れ、とうとう(まち)()てて()げるしかない状況(じょうきょう)になったのよ。
 あれは本当(ほんとう)地獄(じごく)(かま)のふたが()いたのかと思った。
 ……そこらじゅうに死体(したい)(ころ)がり、腐臭(ふしゅう)がただよってどこもかしこもぼろぼろだった」

 その光景(こうけい)(おも)い出したフローレンスがおびえたような表情(ひょうじょう)になり、
 「最後(さいご)にミニーが大魔法(だいまほう)をつかったのよ。……もう体力(たいりょく)魔力(まりょく)限界(げんかい)(むか)えていたのに。生命力(せいめいりょく)()()えにね。
 あの()ったら、小さな(おとこ)の子が()(おく)れたのを見つけて、必死(ひっし)になったのよ」

 あぁ、そうか。生命力(せいめいりょく)使(つか)ってしまったのね……。
 それもかなりのレベルの魔法(まほう)のために。

 「その大魔法(だいまほう)は、高熱(こうねつ)(ほのお)が じゅうたんのように(ひろ)がっていく魔法(まほう)で、モンスターの大群(たいぐん)(ほのお)()み込んでいった。
 ……そして、その(まち)(すく)われたの」

 コハルが、
 「よかったわ。すごいのね。そのミニーって人」
というと、フローレンスは小さく(わら)った。

 「ふふふ。そうよ。私たちの中で、ミニーが一番魔法(いちばんまほう)得意(とくい)だったのよ。
 ……でもね、ミニーは生命力(せいめいりょく)()らして寝込(ねこ)んじゃったのよ。
 (なお)すのに特殊(とくしゅ)薬草(やくそう)必要(ひつよう)だったから、感謝(かんしゃ)している人たちを信用(しんよう)して、(まち)宿(やど)にミニーを()かせて、私とバアルとで(さが)しに行ったわ。
 けれど、それが間違(まちが)いだった」

 うん。(はなし)()状況(じょうきょう)場合(ばあい)普通(ふつう)魔法薬(ポーション)じゃ()りないわ。
 その時は、よりレベルの(たか)いハイポーションとか、万能(ばんのう)魔法薬(まほうやく)エリクサーとかじゃないとダメなのよ。 

魔物(まもの)大群(たいぐん)は、一人の人間族(にんげんぞく)(わる)魔法使(まほうつか)いが()()こしたものだった。
 私たちが留守(るす)にしている(あいだ)に、ふたたび魔物(まもの)大群(たいぐん)()()れてきて、ミニーの身柄(みがら)要求(ようきゅう)したのよ」

 そこまで()いたヒロユキとコハルが、はっと(いき)をのんだ。
 さびしげにフローレンスが、
 「私とバアルが(もど)ったときには、ミニーが(まち)(かべ)から魔物(まもの)()れに(ほう)()げられたところだった。
 (さけ)びながら(はし)った私たちの目の前で、ミニーは(ころ)されたわ」

 なんてこと! じゃあ、その(まち)の人たちって、(まも)ってくれたミニーを()し出したの?

 「バアルはミニーと恋人同士(こいびと)だったから、(いか)(くる)って、魔法(まほう)で、魔物(まもの)も、魔法使(まほうつか)いも、(まち)の人も、すべて(ほのお)()()くした……。
 ()(なみだ)(なが)しながら」
 「……」

 「すべて()わったあと、バアルはミニーの遺体(いたい)をいつまでも()きかかえていたわ。
 ……それからここに(もど)って()たんだけど、ある日、(かれ)姿(すがた)()したわ。月のオーブと(とも)に。
 もう500年も(まえ)(はなし)よ」
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登場人物紹介

神獣である九尾の狐。仲間を大切にする心優しい性格で、今はとある事故に巻き込まれてコハルという少女の召喚獣となっている。

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