四十一 降臨
文字数 3,492文字
門大は、自身のすべてを掌の先に送り込むように、大火炎球煉獄焦土のポーズをとると、大きく開いた左手の掌を、龍達の形作る暗黒の渦の中心に向けた。
「だいぃぃぃぃぃ。かえんきゅうぅぅぅぅぅ。れんごくうぅぅぅぅぅぅ。しょうどおぉぉぉぉぉぉ」
自分の中にあるクラリスタへの思いや、この戦いへの思いを、言葉に込めるようにして、門大は声を上げる。すると、なんの前触れもなく、左手の掌の少し前の辺りに、赤々と燃える火球が出現した。
「出たわね。後はそれが成長しきるのを待って、撃てばいいわ」
キャスリーカの言葉を聞きながら、急速に成長を始めた火球を見つめつつ、門大は、大きくなれ。もっともっと大きくなれ。と強く思う。
「キャスリーカ。これ、大丈夫なのか? 大き過ぎないか?」
数十秒ののち、火球の直径が五十メートルくらいの大きさになって来ていたが、まだ成長を続けていたので、門大はそう言った。
「いい感じじゃないの」
「あ、あのさ。凄いバカっぽい事言うけど、前が見えない」
「私があんたの代わりに見るわ」
キャスリーカが言って戦闘機から飛び降りた。
「お、おい。いきなり飛び降りて大丈夫なのか?」
「心配してくれてありがと。でもこの通り平気よ。龍達の方は、こっちに気が付いてないわ。火球はまだ成長してるから、まだ撃っちゃ駄目よ」
キャスリーカの声がした方向に顔を向けると、門大の乗る戦闘機の右側のかなり離れた場所に、キャスリーカを乗せた、門大の乗る戦闘機と同型の戦闘機が、上昇して来るのが見える。
「見てくれてありがとうキャスリーカ。でも、ごめん。また問題発生だ。足場が、戦闘機が溶けて来てる」
「じゃあ、もう降りなさいよ。あんた飛べるんだから。その戦闘機は戻すから」
門大は、体をゆっくりと浮かせて行き、戦闘機から離れる。
「狙いはどうだ? ずれてないか?」
「平気。でも、この技って、当時は、いいと思ってたけど、駄目駄目ね。狙う相手が見なくなるって笑える」
門大の乗っていた戦闘機がキャスリーカの元へと飛んで行くと、キャスリーカが言いながら戦闘機を消した。
「笑えないって。なんだよそれ。適当過ぎだ」
「ねえ、これ、もう、成長止まったんじゃない?」
門大は、目を凝らして、火球を見た。
「本当だ。止まったみたいだな」
「じゃあ、撃ちなさい。それ、本当に一発でいけると思うわ」
門大は、炎龍。本当にごめん。と心の中で謝ってから、口を開いた。
「せめて、苦しませないで、終わらせてやってくれ」
直径が三百メートルくらいの大きさになっていた火球が、勢いよく放たれ、真っ直ぐに飛んで行く。
「龍達が気が付いたわ」
「逃げないで火球に向かって行き始めたぞ」
「黒龍には、意思も感情もないから、逃げたりはしないわ。敵とみなした物を襲う事しかしないの」
火球が龍達と接触し、眩い閃光を放ちながら爆発する。
「目があー。目があぁぁぁー」
閃光が目に焼き付き、六つの目が見えなくなった門大は、思わず声を上げた。
「あんた、それは露骨じゃない? パクり過ぎよ」
「そういう事じゃなくって、本当に目がやばいんだって」
「私はちゃんと直視しないようにしてたわよ」
「こうなるって知ってたのか? こういう事は先に言ってといてくれ」
門大は、顔を俯け、何度も何度も瞬きをしながら言う。
「そう言えば、言ってなかったような気がする。これは言っておくべきだったわね」
「他にはないよな? 何か言ってない事があったら、今のうちに言っといてくれよ」
「しょうがないじゃない。私だって、完璧じゃないんだから。忘れる時だってあるの」
「なあ、あれ、見たか?」
目が見えるようになって来たので、龍達の様子を見ようと思い、顔を上げた門大は、目に飛び込んで来た光景を見て、キャスリーカと今までしていた会話の事など、すっかり忘れてそう言った。
「本当に一発で全滅したわね。でも、まだ来るんじゃないかしら。こういうパターンは今までなかったから分からないけど」
キャスリーカが言い、周囲を確認するように顔を巡らせる。
「あら。あらららら。別のが、来ちゃった」
「どうした?」
門大は言いながら、キャスリーカの乗る戦闘機の傍に行き、キャスリーカの見ている物を見ようと顔を動かした。
「なんだ、あれ?」
縦の長さが十キロメートル、横の長さが八キロメートルくらいはあろうかという大きさの、長方形の門のように見える何かが、門大達のいる場所から、更に上、遥か上空の何もない空間に、青色の光の線のような物で、門大達の眼下に広がる雲海や、その下にある地上と平行になるような向きで、描かれているのを見て、門大は言った。
「一発で神が降りた。きっと、私達が思ってる以上に、あんたの大火炎球煉獄焦土の威力が強いんだわ」
「あれが、神か?」
「あんたって、本当にバカね。あれは門でしょ。どこからどう見ても門にしか見えないと思うけど」
門大は、キャスリーカの方に顔を向ける。
「しょうがないだろ。神様なんて見た事ないんだから」
「すぐそうやってむきになる。あー、嫌だ嫌だ」
「悪かったな。すぐにむきになって」
「門が開き始めたわよ。ぴーぴー言ってないで、最初で最後なんだから、開いて行くとこ見ておいたら?」
門大は、ぴーぴーって、なんだよ。もう。と言いつつ、顔を上げて門を見た。
「門の向こう側も、空なんだな。おお? 門の中から何か出て来たぞ。随分、小さいけど、あれか? あれが神様?」
「そうよ。って。ごめんなさい。神の姿についても、言ってなかったわね。あれが神。私達がこれから殺そうとしてる子」
門の向こう側から降りて来たのは、光り輝く白色のローブのような物を身に纏い、頭の部分が丸く、ごつごつとした木肌の、自分の背丈と同じくらいの、黒色の細身の杖を片手に持っている、幼女だった。
「あの子、いくつだ?」
「見た目だけは、五、六才ってとこじゃないかしら。実際の年は、たぶん、何千才とか、そんな感じだとは思うけど、本当のとこは分からないわ」
「あの子を、本当に殺すのか?」
門大は、キャスリーカの目を見て言った。
「あんたと、特に、直接手を下す事になるクラリスタには悪いけど、そういう事になる」
クラちゃんなら、躊躇う素振りすら見せないで、あの神を、あの子を、殺すんじゃないだろうか。けど、あんなふうに幼く見える子を殺したら、クラちゃんは、その事で、苦しみ続けるんじゃないだろうか。クラちゃんにあんな子を殺させるくらいなら、俺が殺した方がずっといい。俺の力じゃ、神様は殺せないって、キャスリーカ達は言ってたけど、このまま何もしないでいるなんて、クラちゃんだけにやらせるなんて、俺は嫌だ。門大はそう思うと、ゆっくりと門大達の方に向かって降りて来ている神を、六つの目で睨むように見た。
「大火炎球煉獄焦土を撃ってみていいか?」
門大は言ってポーズをとり始める。
「いいけど、あんたの力じゃ、焼く事はできても殺す事はできないから、すぐにあの子の体は再生して元に戻る。焼け焦げて無残になった、あの子の姿を見て、あんたが嫌な思いをするだけよ」
「クラちゃんだけに、あの神を、あんな、幼い女の子に見える神を、殺す罪を背負わせたくない」
「あんたって本当にバカね」
キャスリーカが狙撃銃を一丁出すと、神に銃口を向ける。
「撃つ気なのか?」
門大はキャスリーカの横顔を見つめて言った。
「私だって、あんたに、無駄な、罪の意識を感じて欲しくないって思うって事。これを見てからどうするか決めなさい」
キャスリーカが言って、狙撃眼鏡を覗くと、一呼吸おいてから、狙撃銃の引き金を引いた。狙撃銃の薬室を中心にして、周囲の大気が衝撃で振動し、今まで聞こえていた音という音が、一瞬にして消え去ってしまったかのような、何かが起こる。
「なんだ、今の」
数瞬ののちに、周囲に音が戻って来てから、門大は言った。
「面白いでしょ。ガンパウダーが爆発した時の威力があり過ぎて、衝撃と音が凄まじいのよ。それらが周囲の音という音をすべて飲み込むから、発砲時にこの銃の近くにいると、まるで銃の周りの音が全部なくなったみたいな錯覚を起こすの」
キャスリーカの言葉を聞き終えた門大は、神のいた方に顔を向ける。
「あの子の、神の、体が」
「さっきは、見てからどうするか決めなさいなんて言ったけど、これは、ちょっとやり過ぎかも知れないわね」
神がいた場所には神の姿はなく、そこには、引きちぎられたような切断部分から、白色の骨や、赤色やピンク色の肉が露出している、鮮血に塗れた、足の、膝から下の部分が二本、空中に浮かんでいるだけだった。
「だいぃぃぃぃぃ。かえんきゅうぅぅぅぅぅ。れんごくうぅぅぅぅぅぅ。しょうどおぉぉぉぉぉぉ」
自分の中にあるクラリスタへの思いや、この戦いへの思いを、言葉に込めるようにして、門大は声を上げる。すると、なんの前触れもなく、左手の掌の少し前の辺りに、赤々と燃える火球が出現した。
「出たわね。後はそれが成長しきるのを待って、撃てばいいわ」
キャスリーカの言葉を聞きながら、急速に成長を始めた火球を見つめつつ、門大は、大きくなれ。もっともっと大きくなれ。と強く思う。
「キャスリーカ。これ、大丈夫なのか? 大き過ぎないか?」
数十秒ののち、火球の直径が五十メートルくらいの大きさになって来ていたが、まだ成長を続けていたので、門大はそう言った。
「いい感じじゃないの」
「あ、あのさ。凄いバカっぽい事言うけど、前が見えない」
「私があんたの代わりに見るわ」
キャスリーカが言って戦闘機から飛び降りた。
「お、おい。いきなり飛び降りて大丈夫なのか?」
「心配してくれてありがと。でもこの通り平気よ。龍達の方は、こっちに気が付いてないわ。火球はまだ成長してるから、まだ撃っちゃ駄目よ」
キャスリーカの声がした方向に顔を向けると、門大の乗る戦闘機の右側のかなり離れた場所に、キャスリーカを乗せた、門大の乗る戦闘機と同型の戦闘機が、上昇して来るのが見える。
「見てくれてありがとうキャスリーカ。でも、ごめん。また問題発生だ。足場が、戦闘機が溶けて来てる」
「じゃあ、もう降りなさいよ。あんた飛べるんだから。その戦闘機は戻すから」
門大は、体をゆっくりと浮かせて行き、戦闘機から離れる。
「狙いはどうだ? ずれてないか?」
「平気。でも、この技って、当時は、いいと思ってたけど、駄目駄目ね。狙う相手が見なくなるって笑える」
門大の乗っていた戦闘機がキャスリーカの元へと飛んで行くと、キャスリーカが言いながら戦闘機を消した。
「笑えないって。なんだよそれ。適当過ぎだ」
「ねえ、これ、もう、成長止まったんじゃない?」
門大は、目を凝らして、火球を見た。
「本当だ。止まったみたいだな」
「じゃあ、撃ちなさい。それ、本当に一発でいけると思うわ」
門大は、炎龍。本当にごめん。と心の中で謝ってから、口を開いた。
「せめて、苦しませないで、終わらせてやってくれ」
直径が三百メートルくらいの大きさになっていた火球が、勢いよく放たれ、真っ直ぐに飛んで行く。
「龍達が気が付いたわ」
「逃げないで火球に向かって行き始めたぞ」
「黒龍には、意思も感情もないから、逃げたりはしないわ。敵とみなした物を襲う事しかしないの」
火球が龍達と接触し、眩い閃光を放ちながら爆発する。
「目があー。目があぁぁぁー」
閃光が目に焼き付き、六つの目が見えなくなった門大は、思わず声を上げた。
「あんた、それは露骨じゃない? パクり過ぎよ」
「そういう事じゃなくって、本当に目がやばいんだって」
「私はちゃんと直視しないようにしてたわよ」
「こうなるって知ってたのか? こういう事は先に言ってといてくれ」
門大は、顔を俯け、何度も何度も瞬きをしながら言う。
「そう言えば、言ってなかったような気がする。これは言っておくべきだったわね」
「他にはないよな? 何か言ってない事があったら、今のうちに言っといてくれよ」
「しょうがないじゃない。私だって、完璧じゃないんだから。忘れる時だってあるの」
「なあ、あれ、見たか?」
目が見えるようになって来たので、龍達の様子を見ようと思い、顔を上げた門大は、目に飛び込んで来た光景を見て、キャスリーカと今までしていた会話の事など、すっかり忘れてそう言った。
「本当に一発で全滅したわね。でも、まだ来るんじゃないかしら。こういうパターンは今までなかったから分からないけど」
キャスリーカが言い、周囲を確認するように顔を巡らせる。
「あら。あらららら。別のが、来ちゃった」
「どうした?」
門大は言いながら、キャスリーカの乗る戦闘機の傍に行き、キャスリーカの見ている物を見ようと顔を動かした。
「なんだ、あれ?」
縦の長さが十キロメートル、横の長さが八キロメートルくらいはあろうかという大きさの、長方形の門のように見える何かが、門大達のいる場所から、更に上、遥か上空の何もない空間に、青色の光の線のような物で、門大達の眼下に広がる雲海や、その下にある地上と平行になるような向きで、描かれているのを見て、門大は言った。
「一発で神が降りた。きっと、私達が思ってる以上に、あんたの大火炎球煉獄焦土の威力が強いんだわ」
「あれが、神か?」
「あんたって、本当にバカね。あれは門でしょ。どこからどう見ても門にしか見えないと思うけど」
門大は、キャスリーカの方に顔を向ける。
「しょうがないだろ。神様なんて見た事ないんだから」
「すぐそうやってむきになる。あー、嫌だ嫌だ」
「悪かったな。すぐにむきになって」
「門が開き始めたわよ。ぴーぴー言ってないで、最初で最後なんだから、開いて行くとこ見ておいたら?」
門大は、ぴーぴーって、なんだよ。もう。と言いつつ、顔を上げて門を見た。
「門の向こう側も、空なんだな。おお? 門の中から何か出て来たぞ。随分、小さいけど、あれか? あれが神様?」
「そうよ。って。ごめんなさい。神の姿についても、言ってなかったわね。あれが神。私達がこれから殺そうとしてる子」
門の向こう側から降りて来たのは、光り輝く白色のローブのような物を身に纏い、頭の部分が丸く、ごつごつとした木肌の、自分の背丈と同じくらいの、黒色の細身の杖を片手に持っている、幼女だった。
「あの子、いくつだ?」
「見た目だけは、五、六才ってとこじゃないかしら。実際の年は、たぶん、何千才とか、そんな感じだとは思うけど、本当のとこは分からないわ」
「あの子を、本当に殺すのか?」
門大は、キャスリーカの目を見て言った。
「あんたと、特に、直接手を下す事になるクラリスタには悪いけど、そういう事になる」
クラちゃんなら、躊躇う素振りすら見せないで、あの神を、あの子を、殺すんじゃないだろうか。けど、あんなふうに幼く見える子を殺したら、クラちゃんは、その事で、苦しみ続けるんじゃないだろうか。クラちゃんにあんな子を殺させるくらいなら、俺が殺した方がずっといい。俺の力じゃ、神様は殺せないって、キャスリーカ達は言ってたけど、このまま何もしないでいるなんて、クラちゃんだけにやらせるなんて、俺は嫌だ。門大はそう思うと、ゆっくりと門大達の方に向かって降りて来ている神を、六つの目で睨むように見た。
「大火炎球煉獄焦土を撃ってみていいか?」
門大は言ってポーズをとり始める。
「いいけど、あんたの力じゃ、焼く事はできても殺す事はできないから、すぐにあの子の体は再生して元に戻る。焼け焦げて無残になった、あの子の姿を見て、あんたが嫌な思いをするだけよ」
「クラちゃんだけに、あの神を、あんな、幼い女の子に見える神を、殺す罪を背負わせたくない」
「あんたって本当にバカね」
キャスリーカが狙撃銃を一丁出すと、神に銃口を向ける。
「撃つ気なのか?」
門大はキャスリーカの横顔を見つめて言った。
「私だって、あんたに、無駄な、罪の意識を感じて欲しくないって思うって事。これを見てからどうするか決めなさい」
キャスリーカが言って、狙撃眼鏡を覗くと、一呼吸おいてから、狙撃銃の引き金を引いた。狙撃銃の薬室を中心にして、周囲の大気が衝撃で振動し、今まで聞こえていた音という音が、一瞬にして消え去ってしまったかのような、何かが起こる。
「なんだ、今の」
数瞬ののちに、周囲に音が戻って来てから、門大は言った。
「面白いでしょ。ガンパウダーが爆発した時の威力があり過ぎて、衝撃と音が凄まじいのよ。それらが周囲の音という音をすべて飲み込むから、発砲時にこの銃の近くにいると、まるで銃の周りの音が全部なくなったみたいな錯覚を起こすの」
キャスリーカの言葉を聞き終えた門大は、神のいた方に顔を向ける。
「あの子の、神の、体が」
「さっきは、見てからどうするか決めなさいなんて言ったけど、これは、ちょっとやり過ぎかも知れないわね」
神がいた場所には神の姿はなく、そこには、引きちぎられたような切断部分から、白色の骨や、赤色やピンク色の肉が露出している、鮮血に塗れた、足の、膝から下の部分が二本、空中に浮かんでいるだけだった。