一盃

文字数 800文字

さて 酒を呑みたくなる話をしよう
好きか嫌いか置いといて、とりあえず呑みたいと思わせて見せる
そのためにはどうかアナタの想像力をお借りしたい
ぜひ頭に思い浮かべて楽しみながら読んでくださいな

というわけでまず用意したるは高級日本酒
希少な酒米を使って作られた1万円越えの貴重な大吟醸を今回特別に取り寄せた
トクトクと注げば少し黄色く色づいて、どこか粘るようにトロリと輝く
匂いを嗅げば日本酒特有の強いアルコール臭がツンと鼻に抜けていくが、その中にほのかな甘みを感じてこれだけで充分酩酊できそう
おそるおそる一口吞んでみれば、口の中で花火のように旨味が弾けあまりの衝撃にクラクラする
惜しみながらもゆっくりと飲み込めばゴクリと喉を潤す鋭い切れ味
それでいて米の甘みや豊かな後味がじんわりと広がり多幸感に包まれた

どうだ なかなか美味しそうだろう?
しかしそんなのはいらないよ呑みたくなんてならないね!
なんて読者も数多く これじゃあまだまだ程遠い
そこでもう1つ用意しました
泥水です
向かいの畑からゴソッと拝借し今回特別に水道水とオリジナルブレンド
トクトクと注げば茶色というよりもはや黒 サラサラと流れずドロドロと滴る
匂いを嗅げば日本人の本能に訴える牧歌的な土の匂い どこか懐かしい気持ちに浸るあの日の思い出の香り これだけで充分食欲が失せる
おそるおそる一口吞んでみれば、脳内で花火のようにダメダメダメダメ!!これは毒!!飲み込むな!!吐き出せ!!とアラームが鳴り響き、あまりの衝撃にクラクラする
強引にゆっくりと飲み込めばベットリと喉を切り裂く鈍いべたつき
それでいて砂の食感や豊かな後味がじんわりと広がりとてつもない後悔に襲われた

どうだ なかなかマズそうだろう?
じゃあ どっちが呑みたい?
高級日本酒とオリジナル泥水 どっちが呑みたくなった?
逆張りでカッコつけたい読者以外はもちろん日本酒を選んでくれるだろう

酒が呑みたくなっただろう?
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