夜明けのテイム
文字数 1,996文字
ある日、ドラゴンになった彼は言った。
「ボク、明日から怪物学校へ行く」
私は胸が痛くなった。
なぜなら、彼は気弱で親がドラゴンという以外には突出したものがない。
たまらず私は一緒に怪物学校へ行くことに……。
「やっ、聞いたよ。君、ドラゴンと友達なんだってね! それで学校も一緒なの?」
始発の列車に――ただの列車じゃない。現実世界から異世界へと向かう列車だ――乗り合わせたナメクジが言う。
「や、なんていうか。幼馴染としては心配で」
「心配だって? 彼はドラゴンだろ? 僕みたいなイケメンじゃないだろ。心配なんてするかな、ふつう」
「あなたのふつうと私のふつうは、たぶん違うから」
「ふぅん。ま、彼に飽きたら僕のところへおいでよ。君ならいつでも歓迎さ」
乙女ゲームのように、白い歯をキラッとさせてまばゆい金髪をゆらし、ナメクジは去った。
いや、隣で座っていた黒づくめの男が死を……じゃない、塩をまき散らして言ったんだ。
「このナメクジやろうが……男の風上にも置けんやっちゃ」
うん、たぶん間違ってない。
実際ナメクジだし、雌雄同体だろうから。
ていうか、彼、普通に自然界で生きていけないのかな。
……あの顔じゃ無理があるか。
「……で、君はドラゴンとどういう関係だ?」
聞いてなかったのか。
隣りの男、あ、これはわかる。
「そういうあなたは吸血鬼?」
「ふふん! 人呼んで口だけ番長、吸血鬼の****だ!」
「え、ちょっと聞き取れませんでした。なんて?」
吸血鬼はあってた。口だけ番長というのも聞き取れた。けどそれは決して自慢にならない気が……あ、顔が白い。
「大丈夫ですか、血液足りてます?」
「……君もかね! なんで吸血鬼が血を吸うと思うんだ? それ以外に口にせんと思っているのかね! 教育が悪い! 世間が憎い!」
「そんなおおげさな……」
朝からちょっとナーバスな吸血鬼にあってしまった。目が血走るくらいだから、血は足りてるのかも。
なんかぶつぶつ言って頭を抱えこんでるけど、私のせいじゃないよね? きっと……。
「元気を出して……世の中は私たちの世代で変えていきましょうよ」
ハッとして吸血鬼の男は、
「変えるだと……? 甘い! 血よりも甘い選択だ! 我々モンスターは決して陽の目を見ることのない闇に生き、陽陰のうちに生を終えるのだ! 長生きしたくない……」
そう言ってぽろぽろと涙をこぼした。
あんまり泣いたので、通路を行列作って這っていたアリンコたちが流された。
なんだかなあ。
アメでも誰か、落としたか? まさかアリンコまで学校へ行くの?
「さあ、今日が初日だ。今年は数が少ないから、はじからいくぞー。自己紹介を頼む」
そーかー、先生はスライムなのかー。いやでも、なりはともかく、レベルは相当高いんだろう、きっと。
「ボク、ドラゴン」
「僕はナメクジさ! イケメンのね!」
「その論調で行くなら私は吸血鬼以外のなにもんでもないな」
「……! ……!」
私の番?
スライムの先生、もにょもにょっと動いて、
「アリンコ君たちは全員まとめてアリンコでいいのかね?」
アリンコの数だけ?を浮かべ、少し迷った後で出席簿に何か書きこんだ。
「じゃ、次、ラストの君」
私はつっ立ったまま茫然とした。
「……人間です」
「よろしい」
他に何にも言うことがないって、なんか悪い意味で吹っ切れた。
そのときだ。
「マジか。アリンコが学校でなにするつもりだ?」
と、吸血鬼が、アリンコをふみにじろうとした。
とたんに、アリンコはアゴだけ巨大化してその足をつかみ、ふりまわし、ほうりなげた。
「ひぃーっ」
甲高い声をあげて吹っ飛んだ吸血鬼は、周りをとり囲む不思議な壁にぶつかって泣いて叫んだ。
「てめぇ、この私にむかっていい度胸だ! 外へ出ろ、おらぁ!」
紳士なのかヤンキーなのか。
アリンコは不敵にアゴをカチカチいわせてる。
アリンコ、強いな……。
「まあまあ、今日から一緒に学ぶんだし、ケンカはよそうよ」
無難なことを言ってみる。
「そうだよ! みんな、仲よくしようっ」
もう、この異世界に入りこんでからというもの、名前すら思い出せなくなってしまった、わたしの幼馴染が、尾を揺らして同意した。
「ふむ。では各自の特技など教えてもらおうか」
スライム先生、それは酷です。
「火を吹きますっ」
「天井と壁を這い回ります」
「特技、ええっと」
吸血鬼君が黙ってしまった。吸血鬼なんだから、血を吸いますって言えばいいのに。
「……女性をタラシます」
ああそうか。でも私はタラされてないぞ。さては未吸血済?
「……! ……!」
アリンコはパワーあるよ。いろいろ知ってる。小さいころ教材で習った。
「ふんふん。で、君は?」
言われて困った私は、とっさに異世界ゲームのジョブを持ち出した。
「モンスターをテイムしますっ」
……すっごい、尊敬された!
【了】
「ボク、明日から怪物学校へ行く」
私は胸が痛くなった。
なぜなら、彼は気弱で親がドラゴンという以外には突出したものがない。
たまらず私は一緒に怪物学校へ行くことに……。
「やっ、聞いたよ。君、ドラゴンと友達なんだってね! それで学校も一緒なの?」
始発の列車に――ただの列車じゃない。現実世界から異世界へと向かう列車だ――乗り合わせたナメクジが言う。
「や、なんていうか。幼馴染としては心配で」
「心配だって? 彼はドラゴンだろ? 僕みたいなイケメンじゃないだろ。心配なんてするかな、ふつう」
「あなたのふつうと私のふつうは、たぶん違うから」
「ふぅん。ま、彼に飽きたら僕のところへおいでよ。君ならいつでも歓迎さ」
乙女ゲームのように、白い歯をキラッとさせてまばゆい金髪をゆらし、ナメクジは去った。
いや、隣で座っていた黒づくめの男が死を……じゃない、塩をまき散らして言ったんだ。
「このナメクジやろうが……男の風上にも置けんやっちゃ」
うん、たぶん間違ってない。
実際ナメクジだし、雌雄同体だろうから。
ていうか、彼、普通に自然界で生きていけないのかな。
……あの顔じゃ無理があるか。
「……で、君はドラゴンとどういう関係だ?」
聞いてなかったのか。
隣りの男、あ、これはわかる。
「そういうあなたは吸血鬼?」
「ふふん! 人呼んで口だけ番長、吸血鬼の****だ!」
「え、ちょっと聞き取れませんでした。なんて?」
吸血鬼はあってた。口だけ番長というのも聞き取れた。けどそれは決して自慢にならない気が……あ、顔が白い。
「大丈夫ですか、血液足りてます?」
「……君もかね! なんで吸血鬼が血を吸うと思うんだ? それ以外に口にせんと思っているのかね! 教育が悪い! 世間が憎い!」
「そんなおおげさな……」
朝からちょっとナーバスな吸血鬼にあってしまった。目が血走るくらいだから、血は足りてるのかも。
なんかぶつぶつ言って頭を抱えこんでるけど、私のせいじゃないよね? きっと……。
「元気を出して……世の中は私たちの世代で変えていきましょうよ」
ハッとして吸血鬼の男は、
「変えるだと……? 甘い! 血よりも甘い選択だ! 我々モンスターは決して陽の目を見ることのない闇に生き、陽陰のうちに生を終えるのだ! 長生きしたくない……」
そう言ってぽろぽろと涙をこぼした。
あんまり泣いたので、通路を行列作って這っていたアリンコたちが流された。
なんだかなあ。
アメでも誰か、落としたか? まさかアリンコまで学校へ行くの?
「さあ、今日が初日だ。今年は数が少ないから、はじからいくぞー。自己紹介を頼む」
そーかー、先生はスライムなのかー。いやでも、なりはともかく、レベルは相当高いんだろう、きっと。
「ボク、ドラゴン」
「僕はナメクジさ! イケメンのね!」
「その論調で行くなら私は吸血鬼以外のなにもんでもないな」
「……! ……!」
私の番?
スライムの先生、もにょもにょっと動いて、
「アリンコ君たちは全員まとめてアリンコでいいのかね?」
アリンコの数だけ?を浮かべ、少し迷った後で出席簿に何か書きこんだ。
「じゃ、次、ラストの君」
私はつっ立ったまま茫然とした。
「……人間です」
「よろしい」
他に何にも言うことがないって、なんか悪い意味で吹っ切れた。
そのときだ。
「マジか。アリンコが学校でなにするつもりだ?」
と、吸血鬼が、アリンコをふみにじろうとした。
とたんに、アリンコはアゴだけ巨大化してその足をつかみ、ふりまわし、ほうりなげた。
「ひぃーっ」
甲高い声をあげて吹っ飛んだ吸血鬼は、周りをとり囲む不思議な壁にぶつかって泣いて叫んだ。
「てめぇ、この私にむかっていい度胸だ! 外へ出ろ、おらぁ!」
紳士なのかヤンキーなのか。
アリンコは不敵にアゴをカチカチいわせてる。
アリンコ、強いな……。
「まあまあ、今日から一緒に学ぶんだし、ケンカはよそうよ」
無難なことを言ってみる。
「そうだよ! みんな、仲よくしようっ」
もう、この異世界に入りこんでからというもの、名前すら思い出せなくなってしまった、わたしの幼馴染が、尾を揺らして同意した。
「ふむ。では各自の特技など教えてもらおうか」
スライム先生、それは酷です。
「火を吹きますっ」
「天井と壁を這い回ります」
「特技、ええっと」
吸血鬼君が黙ってしまった。吸血鬼なんだから、血を吸いますって言えばいいのに。
「……女性をタラシます」
ああそうか。でも私はタラされてないぞ。さては未吸血済?
「……! ……!」
アリンコはパワーあるよ。いろいろ知ってる。小さいころ教材で習った。
「ふんふん。で、君は?」
言われて困った私は、とっさに異世界ゲームのジョブを持ち出した。
「モンスターをテイムしますっ」
……すっごい、尊敬された!
【了】