1話「村娘、仙人になる」
文字数 1,690文字
私は美心(みこ)、約????歳。姓は無い。
私には仙術の才能があった。
5歳で自然力を感知し、10歳で自然力を自在に操れるようになり、16歳の時には不老体となっていたようだ。
ようだ、というのは自身の身体がそのような状態になっていることに気づいたのは40歳を超えたあたりである。周囲の友人たちが老けていくのに対して私は16の時のまま老いることなく歳を取っていき、60歳から友人たちを看取り始めた。最長で生きた友人は87歳であった。
私は最後の友人を看取った後、ひっそりと霊峰と呼ばれている場所へ向かった。しかしながらいくら歩いてもたどり着かない。
はて、どうしたものかと立ち止まること2日。私はこの霊峰が結界により誰も入れないようにしているのだとようやく気づいたのである。
何十年と自然力を感じてきた経験は馬鹿にできないものだ。呼吸をするように扱ってきた自然力を用いて結界を通り抜ける。
するとそこには霊峰の頂上を円形にならしたと思しき場所があった。よく見ると何軒か家屋があり、人が生活している様子が伺える。
私は早速、村の入口へ向かった。
「ほう、あの結界を破る者が現れるとは。実に数百年ぶりじゃのう」
入り口から出てきたのは黒髪黒目の簡素な麻の服を着た壮年の男。
「私は美心といいます。歳は88を迎えたところでございます」
「美心さんというのか。いやあ大変な別嬪さんなことで」
「そう言っていただけるのは世辞でも嬉しいものです」
「いやいや世辞なんかじゃあない。と、本題に入らんとな。結界を破ったということは自然力を自在に操れる証。それに容姿があまりにも若いが不老体になったのはいつのことじゃ?」
「歳を取らなくなったのはこの力を完璧に操れるようになった16の時だと思います。その頃にはこの力を無意識下で体内循環できるようになっていました」
「なんと! 村の者でも一番若くて28だというのに16でそこまで高めたのか」
その後も話を聞き、ここは仙人のみが住む仙人村で人数は9人。村に訪れたこの日から私も住むようになったので10人となった。
88にしてようやく同族に会えた気がしたのであった。
それから数百年の月日が流れると私達が住む霊峰に全身傷だらけの青年が迷いこんできた。
「俺はエンテ王国の勇者グリームという。どうかここで傷を癒やすことを許してくれないだろうか」
霊峰に人が現れたのは私以来である。
しかし、私の時とは違ってこのグリームという青年は傷を癒やしに来ただけという。あの結界を通って来たということは自然力を操れるということに他ならない。
「では私の家で治療をしましょう」
結局根負けした私は家の中へ案内し、客人用……といっても他の女仙人2人をたまに泊めるだけの簡素な寝床でグリームを寝かせた。
いたるところにある傷を自然力を用いて塞ぎながらしばらくの間、どうしてこのような傷を負ったのか。その経緯を聞いていた。
「俺の力及ばずといったところだ」
魔王と直接対決したが剣術の技量において圧倒的なまでに差があったらしい。私も多少は武器の扱いを心得ているので何か教えられることはないかと聞いた。
「あなたのような少女に武器を扱えるようには見えないが」
「修行中の身ではありますがそれなりの技量はあると自負しております。一度だけ私の素振りを見てあなたに教示できそうか判断してください」
「……わかった」
この時のグリームは半信半疑だっただろう。傷を癒やしてくれた恩人故、断るようなことはしなかった。だが見た目は成人もしていない少女そのもの。幼き頃から剣術を学んできた自分に教えられるほどの技量はないのではないか。そう思うのも無理のないことだ。
そして少女が木剣を一振りした瞬間にグリームの世界は一変した。
私には仙術の才能があった。
5歳で自然力を感知し、10歳で自然力を自在に操れるようになり、16歳の時には不老体となっていたようだ。
ようだ、というのは自身の身体がそのような状態になっていることに気づいたのは40歳を超えたあたりである。周囲の友人たちが老けていくのに対して私は16の時のまま老いることなく歳を取っていき、60歳から友人たちを看取り始めた。最長で生きた友人は87歳であった。
私は最後の友人を看取った後、ひっそりと霊峰と呼ばれている場所へ向かった。しかしながらいくら歩いてもたどり着かない。
はて、どうしたものかと立ち止まること2日。私はこの霊峰が結界により誰も入れないようにしているのだとようやく気づいたのである。
何十年と自然力を感じてきた経験は馬鹿にできないものだ。呼吸をするように扱ってきた自然力を用いて結界を通り抜ける。
するとそこには霊峰の頂上を円形にならしたと思しき場所があった。よく見ると何軒か家屋があり、人が生活している様子が伺える。
私は早速、村の入口へ向かった。
「ほう、あの結界を破る者が現れるとは。実に数百年ぶりじゃのう」
入り口から出てきたのは黒髪黒目の簡素な麻の服を着た壮年の男。
「私は美心といいます。歳は88を迎えたところでございます」
「美心さんというのか。いやあ大変な別嬪さんなことで」
「そう言っていただけるのは世辞でも嬉しいものです」
「いやいや世辞なんかじゃあない。と、本題に入らんとな。結界を破ったということは自然力を自在に操れる証。それに容姿があまりにも若いが不老体になったのはいつのことじゃ?」
「歳を取らなくなったのはこの力を完璧に操れるようになった16の時だと思います。その頃にはこの力を無意識下で体内循環できるようになっていました」
「なんと! 村の者でも一番若くて28だというのに16でそこまで高めたのか」
その後も話を聞き、ここは仙人のみが住む仙人村で人数は9人。村に訪れたこの日から私も住むようになったので10人となった。
88にしてようやく同族に会えた気がしたのであった。
それから数百年の月日が流れると私達が住む霊峰に全身傷だらけの青年が迷いこんできた。
「俺はエンテ王国の勇者グリームという。どうかここで傷を癒やすことを許してくれないだろうか」
霊峰に人が現れたのは私以来である。
しかし、私の時とは違ってこのグリームという青年は傷を癒やしに来ただけという。あの結界を通って来たということは自然力を操れるということに他ならない。
「では私の家で治療をしましょう」
結局根負けした私は家の中へ案内し、客人用……といっても他の女仙人2人をたまに泊めるだけの簡素な寝床でグリームを寝かせた。
いたるところにある傷を自然力を用いて塞ぎながらしばらくの間、どうしてこのような傷を負ったのか。その経緯を聞いていた。
「俺の力及ばずといったところだ」
魔王と直接対決したが剣術の技量において圧倒的なまでに差があったらしい。私も多少は武器の扱いを心得ているので何か教えられることはないかと聞いた。
「あなたのような少女に武器を扱えるようには見えないが」
「修行中の身ではありますがそれなりの技量はあると自負しております。一度だけ私の素振りを見てあなたに教示できそうか判断してください」
「……わかった」
この時のグリームは半信半疑だっただろう。傷を癒やしてくれた恩人故、断るようなことはしなかった。だが見た目は成人もしていない少女そのもの。幼き頃から剣術を学んできた自分に教えられるほどの技量はないのではないか。そう思うのも無理のないことだ。
そして少女が木剣を一振りした瞬間にグリームの世界は一変した。