*寝付きが悪くて

文字数 1,367文字

まだ世間一般では若い部類にもかかわらず、ぼくには晩年も抱えているだろう悩み事がある。
それは、寝つきの悪さである。
コイツは非常にタチが悪く、気づいたらぼくの生活様式にまとわりついていて、
ある種の引っ付き虫のようだとも言える。
ちなみに、実家に良く生えていたのは「アレチヌスビトハギ」だったそうで、
「ざざざ」と茂みの裏道なんかを通った仕舞には、
家に上がる前に必ず一枚一枚剥がさなくてはいけなかった。
厄介極まりない。
まさにそんな感覚だ。

幼少の頃ー小学生低学年くらいから「才能」ともいえる寝つきの悪さだったように、ぼくは記憶している。
寝つきが悪いと「よーいドン!」で家族一緒に寝始めたとしても、ぼくだけスタートダッシュに出遅れる。
すると10分もしない内に、熟睡に堕ちた家族から次々といびきや寝言、
挙句にはオナラなんかも聞こえてくる。
我が家は5人兄弟と親2人だったので、よその家より騒音が大きかったのは明らかだと、僕は思う。
続いて、眠れないとどうなるか。
空腹が襲ってくるのだ。
「たかが空腹」と言うかもしれないが、されど空腹。
食べ盛りの少年にとっては絶大な影響力を持っていて、
時間の経過につれて「実は腹痛なんじゃないか」と錯覚してトイレに駆け込むこともしばしばあった。
結局、枕を高くしてみたり、足の下に畳んだ座布団を入れてみたり、セルフで寝返りを打ってみたり、羊の代わりに女の子を数えたりしているうちに、少しだけ眠れていたりする。
結果、成長期に充分な睡眠にありつけなかったぼくは、兄弟の中で一番背が伸びなかった。

では最近のぼくはどうかと言うと、まあ相変わらず。
しかし、いい歳なので対策を考えていないわけでもない。
最近ちょっとだけ助けになっているのは、自ら考案したのは「屍のポーズ」である。
文字だけ見ると「なにかおっそろしい呪術でもやっているのか」
と慌てふためく読者もいるかもしれないが、心配ご無用。
単純に、手足を大の字に広げて「大草原に横たわる屍」をイメージして眠るのだ。
気分は屍なので「ぽぅっ」と意識が遠のき、手足が軽くなるうちに快眠に堕ちることができる。
これが案外ハマるのだ。
体験した妻は、目にも留まらぬ速さで、しっかりと熟睡に浸っていた。

だが、これはあくまで対応療法で、原因療法ではない。
実は、眠れる日と眠れない日の違いについて考えると、ぼくなりに原因は突き止められているのだ。
それは、「一日の満足度」だと、ぼくは結論付けている。

一日の満足度。
つまり「今日はやり切ったなあ!」と思えるかどうかである。
思えば高校生の頃、部活動に精を出していたかつての青春時代は、眠れないことなどほとんどなかった。
幼いころは、単純に遊び足りなかったのだと思う。
そして、社会人になった今。
仕事は当然熱心に頑張るのだが、趣味や創作の時間が足らないので眠れない。
むむ、これでは子どもの頃と同じじゃないか。

ある日、妻に相談してみることにした。
「寝つきが悪くてさあ、なんかコツとかある?」
「そんなの、昔からのことでしょ?最近絡まれなくなったし、よくなったと思うよ」
むむ、なにやらかみ合っていないな、と思った矢先、妻は続けた。
「それに、目つきが悪いのに、コツもなにもないじゃん」
どうやら、晩年まで悩んでいるだろうもう一つの悩み「目つきの悪さ」に言及しているようだ。
ホットケ。
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