5.正面突破バトル!合成獣研究所

文字数 3,310文字




そもそも(じょう)など、はじめから()かっていなかったのだ。


強盗(ごうとう)不審者(ふしんしゃ)もはびこる夜更(よふ)けだというのに、その研究施設(けんきゅうしつ)には門番(もんばん)番犬(ばんけん)すらも配置(はいち)されてはいなかった。


(いくらなんでも警備(けいび)手薄(てうす)すぎる………。まるで(わる)冗談(じょうだん)みたいだ………)


日中(にっちゅう)下調(したしら)べしたときには、人目(ひとめ)警戒(けいかい)してわざと出入口(でいりぐち)には近寄(ちかよ)らないようにしたのだが。


予想外(よそうがい)というかなんというか………フクザツな気分(きぶん)だな………)


合成獣(キメラ)研究所(けんきゅうしょ)は、敷地(しきち)四方(しほう)(たか)岩壁(いわかべ)(かこ)いこみ、屋敷(やしき)(まど)はすべて鉄格子(てつごうし)()ざすという警戒(けいかい)ぶりだった。


徹底(てってい)して厳重(げんじゅう)侵入者(しんにゅうしゃ)対策(たいさく)をすることにより、研究内容(けんきゅうないよう)やその()秘匿物(ひとくぶつ)外敵(がいてき)から(まも)っているのだろう。


その堅牢(けんろう)外観(がいかん)から、潜入(せんにゅう)困難(こんなん)(きわ)めることを覚悟(かくご)のうえで、(はら)をくくってこの場所(ばしょ)までおもむいてきたのだ。


それなのに──


「ちょっと警戒心(けいかいしん)(うす)すぎやしないか?」


「なんか、かえって不気味(ぶきみ)だよね………」


眼前(がんぜん)()(ふさ)がるように()()けていた重厚(じゅうこう)鎧戸(よろいど)は、二人(ふたり)(まえ)にして(じつ)にあっけなく(ひら)いた。


ロジオンはやや放心(ほうしん)したように、その光景(こうけい)見守(みまも)っていた。


要所(ようしょ)ともいえる唯一(ゆいいつ)出入口(でいりぐち)であった(とびら)は、その強面(こわもて)そうな()()(はん)して、あっさりと開門(かいもん)した。


(わたし)守備(しゅび)(かた)いのよ?とか散々(さんざん)もったいぶったわりにはビッチ………みたいな屋敷(やしき)だな」


(おんな)(たと)えてこの()がどうなるわけでもないのだが、よほど拍子抜(ひょうしぬ)けしたのか(やと)われ(へい)(だれ)()うでもなくつぶやく。


「………ほんとうに清純(せいじゅん)すぎても(こま)りものだったけどね………」


(みょう)玄人(くろうと)っぽい(かえ)しをしながら、(やと)(ぬし)少年(しょうねん)用心(ようじん)しながら(まえ)(すす)んだ。


解放(かいほう)されたばかりの室内(しつない)を、(くび)()ばして(そと)からのぞきこんでみる。


「………なんの変哲(へんてつ)もない玄関(げんかん)ホール。(いま)のところ人気(ひとけ)生物(せいぶつ)気配(けはい)もなさそうだけど………。(くら)くってよく()えないや………」


とはいえ油断(ゆだん)禁物(きんもつ)だ。


門扉(もんぴ)がなんら抵抗(てきこう)もせず攻略(こうりゃく)されたことに、ロジオンはうまく()えないが奇妙(きみょう)違和感(いわかん)をおぼえていた。


これが『(わな)』だとは(だれ)しも(おも)うことだろう。


だからといって、なんとなく危険(きけん)そうだから、というあいまいな理由(りゆう)()(かえ)()にもなれなかった。


屋敷(やしき)(おく)(すす)んだところで、解明(かいめい)したいことがわかる補償(ほしょう)はなにひとつないのだが………。


「──(ぼく)()くよ──。危険(きけん)(おか)すのは覚悟(かくご)のうえだ」


とうとつに(だれ)()うでもなく、むしろ自分(じぶん)()()かせるようにして、ロジオンはそうつぶやいた。


(きみ)はどうする?」


やや緊迫感(きんぱくかん)のある眼光(がんこう)で、(かたわ)らに()つラグシードを()つめる。


青年(せいねん)はめずらしく無言(むごん)


無表情(むひょうじょう)をつらぬいたまま、なんの(うご)きも()せないので、ロジオンは一呼吸置(ひとこきゅうお)くことにした。


ふと(そら)見上(みあ)げる。


返答(へんとう)()っているわずかな(あいだ)にも、刻一刻(こくいっこく)(やみ)はいっそう()くなり、冷気(れいき)がひたひたと()()せてきていた。


(くも)隙間(すきま)から()(かく)れする三日月(みかづき)が、頭上(ずじょう)から二人(ふたり)をあざ(わら)うかのように、ほの(ぐら)()らしている。


「──(おれ)(さそ)われたら、いちおうは(ことわ)らない主義(しゅぎ)なんだ………って、まぁ気分(きぶん)しだいだけどな」


やがて敵地(てきち)にもぐりこむにしては、あまり緊張感(きんちょうかん)のない返答(へんとう)がかえってきた。


(たい)した度胸(どきょう)だ。まあ、おびえられるよりはマシだけど、まったくもって警戒心(けいかいしん)がなさすぎるよな………)


とはいえひとまず不満(ふまん)()みこんで、(かれ)らは暗黙(あんもく)のうちに研究所内部(けんきゅうしょないぶ)潜入(せんにゅう)した──

        ☆

(──やっぱり(わな)だったか──?)


そう(おも)()らされたのは、背後(はいご)門扉(もんぴ)自然(しぜん)()ざされたのと、はぼ同刻(どうこく)


(………っていうか、()じこめられるっていうのは、もはや定番(ていばん)か………)


そう(しず)かに()っこみつつ、ロジオンは内心(ないしん)警鐘(けいしょう)()らしていた。


おそらく不審者対策用(ふしんしゃたいさくよう)(わな)仕掛(しか)けられていたのだろう。


鎧戸(よろいど)閉門(へいもん)にともなって発動(はつどう)するように仕組(しく)まれていたのか、あたりは急速(きゅうそく)不穏(ふおん)気配(けはい)濃密(のうみつ)にしていった。


いつ合成獣(キメラ)潜伏(せんぷく)している信者(しんじゃ)たちが(おそ)いかかってきてもおかしくない。


そんな圧倒的(あっとうてき)(やみ)支配(しはい)された状況(じょうきょう)で………。


無意識(むいしき)警戒(けいかい)(つよ)めていた(かれ)ら──


すなわち侵入者(しんにゅうしゃ)めがけて、突如(とつじょ)(おと)もなく(しの)()ってきた(くろ)(かたまり)猛然(もうぜん)()びかかってきた!


(──真横(まよこ)か──!?)


とっさに殺気(さっき)(かん)じた方角(ほうがく)へ、ロジオンは反射的(はんしゃてき)灯火(ともしび)魔法(まほう)(とな)えていた。


『フォーチュン・タブレット第五篇(だいごへん)(ほし)魔法円(まほうえん)


瞬間(しゅんかん)(りん)とした(こえ)冷気(れいき)()()いてあたりに反響(はんきょう)した。


漆黒(しっこく)(やみ)()らす暁星(ぎょうせい)! 】


(くろ)(かたまり)にむかって一直線(いっちょくせん)()(はな)たれた(ひかり)は、すさまじいスピードで標的(ひょうてき)衝突(しょうとつ)した。


すると(いつ)つの(ひかり)分裂(ぶんれつ)し、頭上(ずじょう)薄翠色(うすみどりいろ)星形(ほしがた)軌跡(きせき)(えが)いてから四散(しさん)した。


その魔法円(まほうえん)視界(しかい)()かず漆黒(しっこく)(つつ)まれていた館内(かんない)を、瞬時(しゅんじ)にあざやかに()らし()した──。


「──ぎゃんっ!」


光源(こうげん)にまともに瞳孔(どうこう)射抜(いぬ)かれた(おおかみ)のような合成獣(キメラ)が、たまらず悲痛(ひつう)()(ごえ)をあげる。


よほど(ひかり)強烈(きょうれつ)だったのか、痙攣(けいれん)()こし白目(しろめ)をむいて(たお)れている。


「とんだお出迎(でむか)えだなぁ………。ま、こんなのも想定内(そうていない)だったけど?──おっと二匹目(にひきめ)っ!」


侵入者(しんにゅうしゃ)(きば)をむいてかかってきた合成獣(キメラ)に、ためらうことなくラグシードは自慢(じまん)長剣(ちょうけん)をふるって一刀(いっとう)のもとに()()てた。


「そんでもってお(つぎ)は、三匹目(さんびきめ)四匹目(よんひきめ)っ………!」


無駄(むだ)のない剣筋(けんすじ)がひらめいたそのあとには、(こえ)もなく数匹(すうひき)合成獣(キメラ)(たお)()す。


()えまない合成獣(キメラ)襲撃(しゅうげき)にやや不意(ふい)をつかれながらも、とっさに応酬(おうしゅう)したその(うご)きには余裕(よゆう)さえ(かん)じられた。


(なるほど。酒場(さかば)()かされた武勇伝(ぶゆうでん)は、まんざら(うそ)ってわけでもなさそうだ………)


ラグシードの(けん)さばきを(はじ)めて()にして、ロジオンは内心(ないしん)そんな感情(かんじょう)(いだ)いていた。


(やと)(ぬし)としては護衛(ごえい)戦力(せんりょく)()がかりなことでもあり、最重要項目(さいじゅうようこうもく)のひとつでもある。


(とりあえず戦力外(せんりょくがい)ってことにはしなくてよさそうだ。第一条件(だいいちじょうけん)はクリアかな?)


もっとも(かれ)性格(せいかく)からして、武勇伝(ぶゆうでん)大幅(おおはば)脚色(きゃくしょく)はされていそうだが。


それでも(けん)(うで)には、それなりの評価(ひょうか)(くだ)さないわけにはいかなかった。


「──おまえも(だま)ってぼさっと()てないで、さっきみたいな魔法使(まほうつか)ってちっとは加勢(かせい)しろよ!」


ラグシードは合成獣(キメラ)応酬(おうしゅう)をしながら、平然(へいぜん)とロジオンにむかって悪態(あくたい)をついた。


さすがに(やと)(ぬし)への態度(たいど)という(てん)では、(かれ)はもれなく減点(げんてん)かもしれない。


(けど、それはそれで──これはこれ。(いま)状況(じょうきょう)では不満(ふまん)()ってられないし、こっちも()けてらんないなぁ………)


ぶつぶつと呪文(じゅもん)(とな)えながら、(かれ)のちょっとした()けん()(かお)をのぞかせた。


『フォーチュン・タブレット第一篇(だいいっぺん)(ほのお)魔法円(まほうえん)


(つえ)先端(せんたん)()めこまれた宝玉(ほうぎょく)に、熱波(ねっぱ)(うず)のような魔法(まほう)(みなもと)収束(しゅうそく)する。


(ひさ)しぶりの魔法(まほう)のせいか、それとも(さけ)若干気分(じゃっかんきぶん)高揚(こうよう)しているのか、ぞくぞくとした感触(かんしょく)背筋(せすじ)()()けていった。


【 ──罪人(つみびと)(きざ)赤熱(せきねつ)烙印(らくいん)! 】


(のど)(おく)(さけ)びとともにほどばしった(ほのお)(かたまり)は、そのまま(いきお)いを()びて(もん)から一直線(いっちょくせん)()びた廊下(ろうか)めがけて()(はな)たれた。


廊下(ろうか)()(あた)り。


その(かど)()がって、いっせいに()けてくる複数(ふくすう)標的(ひょうてき)が──


まるで、できそこないのような合成獣(キメラ)たちが、猛烈(もうれつ)火炎(かえん)()びせられて一気(いっき)撃退(げきたい)された。


「へぇ、なかなかやるじゃん」


いつもより(こころ)もち出力(しゅつりょく)向上(こうじょう)している(ほのお)魔法円(まほうえん)


その威力(いりょく)をまえに、(けん)片手(かたて)にラグシードから、気楽(きらく)(かん)じの賛辞(さんじ)(おく)られる。


「しかし、さっきから(みょう)気色悪(きしょくわる)(けもの)ばっかり(おそ)ってくる()がするんだが──」


「──(たし)かにね。こう()っちゃなんだけど、いかにも『失敗作(しっぱいさく)』ですって(かん)じの合成獣(キメラ)ばっかり(おそ)ってくるような()がする………」


ロジオンがそうぼやきたくなるのも無理(むり)はなかった。


もっとも(おお)いのは(おおかみ)大型(おおがた)山猫(やまねこ)、つづいて山羊(やぎ)(ひつじ)だった。


だがよく見ると、その背中(せなか)脇腹(わきばら)関節部(かんせつぶ)()っぽなど、あらゆるところからあらゆる部位(ぶい)()()たかたちで融合(ゆうごう)している。


もしくは欠損(けっそん)していたりする。
できそこないのような合成獣(キメラ)たち。


その姿(すがた)はどこか(あわ)れをさそう。


しかし、油断(ゆだん)していたら()(ころ)されるのは()()えている。


「とりあえず、かたぁつけるぞ!」


(けん)をふりかざして威勢(いせい)よくラグシードが咆哮(ほうこう)する。


その()(つぎ)から(つぎ)へと()たような合成獣(キメラ)がわいてきて、(むか)()二人(ふたり)心底(しんそこ)からげんなりさせた。


さすがに(せい)(こん)もつき()てるまえに、(かれ)らが食傷気味(しょくしょうぎみ)になったころあいで、合成獣(キメラ)たちの襲撃(しゅうげき)はようやく途絶(とだ)えた。



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