最終話 一番大切なもの
文字数 2,039文字
「お兄ちゃーん! こっちのウネは全部終わったよー!」
畑の奥から瞬也 くんが呼びかけている。
「瞬也くん、お疲れー! もうお昼だから、ご飯にしよー!」
「はーい!」
彼は体の泥をほろい、結束されたネギの束をジャンプして越えながら、こちらのほうへやってくる。
あのあと、異世界から戻ったとき、なぜか瞬也くんも一緒だった。
そしてなぜか、俺の家に居 つき、ネギ掘りの手伝いをしてくれている。
親御 さんとか心配していると思うんだが、いいのだろうか?
まあこれはフィクションだから、いいことにしよう。
ああ、「一緒に」と言ったが、そういえば「こいつら」も……
「あーあ、毎日毎日、ネギばり 掘らされで ……やってらいねでゃあ 」
「ほんと、アキタニアさ 、帰りてなあ 」
フレインとクレアだ。
なぜかこいつらもついてきたのだ。
居場所がないのはかわいそうだし、瞬也くん同様、居候 させて、ネギ掘り人員として使っている。
少ないが、給料だってちゃんと払っているのだ。
「うわーっ! このお弁当、すごーい!」
「ははは、おふくろが作ってくれたんだよ」
瞬也くんは昼飯の卵焼きにがっついている。
うーん、なんだかいいね、この光景。
「瞬也あ、んがばり 食ってんなでゃあ 。おいさもよごへ 」
「んだんだ 。おらがだだって 、腹減ってらったどー 」
まったく、こいつらときたら。
ロクに働きもしないくせに、食 い意地 だけはしっかりしているのだ。
「お前ら、一番働いてるのは瞬也くんなんだからな? ダラダラやってる連中は遠慮しろよ」
おお、やつらめ、こっちをにらんできたぞ。
「うるへじゃ 、ほじ ! おいがだだって 手伝ってやってらんでが !? 瞬也ばり ずりど !」
「んだんだ ! だいいち、ネギばり 掘らされで 、くしぇかまり でやちがねじゃ ! いっそこのネギで、わったりやってやら !」
おいおい、ネギを振り回すな。
人の口に入るものだぞ?
あーあー、ネギの「汁」がこっちへ飛んでくるってば……
「わあー、お兄ちゃん、こわいよーっ!」
「大丈夫かい、瞬也くん!? こらバカども、こんなやさしい子をいたぶって恥ずかしくないのか? 乱暴するとこうだぞ!」
俺は例によって、聖剣キャラタンポを振りかざした。
まばゆい光がほとばしり、フレインとクレアの衣服をズタズタに引き裂いた。
「はっ、はほおおおおおん!」
「はひっ、はひっ、はひょおおおおおん!」
これも例によって、二人の異世界美女はあられもない姿となり、カエルのごとく痙攣 している。
なんて無様なんだ……
しかし、しつこいが、この聖剣は服を破るしか能がないのか?
まったく、バカげている……
「お兄ちゃん、ありがとう! その剣さえあれば、害虫駆除 は完璧だね!」
『害虫駆除』ね……
はは、この子もぶっ飛んでるけど、まあ、いい子だし、かまわないか。
(くすくす、いい感じだ。この調子でこの世界をのっとり、支配してあげる。この魔王ガモチョスがね? ふふ、ふふふ、ふはははははっ!)
「めんけ どんず だでゃあ 」
「ひゃん!?」
「おらさも 触らせでけれー 」
「ひやっ! や、やめてよ、お姉ちゃ……あ、ああっ……!」
またセクハラを始めやがった。
はーあ、めんどくさい……
「やめんか、バカども!」
「はほおおおおおん!」
この聖剣はバカども退治にはちょうどいいな。
それにしても、こりない連中だ。
ま、こんな日常も、悪くはないかね。
ひょとしたら、こういうのが『一番大切なもの』、だったりしてな……
はは、おセンチかなあ。
「しゅ、瞬也……どんず ……触らせで 、けれでゃ ……」
「そさねば ……死んでも、死にきれね ……」
「あははー、お姉ちゃんたち、這いつくばって、虫ケラみたーい!」
こうして俺はまた、ネギを掘るのだった。
日差しがまぶしい、けど、温かい……
これが『幸せ』ってことなのかもな――
(完)
畑の奥から
「瞬也くん、お疲れー! もうお昼だから、ご飯にしよー!」
「はーい!」
彼は体の泥をほろい、結束されたネギの束をジャンプして越えながら、こちらのほうへやってくる。
あのあと、異世界から戻ったとき、なぜか瞬也くんも一緒だった。
そしてなぜか、俺の家に
まあこれはフィクションだから、いいことにしよう。
ああ、「一緒に」と言ったが、そういえば「こいつら」も……
「あーあ、毎日毎日、ネギ
「ほんと、アキタニア
フレインとクレアだ。
なぜかこいつらもついてきたのだ。
居場所がないのはかわいそうだし、瞬也くん同様、
少ないが、給料だってちゃんと払っているのだ。
「うわーっ! このお弁当、すごーい!」
「ははは、おふくろが作ってくれたんだよ」
瞬也くんは昼飯の卵焼きにがっついている。
うーん、なんだかいいね、この光景。
「瞬也あ、
「
まったく、こいつらときたら。
ロクに働きもしないくせに、
「お前ら、一番働いてるのは瞬也くんなんだからな? ダラダラやってる連中は遠慮しろよ」
おお、やつらめ、こっちをにらんできたぞ。
「
ひいき
して「
おいおい、ネギを振り回すな。
人の口に入るものだぞ?
あーあー、ネギの「汁」がこっちへ飛んでくるってば……
「わあー、お兄ちゃん、こわいよーっ!」
「大丈夫かい、瞬也くん!? こらバカども、こんなやさしい子をいたぶって恥ずかしくないのか? 乱暴するとこうだぞ!」
俺は例によって、聖剣キャラタンポを振りかざした。
まばゆい光がほとばしり、フレインとクレアの衣服をズタズタに引き裂いた。
「はっ、はほおおおおおん!」
「はひっ、はひっ、はひょおおおおおん!」
これも例によって、二人の異世界美女はあられもない姿となり、カエルのごとく
なんて無様なんだ……
しかし、しつこいが、この聖剣は服を破るしか能がないのか?
まったく、バカげている……
「お兄ちゃん、ありがとう! その剣さえあれば、
『害虫駆除』ね……
はは、この子もぶっ飛んでるけど、まあ、いい子だし、かまわないか。
(くすくす、いい感じだ。この調子でこの世界をのっとり、支配してあげる。この魔王ガモチョスがね? ふふ、ふふふ、ふはははははっ!)
「
「ひゃん!?」
「
「ひやっ! や、やめてよ、お姉ちゃ……あ、ああっ……!」
またセクハラを始めやがった。
はーあ、めんどくさい……
「やめんか、バカども!」
「はほおおおおおん!」
この聖剣はバカども退治にはちょうどいいな。
それにしても、こりない連中だ。
ま、こんな日常も、悪くはないかね。
ひょとしたら、こういうのが『一番大切なもの』、だったりしてな……
はは、おセンチかなあ。
「しゅ、瞬也……
「
「あははー、お姉ちゃんたち、這いつくばって、虫ケラみたーい!」
こうして俺はまた、ネギを掘るのだった。
日差しがまぶしい、けど、温かい……
これが『幸せ』ってことなのかもな――
(完)